現在、大修館書店『英語教育増刊号』(9月中旬発売)の「年間書評」のための本12冊を選ぶべく読書を続けており、遅まきながらこの本を読みましたが、これは発刊と同時に読んで皆さんに良書として伝えるべきでした。
しかも私はこの本をもったいなくも江利川先生から献呈までしていただいていたのでした。江利川先生には本当に失礼なことをしておりました。江利川先生、誠に無礼をいたしました。この場を借りて、江利川先生にはお詫び申し上げます。
と、私の事情はさておき、なぜこの本は英語教育関係者が読むべき本なのか -- それは上記の原稿で私は丁寧に書きます。ですからここは簡単に書きますと、この本が以下のような現実的で問題に対して、具体的なデータと資料をもって答えようとしているからです。
「ポリティクス」と聞くと身構えてしまう人も未だにいるかもしれませんが --そしてそのように政治に無自覚な人ほど政治的に頑迷な見解しかもっていないこともしばしばなのですが-- この本は資料集として使えるぐらいに引用できる貴重なデータが満載です。私たちは江利川先生のこの、構想において大胆で、実証において緻密なアプローチに学ぶべきでしょう。
しかも江利川先生の文章は読みやすい。アマゾンのリビューでも、よくある単なる身内のべた褒めではない、しっかりとしたレビューが書かれているのもうなずけます。
江利川先生が「はじめに」(3-4ページ)で投げかけておられる10の疑問は以下のとおりです。
疑問1: なぜ、英語が「好き」と答える中学生の割合が9教科中で最低なのでしょう。
疑問2: なぜ、中学生の英語の成績が10年以上も下がり続けているのでしょう。
疑問3: なぜ、教員や予算が不十分なまま、小学校の外国語活動を必修化したのでしょう。
疑問4: なぜ、高校現場の実情を無視して「授業は英語で行う」などと一律に決めてしまうのでしょう。
疑問5: なぜ、国の「英語が使える日本人」育成計画は英語の苦手な子どもを無視するのでしょう。
疑問6: なぜ、成果が検証できない習熟度クラスを続けるのでしょう。
疑問7: なぜ、親の経済力と子どもの英語力とが比例する構造になったのでしょう。
疑問8: なぜ、英語の時間に「愛国心」や「奉仕の精神」などの道徳を教えさせるのでしょう。
疑問9: なぜ、英語教員の7割が過労死線上に置かれ、精神疾患が10年で3.4倍にも増えたのでしょう。
疑問10: なぜ、財界などから教育政策が出てくるのでしょう。
本書の簡単な構成はここで見ることができます。
とにかくこの本は良書です。おそらく私が今年「年間書評」で推薦する本の中でも最も強く推薦する本となるかと思います。
およそ日本の英語教育に関してきちんと冷静に考えたい方はぜひお読みください。
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追伸
私は尊敬する江利川先生にまでこのような失礼をしてしまうような人間です。私は他にも当然やるべき事をやらずに放置したままにしております。皆様のお許しを乞う次第です。
2 件のコメント:
柳瀬陽介先生
拙著『英語教育のポリティクス:競争から協同へ』に対しまして、たいへん温かいお言葉をお寄せ下さり、心からお礼申し上げます。
拙著は、昨年の政権交代直前に、弱肉強食で競争主義的な新自由主義教育政策に対抗するために執筆しました。
その後、拙著で提言した教育予算の増額や、経団連の政治献金斡旋中止など、一定の前進がありました。
鳩山首相は辞任しましたが、教育改革の方向まで逆戻りさせてはなりません。
その意味で、これからが正念場です。
さらに声を上げていきましょう。
格差と競争から平等と協同の教育へと舵を切らせましょう。
江利川先生、
私の失礼にもかかわらず、コメントまで寄せてくださいましてありがとうございました。
奇しくも本日、鳩山首相が辞任を表明し、政治の混迷は深まるばかりです。
このような時代に、時々の政治権力に右顧左眄しながら教育政策を定めようとすることは愚かです。
今こそ歴史的視野をもち、原理的に考え、具体的な実証で理論を育てるべきかと思います。
斎藤兆史先生の言葉を借りるなら今こそ「学理」こそが重要だということになりましょう。
この点、江利川先生の論考は現在の日本の英語教育界での一つの模範になっているかとも思います。
先生のますますのご活躍を祈念いたします。
これからもどうぞよろしくお願いします。
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