下記が報告書に掲載する「簡約版」です。
大学教育学部へのケースメソッド導入についての批判的考察(簡約版)柳瀬陽介 (英語文化教育学講座)1 「ケースメソッド」とは
高木・竹内は、「ケースメソッド」を「参加者がケース教材をもとにした討議を重ねることで、実践に備え得る叡智を紡ぎ、困難に立ち向かう姿勢と態度を涵養するための教育方法」 (高木・竹内 2006: i) と定義する。高木・竹内によればこのケースメソッドは、アメリカ企業文化での「トップダウンによる仕事の分業(分化)」→「それぞれの部門での部分目標達成 (部分最適) 」→「部分最適の集積が必ずしも全体最適に至らない(合成の誤謬)」という<分化→部分最適→合成の誤謬>という経営問題に対応するもの (同上 3-4ページ) である。このケースメソッドで育成される力を、高木・竹内は「統合力」と命名し、それを(1) 自律的に職務を遂行する能力 (同上 49ページ)、(2) 人とつながる能力 (同上 74ページ)、(3) 人を束ね、方向づける能力 (同上 103ページ) の要素に分けて分析している。この高木・竹内の分析を受けて、報告者はケースメソッドを「従来の思考・設計・制度では対応しがたい複合的な問題を、ケース記述を基にした議論により、統合的かつ協調的に解決 (あるいは解消) してゆくことを教室で学ぶ方法」として理解した。
2 丸山実践
ビジネススクールにおけるケースメソッドを教育学部で展開しようとする丸山実践は、「多様性を理解する」、「書き言葉優先」、「授業での結論を定めながらもそれを討議で探り当てる」、「記述が豊かなケースを用いる」といった特徴をもっている。
3 報告者の実践
他方、報告者は「ケースメソッド」という自覚なしにそれと類似した教育実践を行なっていた。それは、学習者を精神的・身体的に解放するための便法の一環として簡略的に実行していたものだったが、その特徴は「多様性を理解する」、「話し言葉を重視」、「結論は決めていない『開かれた問い」を扱う」、「『神話的エピソード』で参加者の想像力・想起力を喚起する」といった特徴をもっている。
4 課題
高木・竹内実践、丸山実践、報告者の実践を比較検討するなかで、次の三つの理論的課題が浮かび上がってきた。(1) 古くて新しい概念を考え直すこと (「実践」「身体」「複合性」) 、 (2) 近代的概念を問い直すこと (「個人」) 、 (3) 実践現場での思考について考察を進めること (「統合的思考」「共同体的思考」「社会的思考」) 。
以上を報告書に掲載しますが、実は私の原稿は約16,000字 (原稿用紙40枚) に及ぶものです。報告書のページ数制限を知らずに書いてしまったその原稿は下からダウンロードできるようにしています。ご興味のある方はクリックしてください。
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2 件のコメント:
ケースメソッドについて調べていたらこの記事を見つけることができて、読ませていただきました。
運よく竹内先生、丸山先生、そして柳瀬先生の講義を受けたことがあり、誠に恐縮ですが、一受講生として気づいた点を述べさせていただけたらと思います。もちろん素人の目なので、ご無礼に至る点もありうることを予め断らせていただきます。
先生のご指摘通りそれぞれの議論の締め方に異なりがあるように思えます。私は記事を読んで、両者が連続体にあることから、教師の意図に応じて使い分けることが必要になるのではないかと考えました。教師がゴールを想定した上で話し合いをさせることで、講義式に教師が生徒にメッセージを伝えるよりも自分で答えを見つけようとする過程によって、先生のメッセージは強く残っているように思えます。一方「開かれた問い」によって学生は自分の経験や友達との雑談からふと思いついたアイデアを発言し、議論の流れを大きく左右することもあると思います。(実際にコミュニケーション能力論の授業ではそのようなことがしばしば起きているように感じられます。)
そこで誠に勝手ですが、先生に2つ質問させていただきたいです。
1) オープンエンドの質問をする際に学生がするであろう会話というのは予め想定されうるのでしょうか。
2)また授業の進行が発言に左右される点について、先生の計画された流れが狂うことも予想されると考えたのですが、そういった場合はどのような対策があるのでしょうか。
お忙しい中恐縮ですが、ご回答頂ければ幸いに感じます。
長々と読みづらい文章を書いてしまい、申し訳ありませんでした。
お返事が大変遅れて申し訳ありません。
今回の年度末は、ことさらに事務量が多く、パンク状態です。
さて、お答えを簡潔に。
1) 私がこれまでの数年~数十年間考えたことが想定の基盤です。
2) そもそも明確な計画などありません。即興なのですから。
詳しくはまたお会いした時にでも。
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