2009年9月9日水曜日

E・ヤング=ブルエール著、矢原久美子訳 (2008) 『なぜアーレントが重要なのか』みすず書房

アレントのよき理解者であり伝記作家でもあるヤング=ブルエールによって書かれ、アレントの『全体主義的の起源』、『人間の条件』、『精神の生活』を三大書として、それらを中心にアレントを語る本書は、アレントについて興味をもった人が手にするには非常にまとまった本かとも思います。

著者のアレント理解は、例えば次のような箇所に現れています。


新しい概念は絶えず新しい現実に適合したものにならなければならない。そうでなければ、思考を束縛するものにもなりうる。アーレントが思考や言葉に求めたのは、新しい世界に適していること、極り文句を失効させうること、考えなしに受け入れられた思想を拒否すること、紋切り型の分析を打ち破ること、嘘や官僚的まやかしを暴露しうること、そして、人々がプロパガンダによるイメージへの依存から脱するのを助けうることである。(12ページ)


日本の英語教育界では、紋切り型の言葉遣いで思考放棄することが奨励されているようにすら思える時を、しばしば経験しますので、私にとって上のようなアレントは非常に魅力的です。

著者は続けます。


ふつう詩人や詩的思想家たちは、言葉が私たちを無思考への誘惑から解放するという期待のもとで生きている。彼らは、「出来事の内なる真実」を表しつつ、実際に起こったことを物語る責任を担う。ハンナ・アーレントは、そうした稀な存在だった。詩への才能と愛をもった思想家でありながら、詩人というよりもむしろ分析者で実践を重んじていた。そして、物事を構成要素に分解し、それらがどのように作用しているかを見せるために、区別し差異化するという手法をとった。(12ページ)


私は最近ナラティブに関心を持っていますが、ナラティブあるいは語るということは、決して無責任で奔放な放言ではないことをここで再確認する必要があるでしょう。また私は詩に対しても分析に対しても能力を有しませんが、せめてアレントに憧れる―私はここで敢えて青臭い言葉を使います―ことで、自分を律したいと思います。


アレントの注目すべき論点は、権力に関するものですが、著者はそれを次のようにまとめています。


人間の自由がどのように経験され保存されたかを理解しようというアーレントの努力にとって重要な論点は、政治について考えたり政治を既定する際には、二つの根本的な類型があるということだ。一方では、政治とは統治であり、特定の人びと (一人であろうと二人であろうと多数であろうと) による脅しや暴力の使用を必要とするような他者の支配であると考えることができる。他方では、彼女がそうしたように、語り行為する存在として集まる時に人びとがもつ、権力の組織あるいは構成として、政治を考えることができる。彼女が強調するのは、構成された政体において人びとの権力をどう保存するのかということである。つまり、<権力は人民に> potestas in populo という考え方である。 (90-91ページ)



折からも政権交代で、私たち日本に住む者は、自由と権力をどう使いこなすかを試されようとしています。そういった観点から読んでも面白い本ではないでしょうか。


⇒アマゾンへ





0 件のコメント: