2008年9月27日土曜日

白井恭弘『外国語学習の科学』岩波新書

新書の社会的機能とは、各界の一流の専門家がその知識と見識を、一般公衆に向けて平易に解説し、その分野に関する見通しを明るくすることにあると思います。新書の価格設定と全国津々浦々の書店にならぶ流通力は、そういった社会的機能を果たす限りにおいて活用されるわけであり、内容が恣意的あるいは扇情的なものに過ぎないなら、その本は、日本がこれまで育ててきた新書という出版文化を乱用していると批判されても仕方ありません。

この岩波新書は、外国語学習に関しての広範で新しい研究内容をコンパクトにまとめた良心的な新書です。私ならまず英語教師の皆さん、英語教師を目指す皆さん、そして外国語学習に興味を持つ高校生に勧めたいです。外国語学習の「常識」がどのようなものであり、それはどのようにして確かめられてきたかを概観するのに最適の(しかも廉価の)入門書だからです。まずは第二言語習得研究の見通しを得ること--これは「専門的教養」として必須のことかと思います。

この本にまとめられた研究結果は、無謬の真理とは言わないまでも、さまざまな研究者が手堅くまとめてきたものです。これに敬意を払わない手はありません。社会的権力を握る人々が、外国語教育に、時に無体な要求をすることの多い昨今ですが、そんな時には静かにこの本にまとめられている知見を提示し、反論するべきでしょう。

そういう意味では、本書は、外国語教育に関わる全ての人が目を通しておくべき本かとも思います。


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