政治哲学に「現状を打破するオルターナティブ」を期待する読者は、そうした彼女 [=アレント] のはっきりしない姿勢にかなり苛々させられてしまう。しかし自分の考えを「唯一の正しいオルターナティブ」として読者に押し付けるべきではないという姿勢を保ち続けることこそが、彼女なりの世界観・価値観の帰結と見ることもできる。「全体主義」が、西欧近代が不可避的に抱えている矛盾を凝縮した現象だとすれば、それを克服できるオルターナティブを一理論家が呈示するというのは、ある意味、極めて僭越な振る舞いである。それを承知しているからこそ、アーレントは敢えて処方箋らしきものを示そうとしなかったのだ、と私には思われる―そう思えるか否かが、アーレントのファンになるかどうかの分岐点になるだろう。(34-35ページ)
私なりのアーレント理解に基づく私の見解では、誰の世界観が一番ましで、信用できるかが問題ではない。そういう発想自体がズレている。肝心なのは、各人が自分なりの世界観を持ってしまうのは不可避であることを自覚したうえで、それが「現実」に対する唯一の説明ではないことを認めることである。(57ページ)
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