2013年3月28日木曜日

毎日新聞取材班 (2013)『境界を生きる 性と生のはざまで』毎日新聞社



私が毎日新聞を購読し続けている理由は、署名記事が多いことと、社会的マイノリティに対する報道が充実していることの二つです。

この本の基になった「境界を生きる」の連載は、当時「性分化疾患」や「性同一性障害」についてほとんど何も知らなかった私にとって、とても勉強になるものでした。世間の無知から生じる偏見と差別で大きく傷つけられている性的マイノリティの人たちへの理解を深めなければと強く思わされました。

そんな話をある時雑談でしていたら、ある中学校の先生が「私の学校にもそんな子が一人います」と大いに興味を示しました。私は連載の切り抜きなどもしていなかったので、「ぜひ図書館などで過去の毎日新聞を読んでください」とだけしか言えませんでしたが、このたびこの連載が書籍化されました。

学校教師は、やはりこの問題に対してもきちんとした知識をもつべきかと思います。生物学的・生理学的個人差を、学校などにおいて社会的トラウマにしてしまうことだけは避けなければなりません。

この連載は、石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞(草の根民主主義部門・2010年度)および第29回ファイザー医学記事賞優秀賞を受賞したそうです。この書籍を通じて、私たちが人間の多様性について理解を深められますように。






2013年3月24日日曜日

The Purdue Online Writing Lab (OWL) への意見を募集します




英語を書こうとする人にとって、The Purdue Online Writing Lab (OWL) ほど便利なサイトは他になかなかありません(知らなかった人はぜひブックマークして活用してください)。



The Purdue Online Writing Lab (OWL)
http://owl.english.purdue.edu/



この度、その管理をしているJoshua Paizさんにお会いすることができました。Josh曰く、ユーザーのコメント(特に改善要求など)があればぜひ知りたいとのことでした。

Onlineの文化は、みんなが共有し育ててゆくものです。OWLユーザーの皆様、どうぞ何かごコメントがあれば、下のフォーマットにご記入ください。適宜私がまとめてJoshに送ります。コメントは英語で書いていただければそのまま転送できるのでありがたいのですが、日本語でも構いません(私が翻訳します)。

Online上で「無料」で得られる知識の背後には血の通った人間がいます。彼・彼女らはユーザーの協力を欲しています。ICTに関しては、技術的なことを覚えるだけでなく、このような文化を学びその文化に参加することが重要だと思います。共に文化を支えませんか?

皆さん、どうぞ(可能ならば英語で)下記にご意見をお寄せください。

ウェブが地球規模での善意の空間になりますように。









2013年3月23日土曜日

卒業式挨拶: 生きることと学ぶこと



以下は私が本日講座の卒業式でおこなった挨拶です。卒業生・修了生の皆さんの幸せをお祈りします。



卒業生・修了生の皆さん、おめでとうございます。

皆さんはこれからそれぞれ新しい世界に飛び出してゆくわけですが、人生には思いがけないことが起こりえます。しかし「思いがけないこと」と言っても、東京電力福島原発事故もそうですが、実はいくつかの場合、起こる前からその可能性や兆しを知ることはできます。それでも「思いがけない」ことを引き起こしてしまうのが、私たち人間の性です。私たち人間はとかく無知で傲慢です。無知であるから傲慢になり、傲慢であるから無知になるという悪い循環に、私たちは陥りがちです。

しかし良いニュースがあります。私たちはその悪い循環から抜け出すことができます。私たちは学ぶことができるからです。人類は学ぶことを学んできたからです。 学ぶとは、現実に対して謙虚で正直であることによって、生きるための対応力を自らの中に見出すことです。皆さんは教育学部・教育学研究科で学び、ことさらにこの学ぶということは何かを学びました。この学びは皆さんの中に根付いています。おそらくは皆さんが自覚する以上に。

皆さんは新しい世界の中で新人となりますから、当然失敗もするでしょう。しかし、”What does not kill me, makes me stronger.” という言葉もあります(注1)。正直で謙虚であり、学ぶことを忘れなければ、失敗はあなたをより強くします。

もちろん人間は死すべき存在ですから、やがて力は衰えるに過ぎないと考える方もいるかもしれません。しかし、「力は弱さの中でこそ十分に発揮される。だから、むしろ大いに喜んで自分の弱さを誇りましょう」(注2)という言葉もあります。東北大震災を始めとして、打ちのめされるような状況に追い込まれた方々の弱さの中に、私たちが人間の尊厳、人間としての偉大さという力を見出すことは決して珍しいことではありません。

だから皆さん、どうぞ学び続けてください。学ぶということは生きることです。生きることは学ぶことです。無知と傲慢にとどまることは、生命を損なうことです。正直と謙虚さを保ち、学び続けることが生きることです。自ら幸福になり、他人をも幸福にすることです。

皆さんが、これからますます豊かに学び続けることを願い、卒業生・修了生に贈る言葉とさせていただきます。 本日は誠におめでとうございました。





(注1)ニーチェが『この人を見よ』で述べた "Was ihn nicht umbringt, macht ihn stärker." (What does not kill him, makes him stronger)という言葉に基づく。(参考: http://en.wikiquote.org/wiki/Friedrich_Nietzsche

(注2)新約聖書「コリントの信徒への手紙2 12章9節」に基づく。(参考:http://www.seiai.net/0507seisyo.html



















2013年3月14日木曜日

瀧沢広人 (2013)『英語授業のユニバーサルデザイン つまずきを支援する指導&教材アイデア50』明治図書



次の4月中旬に発売される『英語教育5月号』(大修館書店)に、瀧沢広人先生による『英語授業のユニバーサルデザイン つまずきを支援する指導&教材アイデア50 (目指せ! 英語授業の達人)』(明治図書)の書評を掲載していただくこととなりました。

本が面白かったので、その良さを伝えるべく書評は結局2バージョン作成しました。そのうちの一つを編集部に選んでもらって、それを5月号に掲載してもらいます。以下に掲載するのは、選ばれなかった方の書評の最終段落です。

もしクラスに "No, I bon't"と書いたり、英単語の大文字が小文字になっただけで音読が困難になる生徒さんがいたら、ぜひ本書を手にとってみてください。



英語という教科は、幕末・明治以来、エリートによる実利追求の科目としばしば認識されてきた。英語の成績によってエリートを選別し、そのエリートが日本の経済成長をもたらすという思惑が今も英語教育界からも透けて見えてくる。だが「文化とは生命を大切にすること」(住井すゑ)ということばからすれば、国の文化的成熟度は、経済成長ではなく、国民がどれだけ一人ひとりに与えられた生命を互いに大切にしているか、で判明する。とかく大学進学や海外留学を当然視しがちな英語教育界で、本書のように、英語の力をつけようにもつけられない生徒に光が当たった意義は大きい。英語教育界が各種障害をもった生徒を「同じでもなく、違うでもなく」(綾屋紗月『つながりの作法』)扱うことができた時、私たちも少しは成熟できるのだろう。














組田幸一郎著 (2013)『基礎からのシグマベスト 高校これでわかる基礎英語 (新課程版)』 文英堂



この度、組田幸一郎先生が書かれた学習参考書『基礎からのシグマベスト 高校これでわかる基礎英語 (新課程版)』に推薦文を書かせていただきましたので、出版社の許可を得て、ここにも転載します(スペースの関係で実際に掲載されたのは、以下の文章の前半だけですが、ここでは全文を掲載します)。

推薦文末尾にも書きましたが、この本をきっかけの一つとして、英語がわかり、英語を身につける人が一人でも増えますように。また、この日本で英語を学ぶことの意義についての考察も少しでも深まりますように。


学習英文法の三大構成要素は、英語、教師、生徒です。学習英文法は、一方で英語を熟知し、他方で英語学習に困難を覚える生徒のことを共感的に理解している教師によってもっとも良く書かれます。

ですから学習英文法は、学術研究用の英文法と異なります。学術研究用英文法の構成要素は二つで、それは英語と研究者です。研究者はとにかく英語の全貌に迫ろうと、ありとあらゆる記述・説明を行います。そんな英文法の読者は、同じように毎日英語のことばかり考えている研究者ですから、読者への配慮などは二の次です。とにかく正確に包括的にと、記述・説明はどんどん高度になってゆきます。

そんな学術研究用英文法を生徒がそのまま読んでも、たいていの場合は困り果ててしまいます。大切なところと瑣末なところ、最初のうちに知っておくべきところと後になって学ぶべきところ、一般化していいところと個別事象として理解するべきところ ― これらが判断できずに、膨大で緻密な記述・説明に呑み込まれてしまうからです。

だからよい学習英文法は、生徒をよく知る英語教師によって書かれます。生徒が常日頃何に・どのように感性を働かせ、何を・どのように考えることを得意に(あるいは不得意に)しているかを熟知している教師(あるいは教師の心をもった研究者)によりデザインされます。学習英文法と学術研究用文法は、英語を基盤にする点では共通していますが、その用途とデザイン原理、ひいては著者と読者において大きく異なるのです。

さらに学習英文法は、生徒が英語の仕組みを理解することだけでなく、体得することまでも含めてデザインされ、書かれます。英語の仕組みを身につけるには、何を・どのように・どのくらい体験すればよいかについてのある程度の見通しをもった英語教師の見識がここでも必要になります。文法を読んだ後に読者が何をするべきかについても配慮しているのがよい学習英文法です。

こういった点で、私は本書をよき学習英文法の一冊としてお勧めします。

本書はいくつかの特徴をもっています。

第一に、本書は生徒が実感できるような解説や説明を重んじています。各章冒頭にある良雄と理恵(そして犬のポチとテラ)のエピソードは何気ないようですが、このエピソードの生活実感から、これまでとかく抽象的に扱われ、多くの生徒のつまづきの石となっていた三人称・受動態・比較表現・仮定法などがうまく導入されます。

第二に、本書は日本語をうまく使っています。2013年4月入学の高校1年生から、学習指導要領という文部科学省の方針によって「授業は英語で行なうことを基本とする」ことになります。ですが、生徒が十数年間思考の道具として使ってきた日本語をうまく使わない手はないでしょう。本書は、直訳と自然な日本語翻訳の両方を提示したり、日本語の仕組みと英語の仕組みの違いを対比させたりして、生徒がもっている最高の知的資産である日本語をうまく使って英語を理解させようとしています。

第三に、本書は生徒がつまづきやすい箇所を効果的に扱っています。通常は「形容詞、分詞の形容詞的用法、関係代名詞、to不定詞の形容詞的用法」などとして別々に扱われがちな英語の仕組みを「飾る」と働きとしてまとめているのがその好例です。「飾る」働きにおいては、英語と日本語では語順が異なることが多いので、このつまずきやすい箇所をまとめて、しかも本の最初の方で扱っているのは本書の大きな特徴の一つと言えるでしょう。

第四に、本書は生徒が英語を身につけるための手段と方法を具体的に提示しています。この本を読む生徒の皆さんは、ぜひ章末の英文を「リスニング・音読・筆写」してください。ダウンロード音声も親切で、ゆっくりな速度と自然な速度の二つのバージョンで英文朗読が吹きこまれています。どうぞダウンロード音声を使って、素直に「リスニング・音読・筆写」を行なってください。水泳の理論をいくら机の上で勉強してもそれだけで泳げるようにはなれませんよね。英語も同じです。英語の仕組みを学んだら、次にはその仕組みが多用されている(しかも結構おもしろい)英文を何度も聞いて、音読して、書き写してください。

このように、本書は中学英語の復習から高校基礎レベルの英語を学ぼうとする高校生にお勧めの本です。教室や少人数学習、個人学習の場でうまく活用できるでしょう。それだけでなく、英語をさっぱり苦手としていて英語をやりなおそうとする社会人にもお勧めできます。さらには英語教師の方々、「英語教育学」という研究をなさっている方々にも一読をお勧めします。この本をきっかけの一つとして、英語がわかり、英語を身につける人が一人でも増えますように。また、この日本で英語を学ぶことの意義についての考察も少しでも深まりますように。












2013年3月7日木曜日

寺島隆吉先生(岐阜大学名誉教授)を囲んでの懇談会を3/29(金)に広島大学で開催します。





英語教育界で独自の威光を放ち続け数々のご著書を出版され、また最近では大著『肉声でつづる民衆のアメリカ史』の翻訳という偉業を終えられた寺島隆吉先生(岐阜大学名誉教授)が、広島方面にお越しですので、広島大学にまで足を運んでいただき、寺島先生を囲んでの懇談会を開くことにしました。(寺島先生には改めて深く感謝します)。

「懇談会」という名称が示すように、気楽な会にします。寺島先生には何の事前準備もせずに来ていただいて、その場で出た質問について随時お答えしていただく形式とします。英語教育や翻訳について幅広くまた奥の深いお話が楽しめるのではないかと期待します。



寺島隆吉先生を囲んでの懇談会


日時:2013年3月29日(金曜) 15:00 - 17:00

場所:広島大学教育学部もしくはその周辺
(詳細未定:参加申込者にはメールでお知らせします)

会費など:無料

参加申込:必要です。下記のフォーマットにお名前・ご所属・返信用メールアドレスをご記入ください。もし何か寺島先生に聞いてみたいことがあればお知らせください。

申込締切:3月21日(木曜)


また懇談会の後、希望者だけを対象に軽い夕食会ももてればと思っております(会費はリーズナブルな値段にする予定です)。

ご参加希望の方は、この下にあるフォーマットに必要事項を記入して送信 (submit) のアイコンを押してください。










国際教育総合文化研究所 寺島研究室
http://www42.tok2.com/home/ieas/

寺島研究室ブログ「百々峰だより」
  http://pub.ne.jp/tacktaka/