4 [結論] 英語教育研究のあり方と今後の課題
4.1 [主張] 英語教育界はEPを最優先すべき
EPの「理解」概念を、ハイデガー的な《理解》とみなすならば、教師が《現存在》として存在することとなる。さらにこのハイデガー的解釈によるならば、EPとは、学習者を《共現存在》として捉える試みである。学習は《有意義化》による《実存》として捉えられる。これは教師と学習者が共に《現存在》であることをもっとも活かす研究である。
「教師の成長」を学校現場における教師の専門職的かつ人間的成長として考えるならば、教師の成長を第一に考える研修などにおいては、英語教育界はEPを最優先するべきである。ARはEPによる理解が焦点化されてから行われるべきであろう。さらにSRは実践への直接的な指示を目指すものではなく、実践の抽象的な振り返りの枠組みを提供するものと考えられるべきであろう。英語教育界はこれまで以上に「何のための、誰のための研究」ということを自覚して研究を進めてゆかねばならない。
4.2 [関連] 生態学的言語学(ecological linguistics)とのつながり
本研究で示したハイデガー的《理解》概念は、生態学的言語学、ひいては社会文化的アプローチの発想との親和性が高いものである。日本ではまだ評価が高いとはいえない、こういった “alternative”な発想の正統性を示すことで、英語教育研究は豊かさをまし、おそらくは実践性を高めることができるだろう。
4.3 [課題] 授業研究リテラシー
実際にEPを行うときに、それはどのような場であり現象となるべきか、さらにはそこではことばはどのように使われるべきかについては本研究ではほとんど考察されなかった。授業を研究してゆく際のことばは、状況に埋め込まれ、referenceが豊富な話しことばで行うべきなのか、それとも従来のように、実際の状況を必ずしも共有しない人にも読まれうる書きことばでなされるべきなのか。話しことばと書きことばを使い分けるとしたら、その使い分けはどうするべきか。それぞれの限界は何なのか。そういった授業研究におけることばの働きについての考察を得ることにより、私たちは授業を記述し読み解く「授業研究リテラシー」を高めることができるだろう。
主要参考文献
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teaching. Language Teaching Research, 7 (2), 113-141.
Allwright, D. (2005) Developing principles for practitioner research: The case of Exploratory
Practice. The Modern Language Journal, 89 (iii), 353-366.
Gieve, S. and Miller, I. K. (eds.) (2006) Understanding the Language Classroom. Hampshire,
United Kingdom: Palgrave Macmillan.
Heidegger, M. (1986/1927) Sein und Zeit Max NiemeyerVerlag Tübingen: Austria
Ortega, L. (2005) “For What and for Whom Is Our Research? The Ethical as Transformative Lens in Instructed SLA” The Modern Language Journal, 89, iii, pp. 427-443
ドレイファス、ヒューバート著、門脇俊介監訳 (2000) 『世界内存在』産業図書:東京
ハイデガー、マルティン著、原佑・渡辺二郎訳 (1980)『存在と時間』 中央公論社:東京
ハイデガー、マルティン著、辻村公一・ハルトムート・ブッナー訳 (1997) 『有と時』創文社:東京
横溝紳一郎(2004)「アクション・リサーチの類型に関する一考察:仮説-検証型ARと課題探究
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