今、最も注目すべき英語教育研究者の一人である江利川春雄先生が新刊を出されました。私はまだ入手したばかりですが、「はしがき」と「あとがき」を読むだけで、この本が読書の喜びと深みを教えてくれる本であることを教えてくれているようです。
「はしがき」の冒頭で江利川先生はこう述べます。
日本の英語教育をどうすべきか。進むべき方向を見定めるためには、日本人が英語をどう学んできたかの歴史を謙虚にふり返り、その足跡を確かめるしかない。そうしないならば、現にしばしば目にするように、「改革」は歴史と現実を無視した「思いつき」の域を出ないのではないだろうか。
まさしく同感です。「改革」とは無条件に正しいことで推進すべきことであり、いったん「決まったこと」、特に予算がついたことには、異を唱えてはいけないといった空気が現代日本に蔓延し、どんどん現場のやる気を奪い、人々の心身を疲れさせているような気が私にはしているからです。
そうして「改革」がうまくゆかないと、さらに誰か(無責任で無思考な人が)が、新しい改革を「思いつき」、予算がつけられ、人々がさらに思考放棄せざるを得ないような負担が現場に課せられる・・・こういった悪循環を断つには、私たち一人一人が立ち止まって考えることが必要です。立ち止まって考えるためには、本書のような良書が必要です。
本書は「英語教育の社会文化史」という副題がつけられています。これを江利川先生は次のように「はしがき」で説明します。
本書で意識的に追求したように、英語教育の歩みには各時代の社会文化状況が鏡のように反映されている。また逆に、日本人は英語の学びを通じて西洋文化を摂取し、近代日本の社会文化史を主体的に形成してきた。副題を「英語教育の社会文化史」としたのはその二重の意味からである。
私などは思わずこの一節だけで、本書を読みたくなります。この本をゆっくり楽しみながら読むことは、これからの私の喜びです。
とはいえ、本書は小難しい本ではありません。「あとがき」に江利川先生は次のように書いています。
本書は、これまで約20年にわたって研究・執筆してきた日本人と英語との関わりに関する論考を一本にまとめたものである。どこからでも気楽にお読みいただき、日本の英語教育史がどれほど面白いか、また今日的な教訓や示唆に富んでいるかを知っていただければ幸いである。本書のもとになった論考の多くは英語教育関係の雑誌に寄稿したものである。英語教育史という日頃なじみのないテーマの文章を、疲れて職員室にもどった先生たちや、英語教育に関心を寄せる一般の人々にも面白く読んでもらいたい。そんな思いで読みやすく書くように努め、図版も多くした。
しかし、注目すべきは続く以下の一節です。
だだし、他人の研究の安易な受け売りはしていない。ほとんどが自分で発掘し、自分の目で確かめた史資料にもとづいて執筆したつもりである。
本文を読まずに、このように本の紹介をすることは無責任のように思われるかもしれませんが、これまでの江利川先生の研究活動・執筆活動を知る人間としては、江利川先生のことばを全面的に信頼します。みなさん、この本にご注目を!
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