2008年12月18日木曜日

全国学力・学習状況調査(通称「全国学力テスト」)について考える

[以下は、学部二年生向けの授業「英語教師のためのコンピュータ入門」の中の「エクセルで簡単な統計処理を行なう」の学習のために配る補助プリントの一部に使った資料です。]


※考えてみよう:全国学力・学習状況調査(通称「全国学力テスト」)について

文部科学省では、全国的に子ども達の学力状況を把握する「全国学力・学習状況調査」を平成19年度から実施することとしています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/index.htm


その概要は次の通りです。

<対象学年>
○ 小学校第6学年、中学校第3学年の原則として全児童生徒を対象

<実施教科>
○ 教科に関する調査(国語、算数・数学)
・ 主として「知識」に関する調査
・ 主として「活用」に関する調査

○ 生活習慣や学習環境等に関する質問紙調査
・ 児童生徒に対する調査
・ 学校に対する調査


この調査の意義問題点は様々に論じられています。



国際基督教大学(教育社会学)の藤田英典先生は、岩波書店の雑誌『世界2009年1月号』の「有害無益な全国学力テスト--地域・学校の序列化と学力・学習の矮小化」という記事(232-240ページ)において、全国の学校・生徒を対象にした「悉皆」(しっかい)学力テストの実施により、大阪府・橋下知事、秋田県・寺田知事、鳥取県・平井知事などが市町村別あるいは学校別の成績開示を求め、その実施の有無により教育予算を差配する方針を打ち出したことを重く受けとめ、「教育予算を差配するといったことは、義務教育の機会平等を保障するという点でも、その質向上を公平に支援・促進するという点でも、あってはならないことである」(234ページ)と批判しています。(藤田先生はその他にもテスト学力という一元的な物差し(尺度)で子どもを評価する傾向が高まること、さらにそれにより学校・地域の序列化・格差化が進行することなどに対しても懸念を表明しています)。

しかし悉皆調査で事実上全ての学校の児童・生徒の成績情報が得られた以上、その情報を開示せよという要求はこれからも出てくることかと考えられます。


ここで悉皆テストという母集団調査(全体調査)は、適切な調査方法だったのかを、授業で学んだ母集団調査と標本調査の違いから検討したいと思います。


全国学力・学習状況調査の目的は次の通りです(注)。

<調査の目的>
○ 国が全国的な義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から各地域における児童生徒の学力・学習状況をきめ細かく把握・分析することにより、教育及び教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る。
○ 各教育委員会、学校等が全国的な状況との関係において自らの教育及び教育施策の成果と課題を把握し、その改善を図るとともに、そのような取組を通じて、教育に関する継続的な検証改善サイクルを確立する。
○ 各学校が各児童生徒の学力や学習状況を把握し、児童生徒への教育指導や学習状況の改善等に役立てる。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/zenkoku/07032809.htm


ここでは上記の表現を受け、同調査の目的を

(1) 各地域の学力・学習状況を把握する
(2) 各学校の学力・学習状況を把握する

とまとめます。

さて、ここで問題です。

Q1
悉皆調査という母集団調査・全数調査は、上記の目的(1)を達成するために必要なことですか? 

Q2
悉皆調査という母集団調査・全数調査は、目的(2)の達成のためには必要ですか? 必要だとしても、これが最も合理的な方法ですか?  (時間があれば目的(1)と(2)それぞれの意義と波及効果についても考えてみましょう)。


ちなみに全国学力・学習状況調査の費用は、上記の藤田先生の記事によりますと、初年度は実施業者への委託費60億円以上に諸経費を加えて100億円を越えており、二年度も60億円以上かかっているそうです。また労力面でも大学入試センター試験並みの厳格な一斉実施方法のために莫大な労力がかかっているそうです。これは母集団調査として同調査を行なったための金額と労力だと考えられます。



(注)全国学力・学習状況調査実施決定の際の文部科学大臣である中山成彬氏は記者会見で次のように述べています。

 全国的な学力調査につきましては、昨年11月に私が発表しました「甦れ、日本!」の中で、その実施について提案したところであります。本年6月21日に閣議決定されました「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005について」や、中央教育審議会義務教育特別部会の審議経過報告などにおいても、その実施の方向性が既に示されているところでございます。これらを受けまして、平成18年度概算要求に盛り込むべく準備を進めた結果、各学校段階の最終学年の小学校6年生と中学校3年生の国語、算数・数学について、全児童生徒が参加できる規模で平成19年度に調査を実施することとしたいと考えております。私といたしましては、全ての学校に対して、児童生徒の学習到達度・理解度を把握し検証する機会を提供することが重要であると考えておりまして、調査が円滑に実施されるように引き続き努力してまいりたいと考えております。
http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/05090201.htm

しかし一方で、中山氏は同調査を「日教組の強いところは学力が低いのではないかと思ったから」実施したと述べてもいます(朝日新聞2008年9月26日)。

Q3
仮に上記の見解が中山氏の真意だったとして、全国学力・学習状況調査は中山氏の目的を達成するために適切な方法だったといえるでしょうか?


さらに考えますと、近年、文部科学省は「観点別評価」という形式で、いわゆる「絶対評価」を学校現場に普及させようとしています。

Q4
全国学力・学習状況調査は、観点別評価(絶対評価)と整合的ですか?








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