2010年4月10日土曜日

Information/Knowledge ManagementのためのEvernote

1 定義

Evernoteとは万能ノートである。まさにEverなNoteである。何でも、どこでも、いつでも (whatever, whenever, wherever)にノートがとれるソフトウェアである。テキストでも画像でも音声でも様々なファイルでも記録できる。PC上でもウェブ上でもiPhoneでも使える。


1.1 アナログ文化の単なるデジタル化ツールではない

Evernoteはこれまでのアナログ文化のデジタル化をするだけのソフトウェアではない。ワープロはタイプライターのデジタル化、表計算ソフトは簿記帳簿のデジタル化、プレゼンテーションソフトはオーバーヘッドプロジェクターのデジタル化であると言える(だが、これらのソフトウェアからも、これまでのアナログ文化にはなかった使用法が芽生えていることに気づいている人も多いだろう)。


1.2 Evernoteは新しい文化を作り上げるソフトである

Evernoteは、デジタル処理による情報の記録・保存・検索・整理の高度化で可能になる新しい知識文化を創り出した新しいソフトウェアである。だから使っていない人にはその良さはわかりにくいが、いったん使い始めたら次々に可能性が拓けてどんどん創造的・生産的になる。

かつてWalkmanが出る前には多くの人は「歩きながら音楽を聞く必要はないでしょう」と言っていた。iPodが出る前は「自分のCDをすべて持ち歩く必要はないでしょう」と言っていた。しかし今、多くの教師が、世界各地の人が作ったYouTube動画をiPodに携帯し、授業で使ったりしている。昔は想像もできなかった文化だ。現在の自分で想像し難いからといって、新しい文化を拒絶することなく以下を読んでいただければありがたい。



2 用途

Evernoteの用途は「Informationの縮減によるKnowledgeの創造」である。私たち知的労働者は雑多な情報を凝縮された知識に転換することを仕事にしている。Evernoteはこの転換過程でのInformation/Knowledge Managementを飛躍的に向上させる。



3 Evernoteを支える電子的手段

Evernote自体は非常に優れたソフトだが、このソフトを支えているのは、information入力とknowledge出力の容易化・高度化でもある。

3.1 Information入力のための方法

3.1.1 携帯できる小型入力機

iPhone, Pomera, IC recorder, digital camera/videoなどの携帯できる小型入力機(D/A converter)はいつでもどこでもEvernoteを使うことを可能にしている。

3.1.2 ウェブからの入力

Websiteの情報を簡単にキャプチャーするブラウザー拡張機能(Weg Clipper)やGmailといった高度なWeb-mailはウェブからの入力をさらに容易にした。さらにQuestiaやKindle for PCといった有料サービスはウェブからの入力を高度化した。

3.1.3 伝統的なデジタル入力

Pomeraやnetbook(あるいはiPad)といった小型入力機はテキスト入力を一層身近なものにした。またスキャナーもずいぶん便利かつ安くなり、テキスト入力は一層容易になった。

3.2 Knowledge出力のための方法

ブログやクラウドコンピューティングは、私たちが"publish"することの参入障壁を飛躍的に低くした。



4 Information/Knowledge ManagementのためのEvernote

こうしてinformation入力とknowledge出力が容易になり同時に高度化すると、informationとknowledgeの間の過程が莫大かつ複合的なものになる。

Information/Knowledge Managementが難しいと、私たちはinformation入力とknowledge出力を落とすことによって情報革命に対応する。逆にInformation/Knowledge Managementが容易だと、私たちはinformation入力とknowledge出力の量と質を高める。EvernoteはInformation/Knowledge Managementを飛躍的に容易にするソフトである。

Information => Information/Knowledge => Knowledgeのプロセスは、私は現在のところ以下のようにまとめている。


このようなプロセス分析を行ったのは、Evernoteがあまりにも便利なので、Evernoteをどのように使いこなしてよいかしばらく混乱したからである。だがこのように私なりに分析をしてみるとEvernoteが本当に便利なソフトであることがわかった。

EvernoteはInformation/Knowledge Managementにおける、データの記録・保存・検索・Review & (Re)Designを容易にし高度化する。

4.1 記録

Evernoteは3.1で述べた様々な入力を統合的に記録する。特にiPhoneのEvernoteアプリ、各種ブラウザーのEvernote拡張機能(ウェブキャプチャー Web Clipper)による簡単で高速な記録は感動的ですらある。街で見かけたポスターやウェブでちょっと気になる情報は数秒であなたのEvernoteに記録される。

4.2 保存

Evernoteは、あなた個人専用のミニ・インターネットをクラウドに構築して保存するソフトとも言える。クラウドに保存されるからあなたのパソコンはもとより、iPhoneでも、出先で使うパソコンでもネットに繋がったものなら、どこからでもあなたが保存したミニ/インターネットにアクセスできる。

4.3 検索

Evernoteは、(1)グーグルなみの語句検索機能、(2)容易なタグ付け、(3)自由自在のタグの階層化、(4)To-doチェックの有無、(5)作成日・変更日の時系列情報、(6)添付された情報など複数の情報検索ができる。これらを適宜組み合わせることにより、あなたはおぼろげな記憶からでも(あるいはまったくの忘却の中からも)あなたが記録・保存した情報にアクセスすることができる。またEvernoteは画像として読み込んだデータを文字として検索することができる。基本は英語だが、今後日本語でもこの機能は充実する予定である。

4.4 Review & (Re)Design

Evernoteの"note"は柔軟な使い方ができるので、集めた情報を知識に転化するさいのreviewと(re)desiginが非常に容易になる。こうして大量の情報から高度の知識を創造することが可能になる。(無論、アウトラインプロセッサやブレーンストーミング的ソフトの併用も有効である。この点私が好きなのはアウトラインプロセッサとして使えるテキストエディタであるWZ editorと、思考ツールとして使うPowerPointである)




5 応用例

Evernoteの応用に限界はないであろう(主な限界はあなたの想像力と意欲である)。ここではこのブログの読者にとって興味があると思える3つの例だけの提示に留める。

5.1 論文執筆のために

ウェブで読める論文(電子ジャーナル・断片的な情報)や書籍(Questia, Kindle for PC, Google Books)の入力、ちょっとした発想の入力、論文を形にするための作業ノートとしてEvernoteを使い、アウトラインプロセッサ/テキストエディタとしてのWZ editorを使うというのが、論文執筆という長期間におよぶ知的迷宮の旅を行うための有効な方法の一つであろう。

5.2 教材研究のために

たとえばあなたが明日の授業のために一つの例文あるいは歌を用意する。しかしその例文や歌には様々な特徴があり、他の機会でも使えるデータである。Evernoteで例えばそのデータ(ノート)に「受動態」「by以外」「高校基本語レベル」「感動的」、あるいは「出会いの季節系」「アップテンポ系」「関係代名詞」などといったタグを付けておく(タグ付けは非常に容易である)。こういったデータを貯めておいて、タグや語そのもので検索すれば、あなたはキャリアを重ねれば重ねるほど大量のデータを自由自在に使いこなすことができるようになるだろう。

5.3 Total Recall (ライフログ)のために

論文や授業だけでなく、とにかく気になった情報はEvernoteにぶちこんでおく習慣をつける。入力は簡単だし、タグ付けは面倒ならしなくてもよい(語検索でも結構検索はできる)。情報の記録・保存のコストはほぼ"free"である。発想を変えてあなたの人生で少しでも大切とおもったことはとにかくEvernoteにぶちこもう。入力した情報は後で整理・編集・加工することはあっても、削除することは基本的に考えない。私たちは"free"の発想に慣れなければならない

Evernoteのデータが数年間分もたまったら、これはすごい情報の小宇宙になるだろう。あなたがほとんど忘れてしまった昔の情報も瞬時に使えるようになる。

Google (Search engine)は空間をゼロに近づけ、Evernote (Total Recall)は時間をゼロに近づけようとしているのかもしれない。



6  Evernoteの学び方

Evernoteは使い易いソフトなので、マニュアルを読まなくても直感的に操作できるが、まずはあなたの想像力を解放するために、各種のガイドを読んだ方がいいだろう。ガイドを読む時間的・金銭的コストは、後で何百倍・何千倍(というより計量不可能なぐらい)にあなたの利益となって返ってくるだろう。



6.1  公式のホームページとブログ

公式ホームページ(日本語)

公式ブログ(日本語)

6.2 動画

Evernoteの基本的な使い方 Windows編 (1:35)




Evernoteの基本的な使い方 Mac編 (1:34)




Evernote 3.0 for iPhone and iPod Touch (1:22)



Evernote 新規登録

私は以下のサイトからガイドブックを購入した。運営者の姿勢がすがすがしい。小規模電子出版は、iPhoneのアプリのようなものと考えて、アップデート版ができる度に配信してくれるというのもいい。「商品を売って金儲けをする」ではなく、「面白いことをする共同体を運営する」という発想といえるだろう。私はウェブ文化で大切なのはこういった人間的感覚だと思う。

EVERNOTEハンドブック



7 限界

物事には良い面だけでなく、悪い面もある。ここでは現在の私のちょっとした懸念を書いておく。ただ、私はこれらの懸念からEvernoteを使うのを止めたり制限したりしようとはまったく思っていない。ウェブという文化を私は信じている。

7.1 バグ

Evernoteも時に動作がおかしくなることがある(と言ってもMicrosoft製品と同じぐらいの頻度である)。これまで私はそういった誤作動で深刻な被害を受けたことはない。またEvernoteはまめにバージョンアップをしている。

7.2 Security 流出と消失

大量のデータをEvernoteに入れた場合、そのデータが流出したり消失したりするということがリスクになる。流出に関しては、パソコン現物の管理と、アカウントのパスワード管理を徹底する必要がある。消失に関しては、Gmailと同じようにこれだけのデータが消失したらと少し怖くなる(DropBoxだと手元のハードディスクに保管するという手段でリスク回避ができるのだが)。だが、この場合も私はリスクとベネフィットを天秤にかけ、Evernoteをどんどん利用することを選ぶ。

また、お人好しと言われても仕方ないが、私はEvernoteのCEO であるPhil Libin氏は信頼できる人だと思っている。

Meet Evernote's CEO Phil Libin (6:22)





追記
Evernote と Dropbox の使い分けかたを理解する」の記事は分りやすいです。

Evernoteでの上手な検索方法についてはこちらの記事をご覧下さい。


【広告】 というわけで『リフレクティブな英語教育をめざして』『危機に立つ日本の英語教育』の情報もEvernoteでキャプチャーしてね(笑)。








0 件のコメント: