このようにややこだわるのも、どうもこの"crowdsourcing"と"cloud computing"が新しい知性の形のように私には思えてならないからだ。"Web.2.0"と同じように流行語に過ぎないという意見もあるが、私はこの二つが知のあり方を世界的に変えているような気がする。iPhoneで様々のアプリを使い、Gmail, Google Calenderをあらゆる場所から活用し、各所のコンピュータをDropBoxで同期させ始めてから特にその思いが強くなっている。
というわけで半年前に読みっぱなしにしていた本書(『クラウドソーシング』)をこのブログでも紹介する。私なりに選んだ五つの言葉で、この本が言おうとしていること (の一部) を伝えてみようと思う。
クラウドソーシングはインターネットと密接にかかわっているが、その本質はテクノロジーには関係ない。(20ページ)
クラウドソーシングはコンピュータ技術者の関心事というよりは、「ニコ動」の参加者の関心事というべきかもしれない (「バーレーンの実況が日本語にしか聞こえない件」はご存知ですか?)。もちろんクラウドソーシングはこのようなおふざけだけにとどまらず、「オープンソース」の伝統 ― 10年は一昔である! ― につらなるものなのだろうけど。
「誰であろうと関係ない。頭のいい人びとのほとんどは他人のために働く」。(ビル・ジョイ サン マイクロシステムズ共同創立者) (19ページ)
この人間の社会性を喚起したところが、現代の知的大変動だと私は思う。もちろん人びとが協力するのは太古の昔からだが、インターネットはその協力関係に時空を越えさせた。
「多様性は能力に勝る」(スコット・ペイジ『「多様な意見」はなぜ正しいのか』) (184ページ)
これは少数の賢人が支配する社会よりも、独自に考える多数の個人が自由に相互作用を起こす社会の方が好ましいというハイエクの考えにもつながるのだろう。
作業の性質を単純にすることも重要だ。くりかえすが、これは群衆が愚鈍だからではなく、多様だからである。(400ページ)
だが人びとが連なれば自動的にいいことが起こるわけでもない。人びとが協力し連帯しやすいようなシステムをデザインすることが必要だ。
「私が知っている集団的知性の実例では、集団はかならず善意の個人によって導かれるか、鼓舞されていた。こういう個人は集団を集中させ、ある場合には、集団としての意識の機能不全を正していた」 (Jaron Lanier "DIGITAL MAOISM: The Hazards of the New Online Collectivism") (398ページ)
だから制度的権力に頼ってではなく、自発的に生じた活力によって現れるにいたった、少数の人びとが、活力=権力=powerの大きさを自覚しながら、魅力ある提案やデザインを提示することが重要なのだろう。
日本の英語教育界でも"crowdsourcing"はできないものか。
一つは、ウィキペディア記事の拡充。これは全国で20人ぐらいのボランティアがちょっと頑張れば、ウィキペディア上の英語教育関連の記事が質量ともにぐんとよくなるかもしれない。それにつられてボランティアも増えるかもしれない。最近の若い人は紙の本は読まずに、すぐにネットでググるのだから、このウィキペディアキャンペーンは日本の英語教育界の発展の大きな力となるのではないか。
もう一つは、中高生などによる「小ネタ」集め。単語の覚え方、間違いやすいスペリングの覚え方、文法理解のためのたとえ話等々、中高生は彼/彼女らなりに頭を使って、大人では思いつかないような面白い方法を考案している。生徒の声をよく拾う教師はそういった小ネタをよく知っているが、その小ネタは小規模の範囲でしか広がらない。うまくデザインされたウェブサイトを作ってそういった小ネタを投票し相互評価する文化を創り上げれば、英語学習はもっと楽しくなるのではないか。
難しい? しかし、こういう言葉もある。
It's simple. ... We either get used to thinking about the subtle processes of learning and sharing knowledge in dispersed, transient networks. Or we perish.
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