私はすべてを金銭に換算する思考法には強く反対していることは昨日の記事でも書いた通りですが、他方、金銭のことを一切考えないのも非現実的だと思っています。教育は金銭だけを基準にして考えられるべきではありませんが、他方、教育関係者が教育のコストについてまったく無関心なのもどうかと思います。教育者は教育の論理で語ることを放棄してはなりませんが、他方教育以外の論理(例えば経済の論理)でも語れなければならないと思います。
■広島大学教員が授業に対して有する金銭的責任
そこで、ここでは広島大学を例にとって、国立大学の教員は授業に対してどれだけの金銭的責任を有しているかを計算してまとめました。保護者・国・学生自身が授業に対してどれだけの金額を支出しているかを授業に対する金銭的責任としました。
計算の根拠は広島大学が発行した「財務レポート2009」の概数です。また計算の途中で生じた1円以下の金額は四捨五入しています。学生さんは4年間で学部を卒業すると仮定しています。
■この数字の解釈上の注意
ただお断りしておかなければならないのは、この計算は、「授業料(保護者からの支出)と運営交付金(国税からの支出)が卒業所要単位の取得だけに使われた」という仮定に基づいていることです。いうまでもなく学生さんの学びは授業そのものだけでなく、図書館や情報センターなどでの自学、大学施設を使っての課外活動や交友などに広がっています。またゼミ活動などは正規の授業時間を越えてなされています。しかし今回の計算はこれらの要因を一切勘案に入れていませんから、教員の授業に対する金銭的責任を強調しすぎたものになっています。ですから以下の計算はあくまでも目安としてお考えください。
■保護者が授業に期待して支払う金額
さて、2009年時点での広島大学の1年間の授業料は54.4万円です。これが保護者(ごくたまに学生自身)が、1年間の大学教育(この計算では卒業所要単位だけを想定)で得られる価値に期待して支払う金額です。
■国民が授業に期待して支払う金額
一方、国税からは広島大学に対して学生1人当たり1年間43.5万円支出しています。これは広島大学に対して出される運営交付金のうち、教育経費相当人件費と教育研究支援経費と教育経費だけを抜き出して計算したものです(詳しい説明はこちらをご覧ください)。この金額は、国民が、1年間の大学教育(繰り返しますが、この計算では卒業所要単位だけを想定)で学生が得る価値に対して国民が支払う金額です。
■卒業所要単位を取得するには何時間かかるか?
私が所属する広島大学教育学部英語文化教育講座の場合、卒業単位は128単位です。128単位を得るためには何科目履修しなければならないかというのは、1科目あたり1単位得られる科目と2単位得られる科目などあり計算が面倒です。ですからここでは私の講座の計算結果だけを述べますと、学生さんは教養的教育で19科目、専門教育で48科目、計67科目必要です。1科目は90分の授業が15回行われることにより構成されていますから、卒業所要単位を取得するための総時間は、90分[1.5時間]x15回x67科目で、1507.5時間、四捨五入して1508時間となります。
■学生がもしバイトをしていたら得られる金額
さらに、もし学生さんが授業時間にバイトをしていたら得られるはずの金額も時給800円として算出してみます。さきほどの1508時間に時給をかけると4年間で120.64万円、1年間で30.16万円になります。これは学生さん自身がバイトで働くことを厭わなかった場合に得られるだろう金額です。学生さんがバイトでなく授業を選んだことに対して期待している金額といえるかと思います。
■教員が、4年間/1科目(15回の授業)/90分(1回の授業)/授業の10分間に対して期待されている金銭的価値
以上の条件に基づいて計算したのが下の表です。もちろん、上に述べたようにこれは単純化され強調された数字ですが、金銭換算するなら、私は学生さん一人当たりにつき、一回の授業で約5300円、授業の10分間で約600円の価値を与えることを保護者・国民・学生から期待されていることになります。
授業の価値を、学生さんがすぐに理解することは時に困難かもしれませんが、少なくとも学生さんが卒業後に「なるほどあの頃の授業にはそれだけの金を保護者・国民・自分自身が支出するだけの価値があった」と納得してもらえるような授業を行わなければなりません。
これを目安として、一回一回の授業を大切に行ってゆこうと思います。
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