2011年5月16日月曜日

NHK教育テレビ(ETV)「ネットワークでつくる放射能汚染地図 ~福島原発事故から2か月~」をぜひネット配信や再放送でご覧ください。

昨夜5月15日にNHK教育テレビ(ETV)が放映した「ネットワークでつくる放射能汚染地図 ~福島原発事故から2か月~」はあまりに衝撃的でした。福島での放射線量の実態、それを知りながら危険な地域に住む住民に何の積極的な通知もしていない文部科学省と政府、これまで築きあげてきた暮らしや愛する動物を見捨てなければならない住民・・・私は見ていて怒りと涙でもう動けませんでした。

といっても番組は演出をできるだけ抑えたものです。この番組の衝撃は、あくまでも取材でわかった事実と映像によるものです。


NHKのホームページは以下のように、この番組を紹介しています。


1954年のビキニ事件以来、放射線観測の第一線に立ち続けてきた元理化学研究所の岡野眞治博士の全面的な協力のもと、元放射線医学研究所の研究官・木村真三博士、京都大学、広島大学、長崎大学の放射線観測、放射線医学を専門とする科学者達のネットワークと連係し、震災の3日後から放射能の測定を始め汚染地図を作成してきた。

(中略)

番組は、放射能汚染地図を作成してゆくプロセスを追いながら、原発災害から避難する人々、故郷に残る人々、それぞれの混乱と苦悩をみつめた2か月の記録である。
http://www.nhk.or.jp/etv21c/file/2011/0515.html



この調査の中心人物は木村真三博士ですが、木村氏は、チェルノブイリ調査や東海村臨界事故の調査をしていた研究者です。木村氏は、数年前まで放射線医学総合研究所の研究員でしたが、その後厚生労働省の研究所に移りました。

今回の事故で木村氏は、これまでの研究経歴から当然のことですが、自発的に放射線量の実態を調査しようとしたのですが、厚生労働省はそれを差し止めました。

木村氏はそれに抗議し、職場に辞職を出し、独自に調査を始めます。番組は、その木村氏を追う中で、福島で出会う人々の姿を描き出し、また木村氏、岡野氏、そして京都大学、広島大学、長崎大学の研究者が明らかにしてきた福島県での放射線量の実態を明らかにしています。(ただし番組最後で、木村氏らが東京電力福島第一原発の敷地の外でプルトニウムの測定をしたことが放映されましたがその測定結果は番組では知らされませんでした ― 木村氏らは敷地内での測定を東電側に拒否されました)

このtweetによると、「担当者に確かめたところ、プルトニウムの調査結果は番組に間に合わなかっただけで(あと一週間くらいはかかりそう)、他意も圧力もないとのことでした」そうです。(2011/05/16 14:53に追記)


ですから、この番組で明らかになった内容は、木村氏が研究者としての良心をかけて辞職して自ら調査を始めなければわからなかったものです(国は、こういった情報を隠蔽しようとしていたわけですから)。もちろん木村氏に協力した研究者、そして何よりこの取材をし、きちんと地上波で放映したNHKの勇気と良心も讃えられなければなりません。


そのNHKですが、この番組のディレクターは七沢潔氏だとされています(ごめんなさい確証は取れていません)。


その七沢潔氏(NHK放送文化研究所主任研究員)には、雑誌『世界』に連載された「テレビと原子力 戦後二大システムの五〇年」の記事に対して「科学ジャーナリスト大賞2009」が贈られています。


以下に、受賞時の挨拶が引用されていますが、七沢氏はここで、NHK内部でも原発問題を取材し続けると、上層部から圧力がかかり、人事異動の対象となることを明らかにしています



「1987年にチェルノブイリ原発事故が起きまして、放射能に汚染されたことを機に、ほとんど興味をもたなかった原子力という分野と出合うことになりました」

「20年間で、十何本かのドキュメンタリー番組を作ってきました。チェルノブイリ、日本各地の原発、東海村の臨界事故などの取材をしてきました。進めていくほど、科学自体のモデルより、人間社会がそれをどう用いているのかという点が、私が見つめるテーマになりました」

「取材では、喧々囂々の議論もありました。この線に抑えると経済が成り立たなくなるというような点に、さまざまな考え方があると思います。科学ははっきり識別できるほどしっかりできていないのではという疑問を抱きました」

「その安全は、根拠がしっかりしているのかという、そういう点が番組を作る出発点となりました」

「原発の番組から足が抜けられなくなり続けていると、上司が『長いこと、テレビでこういうことをやらないほうがよい』と言われました。原発事故がたくさん起きていた時期で、東海村の臨界事故も手がけましたが、放送研究所に行きなさいということになりました」

(中略)

「原子力報道で、企画が過ぎたりすると、どこかに異動が起きるという、ひとつのサンプルとして私があました。構造的な問題ですが、報道と原子力技術には、どこかでつながることが可能であると思います。そのシステムの中で、どう客観的な報道ができるか。私はその研究を続けなければと思っています」

http://sci-tech.jugem.jp/?eid=1272


こういった圧力にもかかわらず、この放送を地上波で行ったNHKスタッフには心から御礼申し上げます。社会は皆さんのような良心をもった勇気ある方々によって支えられています。


この番組は、NHKオンデマンドで本日5/16から5/30まで見ることができると伝えられています。ネット環境がそろっている方はぜひご覧ください。(現時点ではまだ配信は始まっていないようです)。


NHKオンデマンド
https://www.nhk-ondemand.jp/



しかし、この番組は、日頃ネットから情報を得ていない方々こそ見るべきです(正直「NHKオンデマンド」はあまり使いやすくありません)。使いやすさだけでなく、元々ネットを使わない方もまだ多いわけですが、この番組は、福島およびその近郊に住む方々の暮らし・生命に直接関わるものです。ぜひお互いに何とか助けあって、この番組を視聴したり、この番組の内容をまとめた情報を共有したいものです。

もちろん一番いいのは、やはりこの番組の画像を見ることです。ツイッターでは「#nhk_rerun」という「ハッシュタグ」を加えて発信すれば、それはNHK関係者がその情報を見ると伝えられています。(自分が書き込んだ文章の後に半角スペースを空けて「#nhk_rerun」と打ち込んでください)。ぜひ、お年寄りでも視聴しやすい時間帯に地上波で再放送するべきです。(また放送を録画した人は、個人的な友人・知人にその録画をぜひ見せてあげてください)。

この番組はぜひ地上波ゴールデンタイムで再放送されるべきです。どうぞ「#nhk_rerun」のハッシュタグをつけてTwitterで発信してください



現時点で、この番組の内容を文字でよくまとめているサイトは私の知る限りあまりありませんが、以下のサイトは、番組を見ながらツイッターでつぶやいた人々の記録をtogetterでまとめたものです。ある程度の内容はわかると思います。




Togetter ネットワークでつくる放射能汚染地図 ~福島原発事故から2か月~
http://togetter.com/li/136141




原発人災事故が福島の自然を(半)永久的に損ねてしまったこと。

福島に住む人々の暮らしや愛する動物を失わせていたこと。

住む土地を追われた人々は、仕事も人間関係も失い、原発難民とならざるを得ないこと(震災の夜には東京での「帰宅難民」という表現を多用したマスメディアは、まだ「原発難民」という言葉は使っていません)。

未だに文部科学省が20mSv基準に拘るため、福島の子どもたちにはチェルノブイリ級の被曝リスクがあること(注1)。

国民の健康で文化的な最低限度の生活を守るべき(日本国憲法)、政府や文部科学省などの公務員が、「風評被害やパニックを恐れ」といった理由で、情報を隠蔽し、国民に自ら考え行動する権利を奪っていること。

現在の政権や文部科学省は、福島の国民の一部を、緩慢な見殺しにしているのではないかということ(これは「人道に対する罪」とさえ言えるのではないかということ)。


このようなことを考えると、今の日本には、もうとりかえしのつかないことが起こったと思わざるをえません。

ここで私たちは思考停止したくもなります(注2)。

しかし今こそ考えなければなりません。そして行動しなくてはなりません。

この状況の打開策の「正解」を知る個人や組織などどこにもありません。だからこそ今は衆知を合わせて、積極的な相互作用の中から、できるだけよい状況を創りださなければなりません。


まさに国難です。

このままでは、日本国という体制が、国民からの信を失い、国の形(「国体」)を失ってしまうかもしれません。その政治的・社会的・精神的崩壊が、国内外にどのような影響を与えるかを考えるなら、今こそ私たちは考え、行動し、お互いから学び合い、よりよい途を見つけなければなりません。


取り急ぎ、上記の番組を見てください。見ることができないのなら、「#nhk_rerun」のハッシュタグをつけてTwitterで発信してください


追記 2011/05/28

この番組の文字おこし(静止画像付き)が以下のサイトにまとめられています。このサイトに限らず今回の原発災害に関してウェブで超人的な活躍をしている、忌野清志郎を愛する@zamamiyagareiさんに心から感謝(このハンドルネームは、忌野清志郎の名言に由来しています)。







(注1)

今回の東京電力福島原発事故が、チェルノブイリを超える被害をもたらす可能性については、Russia Todayが、クリス・バスビー教授(Prof. Christopher Busby, Scientific Secretary of ECRR)へのインタビューで明らかにしています。


「3号機の爆発は核爆発」:クリス・バスビー教授インタビュー和訳、米国のエンジニアも核爆発説を支持
http://onihutari.blog60.fc2.com/blog-entry-45.html


には、Russia Todayの英語画像が埋めこまれ、そのインタビューの全文も和訳されていますが、そこから一部を引用します。




バスビー教授:私の意見では最低でも60kmから70kmの範囲で避難勧告をだすべきだと思います。70km地点で高濃度放射能を計測しているのです。その量はチェルノブイリの避難区域の数値より高いんです。東京やその南部の地域でも高い放射能が検出されていることから、チェルノブイリに比べてとても多くの人たちがリスクにさらされているのです。チェルノブイリの時は、風が北に向いたために首都のキエフに放射能の汚染があまり広がりませんでした。要するに影響を受ける人の数が全然違うということです。ベルリン(の国際会議)で発表したECRRのリスクモデルを使った計算方式によると、チェルノブイリ事故が原因で癌になった人の数は140万人でした。我々はほぼ同数の人たちが福島第一の件で癌を発病するであろうとみています。

司会:幾つものメディアで『長期的な健康被害はまだ分からない、しかし一般的に人間へのリスクは低いとみられている。』『福島第一での放射能汚染による健康被害は確認されていない。』というような事を聞きます。これはまだこうした判断をするには時期尚早ということなのか、それともあなた自身が過剰に反応をしているのかなどと言いそうな人もいそうですよね。

バスビー教授:時期尚早というわけではありません。チェルノブイリに関して言えば、疫学的に癌発病率の増加など様々な研究がなされています。歴史を無視する人たちがそれを繰り返してしまうのです。こういう話を軽視するのは、ほとんどが原子力産業の人たちです。多額の利権が絡んでますから。

(中略)

司会:最後に、海水への漏出の事がでてきたのでそれについて。チェルノブイリは陸地にあって、福島第一は海に面している。これは汚染が日本を離れて広範囲に広がるという観点からどのような意味をもつのでしょう?

バスビー教授:もうすでにアメリカでは放射性物質が検出されてますよ。ウランもプルトニウムもハワイやマリアナ諸島のエアーフィルターから数値がでています。さらに汚染された海水も海岸に届きますね。だからこれはとても深刻な問題だと言っているのです。しかし日本政府や原子力産業によって一連の事は軽視されています。とっても深刻なことなんですよ。この為に多くの人たちが病気にかかって亡くなってしまうのですから。

http://onihutari.blog60.fc2.com/blog-entry-45.html



英語がわかる人は、そのままそのRussia Todayの動画をご覧ください。





(注2)

精神科医の斎藤環氏は毎日新聞のコラム「時代の風」(2011/5/15)で、チェルノブイリでは、「麻痺的な宿命感」、どうにでもなれといった投げやりな気持ちが蔓延したと伝えています。このような思考停止に対して、もっとも有効なのは、斎藤氏もいうように、「正確な情報と知識」と「信頼に足る政策」です。国民はこれらを求め続けなければなりません。


チェルノブイリの報告で特異と思われるのは、強制的に避難を命じられた人々のトラウマと、被曝(ひばく)からの「生存者」ならぬ「犠牲者」のスティグマ(不名誉な烙印(らくいん))が深刻な精神的問題を引き起こしている点である。

 これに加えて、放射線の危険性に関する啓発不足や、汚染地域で安全に暮らすための正確な情報の欠落が、一部地域で「麻痺(まひ)的な宿命感」をもたらしたという。どうにでもなれ、という無常観に近いだろうか。

 心身症の症状が増加したという報告もある。さまざまな不定愁訴や、原因のはっきりしない身体の不調を訴える患者が増加したという。得体(えたい)の知れない放射線被害に対する心理的不安が反映されているのだろう。

 福島第1原発の事故を巡る状況には、こうした不安をかきたてる要素があまりにも多い。
 
(中略)

これを機会に、政府関係者には十分な自覚を促したい。あなた方が誰より有能な治療者たり得るということを。あなた方にしか処方できない薬が、少なくとも2種類あるのだ。すなわち、「正確な情報と知識」と、「信頼に足る政策」である。
http://mainichi.jp/select/opinion/jidainokaze/news/20110515ddm002070090000c.html



しかしながら、文部科学省は


放射能を正しく理解するために
教育現場の皆様へ
文部科学省
平成23年4月20日
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/04/21/1305089_2.pdf


という文書で、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」について説明(p.17)した後、以下のようにと教職員に対して指示を出しています。


放射能のことをいつもいつも考えていると、その考えがストレスとなって、不安症状や心身の不調を起こします。

もし保護者が過剰に心配すると、子どもにも不安が伝わって、子どもの心身が不安定になります。

不確かな情報や、人の噂などの風評に惑わされず、学校から正しい知識と情報をもらって、毎日、明るく、楽しく仲良く、安心した生活を送ることが心身の病気を防ぐ一番よい方法です。(p. 18)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/04/21/1305089_2.pdf





これに対して、大阪のある精神科医は以下のように抗議しています。

文部科学省のPTSD理解は誤っており、予防策としてもおかしい、というより、文部科学省の説明は、加害者がよく行う「被害者の口を封じ、あたかも被害の責任が被害者側にあるかのような論述」だとしています。


PTSD(心的外傷後ストレス障害)は過去の心的外傷が原因で発症しますから、現在進行形の事態に対してPTSDを持ち出すことはそもそもおかしな話です。

また、あたかも「放射能を心配しすぎて」PTSDになるかのような説明は
間違っています。「心配しすぎて」PTSDになったりすることはありません。

PTSDはレイプ、虐待、戦争体験、交通事故などなど、生命が危険にさらされる現実の出来事の後に生じる疾患です。

今、原発被害に関してPTSDを論じるのであれば、PTSDの予防ですから、「安全な場所に避難すること」と「事実を伝えること」が必要です。

ところが文科省のこの文書は「年間20mSVでも安全という間違った情報」を与え、「避難の必要はない」と言っていますから、PTSDの予防としても間違っています。

そもそも放射線の被曝による生命の危機を認めていません。

あまりのお粗末さにあきれてしまい、開いた口がふさがりません。

福島原発の事故の責任は国にあります。

この文章は加害者である国が、被害者の口を封じ、あたかも被害の責任が
被害者側にあるかのような論述を組み立てています。

これは、レイプでも幼児虐待でも加害者側がよくやるやり方です。

このやり方を繰り返されているうちに、被害者は被害を受けたという事実が見えなくなり、自分を責め、PTSDであることすらわからなくなってしまいます。

PTSDという疾患概念は、被害者が自分の症状と過去の出来事との関連に
気づくためのものです。

(中略)

福島の皆さんにこのことを知らせたいと思っています。

文科省に文書を撤回させることはできなくても、知識を広めることで文書を無効化してしまえたらと思います。

転送等していただけたらありがたいです。

チェルノブイリの事故の後、心身の不調を訴える人々に対してソ連が「放射能恐怖症」という精神科的な病名をつけて、放射線被曝の後遺症を認めようとしなかったことがありました。

それと同じことが日本でも起こるのではないかと心配しています。

放射線被曝の被害を矮小化しようとする国の態度は正さなければなりませんし、そのために精神医学が利用されることを防ぎたいと思っています。
http://d.hatena.ne.jp/eisberg/20110515








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