いきなりワープロソフトを立ち上げて、まとまった文書を書こうとしてもまず失敗します。私もこの稼業についてある程度の年月を過ごしていますが、ある程度まとまった文章を書こうと思えば、必ず以下のような手順で、少しずつ自分の思考を段階的に視覚化してから書き始めます。結局はこのような手順を踏んだほうが早く、良い文章を書けるからです。
甘い先生でしたら、いきなりワープロに書きつけたような文章でも単位を出してくれるかもしれません。しかしそのような文書作成では、あなたの分析力は高まりませんし、思考力も深まりません。単位は得ることはできても、あなたの知的成長がないといしたら、私はその「勉強」は時間の無駄だと思います。
単位のためでなく、自分のために、以下のような手順を踏んで、丁寧に考え、丁寧に文書を作成することを教師としてはお勧めする次第です。
1 キーワード: キーワードを整理する
1.1 アンダーライン: これまでに読んだ資料や取ったノートのキーワードにアンダーラインを引く
1.2 キーワードを書き出す: アンダーラインを引いたキーワードの中でも特に今回の文章にとって重要なキーワードを、何か他の媒体に書き出す。
1.3 キーワードの分類を考える: 次の準備のために、それらのキーワードはどのようなグループに分けられるかを考えておく。
2構造的関係の二次元的表現: マインドマップなどの要領で、キーワードの構造的関係を、二次元平面で表現する
2.1 最重要キーワード: 今回、最重要だと思うキーワードを図の中央に書く
2.2 第二次キーワード: 最重要キーワードに直接関連する複数のキーワードを、第二次重要キーワードとして選び、それらを最重要キーワードの周辺に並べて線でつなぐ。
2.3 第三次キーワード: それぞれの第二次重要キーワードに直接関連する複数のキーワードを、第三次重要キーワードとして選び、それらを第二次重要キーワードの周辺に並べて線でつなぐ。
2.4 キーワードの追加: 以上の過程で、新たに必要なキーワードが見つかったら、たとえそのキーワードがこれまでに読んだ資料や取ったノートになくとも、そのキーワードを付け足してゆく。
2.5 必要に応じての再編成: 以上の過程で、最初に想定していたキーワードの親子関係(最重要-第二次重要-第三次重要)の間の結びつきよりも強い結び付きが、別の親子関係に属するはずのキーワードとの間にあまりにも多く見つかったら、それはそのマインドマップに改変の余地があることを示しているので、新しい媒体(紙やファイル)で2.2からさらに始める(ただし古い媒体も保存しておくこと。作業をするうちに古い媒体での表現の方がやはりよかったと思い直すことはたまにあるから)。
2.6 キーワードの順番づけ: 次の準備のために、この二次元平面で表現したキーワードの構造関係を、話して説明するという時間的順番で説明するとしたら、どういった順番になるかを考えておく。
3 構造的関係の時間的表現: 桁番号付きの命題で、キーワードの構造的関係を、説明する時間的順番で表現する。
3.1 文書全体のタイトルの決定: 最重要キーワードについて、結局何を言いたいのかを命題で表現する。つまり単に最重要キーワード「X」の語だけを書くのではなく、「XはYである」や「XはYをZする」などの文の形で表現する。これがあなたの文章のタイトルの原形となる。
3.2 一桁命題の作成: そのタイトル命題を、説明するいくつかの柱を、一桁命題として説明する順番に並べる。つまり、それらの一桁命題を順番に語れば、あなたがタイトル命題で言いたかったことがよくわかるように、一桁命題を作り並べる(必要に応じて作り替え並び替える)。
3.3 二桁命題の作成: それぞれの一桁命題をもう少し詳しくするためのいくつかの柱を、二桁命題として説明する順番に並べる。つまり、それらの二桁命題を順番に語れば、あなたが一桁命題で言いたかったことがよくわかるように、二桁命題を作り並べる(必要に応じて作り替え並び替える)。
3.4 必要に応じての桁数の追加: 必要に応じて三桁命題も同じように作る。だが、無理に作る必要はない。また四桁命題までつくると、文章の構造が複雑になりすぎるため、四桁命題は作らないことを原則とする(作ったとしても、他人に読ませる文章には必ずしも表示しない)。
3.5 口頭で語る: 書き上げた命題集を、一桁レベルの命題だけを使ってうまく口頭で説明できるか確かめる。次に二桁レベルまで語ってうまく口頭で説明できるか確かめる。三桁レベルまであれば、もちろん次に三桁レベルまで語って確かめてみる。
4 文書作成: 文章を書き始め、文書を完成させる。
4.1 命題文を段落文にする: できあがった桁番号付き命題を、文書の骨格(構造図)として、それぞれの命題を見出しにして、その見出しを説明する文章を段落で書く。段落は複数になってもかまわない。
4.2 段落内・段落間での整合性確認: 一度書き上げたら、書いた文章が、それぞれの命題内容を忠実に反映しているか、またその命題の他の命題との構造的関係を乱すものになっていないかをチェックし、必要に応じて書き直す(2と3の作業がいい加減だと、この段階で文書が破綻していることがわかるので、2と3の作業 (特に3.5) は丁寧にやっておくこと)。
4.3 細かな作業: 書き上げたら校正をして、脚注や参考文献などを加える。
4.4 さらに細かな作業: (コンピュータで書く場合)さらにフォントの種類や大きさなどを調整する(逆に言うなら、これまでの執筆では細かなことにあまり拘らずとにかく内容に集中して書く)。この意味で、4.2までの執筆はテクストエディターで行い、4.3から初めてワープロソフトを使う(テクストエディターの文章をコピー・アンド・ペーストする)ようにすることを勧める。
以上
なお、まとまった文書を作成する場合のテクストエディターとしては、私はWZ EDITORをお勧めします。アウトライン機能が非常に便利で上記の「3.1 - 4.2」を簡単にできるからです。(ちなみに私はWZ EDITOR 5の版のままですが、これでまったく問題は感じていません)。
また、最初の段階からワープロソフトを使うことを私が勧めないのは、現在、標準的ワープロソフトとして使われているMS Wordが、あまりにもお節介で不安定な使いにくいソフトだからです。罫線機能は時に分けのわからない動作をしますし、コメント機能や脚注機能などはよくフリーズさえします(私は基本的にこれらの機能を使わないのですが、他人からの文書を編集しなければならない時に苦労します)。
文書を作る時は、あまりMS Wordの機能に依存した文書を作らず、テクストエディターだけでも表現できるような基本的構造の簡潔さ、ひいては論理の明確さで、わかりやすい文書を作ることを目指すべきだと思います。
■関連記事
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2 件のコメント:
とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。
ビジネスマナーの講座さん、
コメントありがとうございました。
ビジネスマナーの講座のページも魅力的ですね。
http://www.manners-biz.com/
これからも互恵的なウェブ文化が育てばと思います。
2012/04/14
柳瀬陽介
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