私たちが計画するインタビューにおいては、教師は、予想外だった学習者のモティベーション変動について語るわけであるが、その語りは一種の「物語」であるといえよう。「物語」に関してやまだ(2000: 20)はBruner (1986)の「論理実証モード」と「物語モード」の区別から、物語を規定する。
論理実証モードは、心理学者が用いてきた科学的パラダイムです。「ある出来事についての陳述が、真か偽か?」と問い、そこから、真か偽を明らかにする条件設定がなされ、実証によってどちらかの答えがみちびかれます。物語モードでは、「二つ以上の出来事が、どのように関係づけられて陳述されるか?」が問われ、出来事がどのような意味関連でむすびつけられるかが問われます。どれが正しいかを決定することが問題ではないので、物語論では、複数の答えが両立しえます。(20ページ)
やまだのいう「ライフストーリー研究」とは、インタビュイーが語る「物語」を解明する研究である。(ちなみに「ライフストーリー」に、研究者が近現代の社会史と照合し位置づけ、注記を沿えて構成したものが「ライフヒストリー」と呼ばれる(やまだ 2000: 15))。やまだ(2000: 1-2)のまとめるライフストーリー研究の意義を報告者なりに敷衍すると次のようになる。
(1)人生の経験を「物語」としてとらえることができる。「物語」とは「二つ以上の出来事を結びつけて筋立てる行為」であり、ライフストーリー(人生の物語)とは、「その人が生きている経験を有機的に組織し、意味づける行為」であり、「たえざる生成・変化のプロセス」である。「物語」として語ることにより、自然科学では捉えられない生活者・実践者の意味関連が解明される
(2)物語の語り手と聞き手によって共同生成されるダイナミックなプロセスとして物語を語り直すことによって人生に新しい意味を生成することができる。経験されてもあまり語られることのなかった過去の体験が、「物語」として、聞き手との協働解明の中で新たに語られる・語られ直すことにより、語り手も新たな気づきを得ることができる。
(3)人生の物語を語ることが、個人の物語を超えて、現世代から、次の世代や未来世代へのコミュニケーションとして、世代と世代、時代と時代をつなぐ働きを担う。「物語モード」は私たちが生活者・実践者として慣れ親しんでいるモードであり、このモードでの語りによって、他者の経験はより深く聞き手・読み手に伝えることが可能になる。
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