2012年1月21日土曜日

学術論文における一人称(I/we)の使用




今、卒論と修論のチェックをしているのですが、こういった学術論文における一人称(I/we)の使い方がやはり気になります。

最近の傾向としては、「『学術論文では一人称(I/we)を使わない』というのは神話だ!」として、積極的に一人称の使用を勧めているみたいですけど、やはりあまりに一人称がこのジャンルで多用されていると、ちょっと奇異。

今年初めてライティングの教科書として使ったJ. Williams & G. Colomb (2010)の Style: The Basics of Clarity and Graceでは、学術論文における一人称(I/we)の使用について次のようにまとめています。



They [=Academic writers] do use the first person with verbs that refer to the writer's own writing and thinking: cite, show, inquire. These verbs are often active and so in the first person: We will show ... They are examples of what is called metadiscourse.

Metadiscourse is language that refers not to the substance of your ideas, but to yourself, your reader, or your writing.
J. Williams & G. Colomb (2010, p. 31)



Metadiscourseについてはここにも解説があるけど、私なりに言い換えれば、論文のトピックについての「語り」 (=discourse) に「ついての」 (=meta) 著者の見解・態度・判断・方向づけなどを示す「語り」が「高次の語り・一段階高い所からの語り」 (=metadiscourse) であるとなりましょうか。

Metadiscourseの典型例でしたら、調査結果を報告した後に、積極的に著者の独自の解釈・結論を示したい時の"We claim"や"We conclude"などになりましょうか。こういった場合に一人称は積極的に使われるわけです。


これに対して、著者独自の考えなどではなく、研究を行う者なら誰でもやるような調査手続きなどに関しては、いちいち一人称を使わず、受動態で表現することが多いとWilliams & Colombは言います。


On the other hand, scholarly writers generally do not use the first person with verbs that refer to specific actions they performed as part of their research, actions that anyone can perform: measure, record, examine, observe, use. Those verbs are usually in the passive voice: The subjects were observed...
J. Williams & G. Colomb (2010, pp. 31-32)



まあ、日本語で考えてみても、日本語はだいたい一人称を始めとした人称表現はあまり使わなくても済む言語だけれど、それでも学術的な論文で「この分析結果の中で、私が特に注目したいのは・・・」などと「私」という表現を使うのは別にかまわないでしょう(もちろん「この分析結果の中で特に注目に値するのは・・・」といった表現の方が多いでしょうけど)。

しかし論文の中でいちいち「次に、私は○○を測定した。その後、私はその測定結果を前節の△△の分析結果と比較した。つまり私は○○と△△を実証的に検討したのである」などと書けば、その日本語は相当に「ウザイ」ものとして聞こえるでしょう。

英語は日本語と比べると、はるかに人称表現を使う言語ですが、それでも、個人的な話ではなく客観的な内容について語る学術論文では、著者の独自性を示すべきところでこそ一人称を使って"Agent-Action"(あるいは"Character-Action")で表現すべきであり、他の客観的な内容については受動態などの"Topic-Comment"のパターンで表現しておく方がいい、とまとめられましょうか。(別の言い方をしますと、通常は"Topic-Comment"のパターンで淡々と研究内容について述べているからこそ、いざという時に使う"Agent-Action"パターンが活きる、となります)。


もちろんこういった使い分けは、厳密な規則(rule)ではなく、だいたいの原則(principle)ですから、上の引用を金科玉条のように振りかざすのは愚かなことです。結局は、多く学術論文を英語で読み、だいたいどのように一人称が使われているかを感覚としてつかんでおく必要があります。

もちろん、多くを読んで言語感覚を身につけておかねばならないというのは、人称に関する表現だけの話でなく、また学術論文というジャンルについてだけの話でもないのですが・・・。











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