「外界の膨大な知識の無限性を恐れず、自分の志向性の波長と合う信号を高速でサーチし続け、自分という有限性へマッピングする」(本書『ウェブで学ぶ』187ページ)
ことができるかどうかだと思う。それができるだけの動機づけがなされており、基礎的な読み書きと論理的思考力さえあればウェブは無限といっても過言ではないぐらいの可能性を提供してくれる。
このような楽観論がますます現実味を帯びているのは、本書のテーマであるオープンエデュケーションが進行しているからだ。
オープンエデュケーションとは、簡単に言えば「自分のおかれた環境で、利用できるものは何でも使って学ぶこと」(48ページ)である。この意味では公立図書館もオープンエデュケーションの一端だが、言うまでもなく昨今はインターネットがこの流れを爆発的に加速させている。インターネットによって開かれた学びの機会は、学習者だけでなく教育者にも大きな影響を与え、内容と方法の両面において、学習だけでなく教育も進化しているからだ。
このインターネットとオープンエデュケーションの流れは、たとえばThe Cape Town Open Ecucation Declarationなどによって明文化され自覚的な動きとなっている。この宣言の主要部分は以下のとおりである。
インターネットをオープンなものにしておかなければならないという思想は、アメリカ(特に西海岸)的思想と親和性が高い。以下はクリントン国務長官のスピーチである。―しかし「インターネットはグローバルなものであるべきだ」という思想は、存外にローカル(特にアメリカ的)なものではないかと梅田さんは指摘している。このあたりはぜひ本書を読んでほしい。
すでに各種の教育機関はオープンエデュケーションに大きく舵取りしている。本書に掲載されているいくつかの例をあげる。
高等教育機関
MIT OPEN COURSEWARE
http://ocw.mit.edu/index.htm
Open Learning Initiative
http://oli.web.cmu.edu/openlearning/
LearningSpace
http://openlearn.open.ac.uk/
Khan Academy
http://www.khanacademy.org/
Connexions
http://cnx.org/
初等・中等教育機関
The National Science Digital Library (NSDL)
http://oli.web.cmu.edu/openlearning/
Edutopia
http://www.edutopia.org/
Curriki
http://www.curriki.org/xwiki/bin/view/Main/WebHome
学習コミュニティ
Ning
http://www.ning.com/
Smart.fm
http://smart.fm/
英語のウェブではこれだけのオープンエデュケーションの環境が整い、さらに発展しようとしている。大学英語教育の目的は、「英語を学ぶ」学生を、迅速に「英語で学ぶ」学生にすることだと思えてくる。
英語とウェブを使いこなす意欲と能力さえあれば、いくらでも学べる。
逆に言えば、英語とウェブのどちらか一方でも使いこなす意欲と能力がなければ、可能性が大きく損なわれる。
ましてや英語もウェブもどちらも使いこなす意欲と能力がなければ、その者の知力と、英語とウェブの両方を使いこなす者の知力の格差は絶望的に大きなものになる。
世界の知的格差は、これまでの地理的要因ではなく、英語とウェブの使用という要因により決定されるように変化してきている。これまでは「先進国」に生まれてきたらそれなりに知力がつき、「途上国」だと知力はつけられなかった。だがその地理的要因はインターネットにより埋められつつある。英語ができてインターネットにアクセスさえできればどんどん学べるような環境が整いつつある。英語とウェブの両方を使いこなす意欲と能力が恐ろしいほどに重要になってきている。世界は大変化のただ中にある。
この本の著者二人が共に語っているのが、このような認識が日本語圏のウェブ世界ではまったく共有されていないことだ。いたずらに危機感を煽るつもりなどないが、日本語でしか情報や知識を得ない者は安穏としすぎているのではないか。
⇒アマゾンへ:『ウェブで学ぶ ――オープンエデュケーションと知の革命』
著者のブログ
梅田望夫
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/
飯吉透
http://d.hatena.ne.jp/toruiiyoshi/
Webのインパクトに関する本の紹介記事
梅田望夫(2006)『ウェブ進化論』ちくま新書
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/review2006.html#060327b
梅田望夫(2007)『ウェブ時代をゆく』ちくま新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2007/11/blog-post.html
梅田望夫(2008)『ウェブ時代5つの定理』文藝春秋
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/04/5.html
斎藤孝x梅田望夫(2008)『私塾のすすめ--ここから創造が生まれる』ちくま新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/05/x.html
デビッド・ヴァイス、マーク・マルシード著、田村理香訳(2006)『Google誕生』イースト・プレス
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/review2006.html#060928
ドン・タプスコット、D.ウィリアムズ著、井口耕二訳(2008)『ウィキノミックス』日経BP社
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/09/dbp.html
森健(2006)『グーグル・アマゾン化する社会』光文社新書
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/review2006.html#060927
西垣通(2007)『ウェブ社会をどう生きるか』岩波新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2007/10/blog-post_16.html
ニコラス・G・カー (2008) 著、村上彩訳 『クラウド化する世界』翔泳社
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2009/10/g.html
城田真琴 (2009) 『今さら聞けないクラウドの常識・非常識』洋泉社新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2009/10/2009_26.html
ジェフ・ハウ著、中島由華訳 (2009) 『クラウドソーシング』 ハヤカワ新書juice
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/02/juice_01.html
クリス・アンダーソン著、高橋則明訳(2009)『フリー』NHK出版
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/04/2009nhk.html
遠藤和子(2009)『Google英文ライティング』講談社インターナショナル
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/04/2009google.html
ゴードン・ベル&ジム・ゲメル著、飯泉恵美子訳 (2010) 『ライフログのすすめ』 ハヤカワ新書juice
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/02/juice.html
西垣通 (2010) 『ネットとリアルのあいだ』ちくまプリマー新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/02/2010.html
村井純 (2010)『インターネット新世代』 岩波新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/01/2010_27.html
Information Communication Technology (ICT)に関する記事
http://yanaseyosuke.blogspot.com/search/label/ICT
結局、オープンエデュケーションとは、テクノロジーの力を得て、教育がついに手にすることができた「自己拡張と自己進化のための恒久的な仕組み」なのだ、と思います。また同時に、教育に関わる様々な文化や制度も変容されていく。たとえば、この「自己拡張と自己進化」を制約しようとする呪縛を解くクリエイティブ・コモンズのような、新たな文化制度が生まれる。
このような「仕組み」を手に入れられたことで、21世紀の「学びと教え」は、世界中の人々の情熱と叡智を糧として、スピード感を持って有機的に成長していくことが可能になったのです。(260ページ:飯吉透)
このインターネットとオープンエデュケーションの流れは、たとえばThe Cape Town Open Ecucation Declarationなどによって明文化され自覚的な動きとなっている。この宣言の主要部分は以下のとおりである。
1. Educators and learners: First, we encourage educators and learners to actively participate in the emerging open education movement. Participating includes: creating, using, adapting and improving open educational resources; embracing educational practices built around collaboration, discovery and the creation of knowledge; and inviting peers and colleagues to get involved. Creating and using open resources should be considered integral to education and should be supported and rewarded accordingly.
2. Open educational resources: Second, we call on educators, authors, publishers and institutions to release their resources openly. These open educational resources should be freely shared through open
licences which facilitate use, revision, translation, improvement and sharing by anyone. Resources should be published in formats that facilitate both use and editing, and that accommodate a diversity of technical platforms. Whenever possible, they should also be available in formats that are accessible to people with disabilities and people who do not yet have access to the Internet.
3. Open education policy: Third, governments, school boards, colleges and universities should make open education a high priority. Ideally, taxpayer-funded educational resources should be open educational resources. Accreditation and adoption processes should give preference to open educational resources. Educational resource repositories should actively include and highlight open educational resources within their collections.
http://www.capetowndeclaration.org/read-the-declaration
インターネットをオープンなものにしておかなければならないという思想は、アメリカ(特に西海岸)的思想と親和性が高い。以下はクリントン国務長官のスピーチである。―しかし「インターネットはグローバルなものであるべきだ」という思想は、存外にローカル(特にアメリカ的)なものではないかと梅田さんは指摘している。このあたりはぜひ本書を読んでほしい。
すでに各種の教育機関はオープンエデュケーションに大きく舵取りしている。本書に掲載されているいくつかの例をあげる。
高等教育機関
Open Courseware Consortium
MIT OPEN COURSEWARE
http://ocw.mit.edu/index.htm
Open Learning Initiative
http://oli.web.cmu.edu/openlearning/
LearningSpace
http://openlearn.open.ac.uk/
Khan Academy
http://www.khanacademy.org/
Connexions
http://cnx.org/
初等・中等教育機関
The National Science Digital Library (NSDL)
http://oli.web.cmu.edu/openlearning/
Edutopia
http://www.edutopia.org/
Curriki
http://www.curriki.org/xwiki/bin/view/Main/WebHome
学習コミュニティ
Ning
http://www.ning.com/
Smart.fm
http://smart.fm/
Free eBooks by Project Gutenberg
英語のウェブではこれだけのオープンエデュケーションの環境が整い、さらに発展しようとしている。大学英語教育の目的は、「英語を学ぶ」学生を、迅速に「英語で学ぶ」学生にすることだと思えてくる。
英語とウェブを使いこなす意欲と能力さえあれば、いくらでも学べる。
逆に言えば、英語とウェブのどちらか一方でも使いこなす意欲と能力がなければ、可能性が大きく損なわれる。
ましてや英語もウェブもどちらも使いこなす意欲と能力がなければ、その者の知力と、英語とウェブの両方を使いこなす者の知力の格差は絶望的に大きなものになる。
世界の知的格差は、これまでの地理的要因ではなく、英語とウェブの使用という要因により決定されるように変化してきている。これまでは「先進国」に生まれてきたらそれなりに知力がつき、「途上国」だと知力はつけられなかった。だがその地理的要因はインターネットにより埋められつつある。英語ができてインターネットにアクセスさえできればどんどん学べるような環境が整いつつある。英語とウェブの両方を使いこなす意欲と能力が恐ろしいほどに重要になってきている。世界は大変化のただ中にある。
この本の著者二人が共に語っているのが、このような認識が日本語圏のウェブ世界ではまったく共有されていないことだ。いたずらに危機感を煽るつもりなどないが、日本語でしか情報や知識を得ない者は安穏としすぎているのではないか。
⇒アマゾンへ:『ウェブで学ぶ ――オープンエデュケーションと知の革命』
著者のブログ
梅田望夫
http://d.hatena.ne.jp/umedamochio/
飯吉透
http://d.hatena.ne.jp/toruiiyoshi/
Webのインパクトに関する本の紹介記事
梅田望夫(2006)『ウェブ進化論』ちくま新書
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/review2006.html#060327b
梅田望夫(2007)『ウェブ時代をゆく』ちくま新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2007/11/blog-post.html
梅田望夫(2008)『ウェブ時代5つの定理』文藝春秋
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/04/5.html
斎藤孝x梅田望夫(2008)『私塾のすすめ--ここから創造が生まれる』ちくま新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/05/x.html
デビッド・ヴァイス、マーク・マルシード著、田村理香訳(2006)『Google誕生』イースト・プレス
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/review2006.html#060928
ドン・タプスコット、D.ウィリアムズ著、井口耕二訳(2008)『ウィキノミックス』日経BP社
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/09/dbp.html
森健(2006)『グーグル・アマゾン化する社会』光文社新書
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/review2006.html#060927
西垣通(2007)『ウェブ社会をどう生きるか』岩波新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2007/10/blog-post_16.html
ニコラス・G・カー (2008) 著、村上彩訳 『クラウド化する世界』翔泳社
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2009/10/g.html
城田真琴 (2009) 『今さら聞けないクラウドの常識・非常識』洋泉社新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2009/10/2009_26.html
ジェフ・ハウ著、中島由華訳 (2009) 『クラウドソーシング』 ハヤカワ新書juice
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/02/juice_01.html
クリス・アンダーソン著、高橋則明訳(2009)『フリー』NHK出版
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/04/2009nhk.html
遠藤和子(2009)『Google英文ライティング』講談社インターナショナル
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ゴードン・ベル&ジム・ゲメル著、飯泉恵美子訳 (2010) 『ライフログのすすめ』 ハヤカワ新書juice
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西垣通 (2010) 『ネットとリアルのあいだ』ちくまプリマー新書
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/02/2010.html
村井純 (2010)『インターネット新世代』 岩波新書
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Information Communication Technology (ICT)に関する記事
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2 件のコメント:
柳瀬先生、
日本の英語教育に関心があり、このところ日本の英語教育についてリサーチをしていて先生のブログに出会いました。
非常に興味深い記事が多くあり、これからもゆっくりと以前の記事にさかのぼって読ませていただきたいと思っているところです。
ところで、最新記事で学生の方へ古典の読書を勧められていることもあり、LibriVoxをご紹介したくてコメントします。http://librivox.org/
これは著作権の切れた古典をボランティアが朗読して寄贈しているマルチリンガルの朗読図書館ですが、最近内容が加速度的に充実し、有名な古典をかなり網羅するようになりました。 ボランティアが読むため、朗読の質にばらつきがあり、聴きにくさを感じることもあるかと思いますが、素晴らしい朗読が増えています。 また、硬質の本の充実もうれしいことです。
私は趣味を兼ね、このサイトを使う道案内になるような記事を、児童書の古典を中心に書いてきましたが、より骨のある本もぜひ聴いていきたいと思っています。
この記事のリンクにありませんでしたので、ご存知とは思いましたが、コメントさせていただきました。
いつも深く考えさせられる記事をありがとうございます。
LibriVox
http://librivox.org/
オープン・education
webで英語学習
Dillさん、
コメントならびにLibriVoxのご教示ありがとうございました!
LibriVoxの情報は早速ブログに追加することにします。
それからブログ「英語で本三昧」
http://corianderuk.blog80.fc2.com/
も素晴らしいですね。
RSS購読させていただきます。
私はTwitterもやっていますので、
http://twitter.com/#!/yosukeyanase
面白い記事はどんどんtweetして行きますね。
私はよい情報はどんどん広めようと思っています。
よかったらこれからも情報交換をお願いします。
ありがとうございました!
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