研究の概要は以下のとおりです。
■背景:質的研究やリフレクションは英語教育界でもだんだん受容されてきたが、その理論的理解はまだ十分でない。
■定義:本研究は「リフレクション」を、ルーマンに倣って「自己観察と自己記述」と定義してリフレクションひいては質的研究についての探究を深める。
■目的:(1)理論的には、自己観察と自己記述の自己言及性に着目し、意識とコミュニケーションの「オートポイエーシス」(自己組織化・自己再生産)、および意識とコミュニケーションのインターフェイス(「構造的カップリング」)形式としての言語の解明を行う。(2)実証的には、言語教師志望者の自己観察・自己記述およびそれの二次的観察・記述のデータを得て、そのデータを基に(1)で述べた理論的見解の妥当性を検討する。
■方法:(1)理論的にはルーマンの『社会の社会』の枠組みを主に使う。(2)実証的にはWebCTシステムに8週間にわたって蓄積された言語教師志望者14名の文章をデータとして用いる。
■意義:この研究は、これまでの応用言語学が十分に開拓していない ―複雑性を援用した研究でも十分に扱っていない― 自己言及性を前面に出す独自性をもち、かつ実際のデータも使うところに意義を有する。
■結論:言語は意識とコミュニケーションのそれぞれの自己言及、および両者のインターフェイスにとっての重要な形式であることがデータからも確かめられた。言語による自己観察と自己記述は個人と共同体の可能性を広げるものであること、さらには「本当の自分」といった確定はできないこともデータから裏付けられた。
アウトラインは以下の通りです。
1 序論1.1 背景
1.2 先行研究
1.3 問題
1.4 意義
1.5 方法
1.6 免責
2 理論的解明2.1 観察自体の盲点性
2.2 自己の不確定性
2.3 二次的観察の複数性・多元性
2.4 伝統的認識論が扱い難い自己言及性
2.4 自己言及によるオートポイエーシス
2.5 オートポイエーシスの回帰的安定
3 データ収集の方法3.1 プロジェクトの概要
3.2 理論的導入
3.3 書記言語による自己記述(5週間)の方法
3.4 音声言語によるグループでの二次的観察・記述(3週間)の方法
3.5 データ整理の方法
4 データ解釈の結果4.1 意識システム4.1.1 自己観察a) 促進される自己観察
b) 昔のことは書きやすい
c) 最近のこと(大学時代)は書きにくい
4.1.2 自己の「固有値」a) 自分の枠組みの自覚
b) 「固有値」への固着
c) 「固有値」からの解放
4.1.3 オートポイエーシスa) 現在の私に受け入れられやすいように自分を再編成
b) 創られる自分
c) 観察・記述された自分に戸惑う
d) 自己観察・記述による自分の探究
e) 観察対象の自己と観察者の自己の変容
4.1.4書記言語でのオートポイエーシスa) 自己の発見
b) 自己の編集
c) 自己の創作
d) 自己への違和感
e) 二次的観察による発見
4.2 言語4.2.1 メモ言語とコミュニケーション書記言語a) 一般的な困難性
b) 書記言語としての特徴:文体による修飾、文体選択
4.2.2 書記言語と音声言語a) 書記言語の間接性と音声言語の直接性
b) 書記言語の残存性と音声言語の消散性
c) 書記言語の集中性と音声言語の拡散性
4.2.3 第二言語での表現a) 言語化の困難性
b) 言語表現の自覚
c) 強制なしでの正確性の追求
d) 第二言語の異文化性
4.3 コミュニケーションシステム4.3.1 コミュニケーションを通じての意識システムのオートポイエーシスa) 関係性の中での意識システム
b) 関係性の中での意識システムのオートポイエーシス
c) 関係性認識の違い
4.3.2 言語コミュニケーションのオートポイエーシスa) コミュニケーションの中からのオートポイエーシス
b) コミュニケーションシステムから逃れられないコミュニケーション
5 結論5.1 研究課題への答え
5.2 発展的考察
5.3 実践的示唆
5.4 本研究への批判と応答
5.5 今後の課題
意識・言語・コミュニケーションの関係図は以下の通りです。
追記 (2011/08/22)
学会口頭発表を録音した音声ファイルをアップロードしました。ご興味のある方は聞いてやってください。お聞きになる際は、発表に使ったパワーポイントスライドを見ると多少はわかりやすいかと思います。
参考記事
言語文化教育プロジェクト (2011年度)
ルーマンによる「観察」「記述」「主体」の概念
その他のルーマンに関する柳瀬ブログの記事
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