ましてや教育機関でたくさんの若者に接している教育関係者には、精神疾患で苦しむ若者、あるいは精神疾患とも判定しかねるがとにかく苦しい状態にいる若者の例を知っている方は多いかと思います。
それにもかかわらず私を含めた教育関係者の精神疾患に関する知識は不十分であり、そこから偏見や起こらなくてもいい問題が生じているかと疑われます。
私は精神疾患の専門家でも何でもありませんが、今回たまたま良質なホームページをいくつか見つけましたのでここでご紹介します。
ただ気をつけなければいけないのは、私たちのような素人が簡単な情報だけを鵜呑みにして安易な判断をして決めつけてしまうことです。「生兵法は大怪我のもと」とも言いますが、中途半端な精神医学の知識を振り回して、自分や他人を精神病だと決めつけたりすることだけは避けなければなりません。下記のホームページはどれも信頼おける機関が作成したものですが、もし気にかかることがあれば自分で即断せず、必ず専門家に相談することをお勧めします。
まずは精神疾患一般について確認しておきます。国際的に定評のある『メルクマニュアル医学百科 家庭版』は「社会における精神疾患」の項目で、精神疾患は精神の健康な状態と連続的なものであり社会で広く見られるのに今なお偏見が強いことを述べています。
成人の約20%は、人生のいずれかの時点で何らかの精神疾患を経験します。実際、5歳以上の人にみられる能力障害の原因として最も多い10の病気や障害のうち、4つは精神障害で、うつ病はすべての原因中のトップとなっています。精神疾患になる人はこれほど多く存在するにもかかわらず、専門家の助力を求める人はその半数程度にとどまっているのは残念なことです。
精神疾患についての理解や治療法は驚くほど進歩しましたが、病気に対する偏見はあまり変わっていません。たとえば、精神疾患になったのは本人のせいだといわれたり、怠けている、無責任であるといった見方をされることがあります。精神疾患は体の病気に比べて実態がとらえにくく、本当に病気かどうかの確認が難しいため、国や保険会社はその治療に必要な医療費を保険の支払い対象としたがらないのが現状です。子供が精神疾患になると、親がそのために非難されます。また、一般社会には精神疾患の人を敬遠する傾向があり、近所に住んだり、同じ職場で働いたり、付き合いをすることを避けようとします。
精神疾患は現在、遺伝と環境的要因が複雑に相互作用して発症するものとして理解されています。また一部には、神経伝達物質と呼ばれる脳内の化学物質の障害が原因で起こるものもあるとみられています。多くの精神障害に遺伝的要因が関与していることが、研究によって示されています。遺伝的な脆弱(ぜいじゃく)性が、家族生活、社会生活、または職場における何らかのストレス要因と相互作用することにより、精神疾患の発作が引き起こされることがよくあります。
精神疾患による病的な状態は、正常な行動と必ずしも明確に区別できるとは限りません。たとえば、配偶者や子供など大切な人を亡くしたときは、死別によってもたらされる正常な悲しみとうつ病の状態とを区別するのは困難です。同様に、仕事に関する心配やストレスから来る不安は、大多数の人が経験することなので、それを不安障害と診断するかどうかの判断はやや恣意(しい)的になります。個人の性格的な特徴と人格障害との境界はあいまいです。したがって、精神の健康な状態と病気(精神疾患)になった状態は、連続的なものとして考えるのが適切です。
http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec07/ch098/ch098b.html
私たちは必要に応じて、苦しむ人が精神の健康な状態の範囲にいるのか、それとも病気(精神疾患)の状態に移行しつつあるのかを、専門家の助けを借りて見極めなければなりません (何度も言いますが、独りよがりの判断は危険です)。特に精神的に脆弱であると考えられる若者に接する場合は、慎重にアプローチする必要があるのではないでしょうか。
その点で注目されるのが「こころのリスク状態」 (at risk mental state アットリスク精神状態) かもしれません。「こころのリスク外来」 (東大病院精神神経科) は「こころのリスク状態」を次のように説明しています。
・ こころのリスク状態とは、こころの調子が崩れ、こころの病気の一つである精神病になる危険性が高くなっている状態です。
・ 10代から30代前半の思春期や青年期にある若い人たちに起こりやすいのが特徴です。
・ 英語ではat risk mental state(アットリスク精神状態)と呼ばれています。
・ こころのリスク状態の基準を満たした人のうち、およそ10~30%の人が、統合失調症などの精神病に発展していく可能性があると考えられています。
・ こころのリスク状態のすべての方が精神病になるわけではありません。専門家による早期の予防的なかかわりや治療によって,精神病を予防することができるといわれています。
http://plaza.umin.ac.jp/arms-ut/
このホームページには「こころのリスク状態」のタイプ記述が掲載されています。さらにこの記述が当てはまると思われた人のためにはより詳しいチェックリストが用意されています。
http://plaza.umin.ac.jp/arms-ut/
東北大学病院 SAFEメンタル・ヘルス・ユースセンターも「こころのリスク状態」について解説しています。
http://www.safe-youthcentre.jp/risk.html
さらに教育関係者にとって有益なのは、東邦大学医学部精神神経医学講座が、厚生労働省・平成19年度障害者保健福祉推進事業「精神障害者の早期発見、早期治療のための地域生活支援体制のあり方に関する調査及び機能分化したリハビリ施設の試行的事業」(東邦大学)の補助金により作成したホームページ「イル ボスコ」かもしれません。
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/index.html
「イル ボスコの概要」⇒「はじめに」では、若い人の精神疾患の早期発見の重要性が説かれます。
若い方の例では発症間もない時期に適切な援助がなされないと、社会的に孤立したり、時には自分を傷つけたり、体やこころの発達や社会生活に著しい影響が及ぶこともあります。そのためにも早い時期に援助することでこうした問題を少なくすることが大切です。
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/gaiyo/introduction.html
「こころの病について」 ⇒ 「ストレスについて」 ⇒ 「ストレスの対処方法」では、精神的に追い詰められた人を支援するには、生理学的アプローチ、心理的アプローチ、社会的アプローチの3種類が必要であると説いてあると私は理解しました。
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/mental/about_stress/action_method.html
これは私も自分自身のうつ病経験から感じたことです。私が経験・見聞した限り、日本の病院は精神疾患に対してほとんど薬の処方だけに終始する場合があります (これには病院経営といった経済的背景があるのかもしれませんが) 。薬の投与といった生理学的アプローチは身体に現れた状況を取り急ぎ緩和させるのには有効なことが多いですが、それだけでは精神疾患は克服しにくいのではないでしょうか。
生理学的アプローチに並んで必要な第2のアプローチは心理的アプローチだと思います。私の場合もそうでしたが、精神疾患に苦しむ人の中には「心の癖」というか特定の思考パターンをもっている人がいます。いくら薬で取りあえず身体症状を抑えても、その心の癖・思考パターンが変わっていなければ、またもや苦しい状況に自分を追い込んでしまうことになります。
しかし残念ながら心理的な支援をする制度はあまり整っていません。市中でカウンセリングに通えば (健康保険の対象外ということもあって) かなり高額ですし、宗教団体も必ずしも精神的な問題に対して準備ができていません (中には精神的に苦しむ者を搾取する悪質なエセ宗教団体もあります)。ですから私たちはどのように精神疾患に苦しむ人間 (あるいは自分自身) をどう心理的にサポートするかを正しい知識に基づいて考え、調べ、実際に支援しなければなりません。
第3のアプローチは社会的なアプローチです。いくら生理学的アプローチで身体的症状を抑え、心理的アプローチで個人の意識を変えようとも、周りの社会的環境が過酷なものだったら、精神疾患はぶり返してしまいます。個人の枠を越えて、周りの社会的環境を変える試みが必要です。日本では「精神保健福祉士」 がそういったソーシャルワーカー的な役割を果たしているのでしょうが、残念ですがあまりそのサービスは普及していないのではないでしょうか (これは私個人の感想です。間違っていたら訂正します)。
「こころの病について」 ⇒ 「多職種チームアプローチ」には「各専門職の役割」、「こころの病について」 ⇒ 「15歳からの精神科入門」には「保護者の方、学校での援助者の方々へ」というページがありますので、これもご興味があればお読み下さい。
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/mental/team_approach/role.html
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/mental/seishinka_nyumon/nyumon_page10.html
精神疾患で苦しむ者の周りの人間としては、「こころの病について」 ⇒ 「ストレスについて」 ⇒ 「感情表出と再発率について」の項目が有益かもしれません。
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/mental/about_stress/expression_recurrence.html
周りの人間が、 (1) 批判的にならず、かつ (2) 当人をかばいすぎない、ようにして「程よい距離感」を保つことの重要性が説かれています。
「こころの病について」 ⇒ 「15歳からの精神科入門」は、統合失調症を中心とした精神疾患について教育関係者が常識として知っておきたいことがわかりやすくまとめられてあります。
http://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/mental/seishinka_nyumon/index.html
以上私が見つけたホームページを紹介しましたが、どうぞこれらのホームページを読んで独りよがりの即断をすることだけは避けてください。心配な場合は信頼おける専門家にご相談下さい。
一人では負えない重荷も二人でなら担げます。二人で担ぐのが少し辛い重荷も周りの助けがあれば苦もなく担ぎ続けることができます。そのうちに重荷自体が軽くなりやがては消え、かつて重荷で苦しんでいた人は、他の重荷で苦しむ人を助けることができる人になれるでしょう。
精神疾患に対する正しい知識と適切な理解で、よりよい社会をつくりたく思います。
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