2009年7月16日木曜日

大津 由紀雄 編著 (2009) 『危機に立つ日本の英語教育』慶應義塾大学出版会

一説によるなら、この本は、目立つ黄色の表紙が示しているように、「危機に立つ『日本の英語教育』」および「『危機に立つ日本』の英語教育」に対する編著者からの「イエローカード」です。

世論や政財界の声に振り回される「英語教育」、そしてヒステリックに数字に追われ・数字を追いかけている「日本」--これらの「危機」を、計13名の論者が、それぞれの視点とそれぞれのスタイルで論じます。その概要は、「はじめに」と「目次」からある程度推測することができるでしょう。


この本を、私は9月中旬に発売される『英語教育 増刊号』(大修館書店)の年間書評で取り上げさせていただきましたので、このブログでは完全な好みで私のお薦め所収論文を紹介することにします。それは


主権「財界」から主権「在民」の外国語教育政策へ (江利川春雄)

言語教育リテラシーの政策とイデオロギー (佐藤学)


です。

江利川論文は、具体的データに基づいての社会的・政治的・経済的分析であり、今後の日本の英語教育界での必読論文となると思います。とにかく時流に乗ること、役人の先棒を担ぐことこそを行動規範としているような人が多い日本の英語教育界においてはこのような論考を読むことを欠かしてはいけません(その点で同じく本書に掲載されている斎藤兆史先生の「日本の英語教育界に学問の良識を取り戻せ」という訴えも痛切です)。

佐藤論文は、次の冒頭の文章をお読みいただければ私がこの論文を重要と考える理由もわかってくださるのではないでしょうか。


この30年来、毎週のように学校をまわって、現場の先生たちと一緒に研究授業をしてまいりましたが、近年になればなるほど、英語が最も難しい教科になってしまい、英語の授業を改革することがいかに困難かを痛切に感じています。なぜ難しいのかという理由はとてもはっきりしています。英語の授業に内容(コンテンツ)がないからです。 (240ページ)


佐藤論文は2008年12月21日の慶應義塾大学講演に基づくもので、発表資料(パワーポイントスライド)はここからダウンロードすることもできますが、やはり今回このようにその講演が活字化されたのは、体制迎合的で無批判的な日本の英語教育界にとって大きな意味をもつのではないでしょうか。





ちなみに抜け目なく自己宣伝をしておきますと(笑)、私は本書で、現時点での私の英語教育の考え(特に言語コミュニケーション力論と複言語主義)を一般読者にわかりやすい形で書き下ろしました。これまで言語コミュニケーション力論に関しては、いろいろな方から「もっとわかりやすい形で説明して欲しい」と言われて、いくつかの機会では口頭でそのリクエストに応じてきましたが、今回の原稿でそのリクエストに活字である程度お応えできたのではないかと思っております。


ちなみに私の論考のリード文は次のようになっています。


この論考では、小学校から大学・大学院に至るまでの学校英語教育の全体像を描き出すことを試みます。論拠とするのは、これまでの応用言語学の蓄積に基づいた言語コミュニケーション力論と、欧州評議会での複言語主義の議論、および社会学者ルーマンによるコミュニケーション論です。論考は次の順番で進んでゆきます。

(1) 言語コミュニケーション力の三次元的理解
(2) 義務教育で特に重要な複言語主義的態度
(3) 高校から大学・大学院にかけての社会的コミュニケーションの導入

これらの分析枠組みによって、小学校から大学・大学院に至るまでの英語教育の見通しを得ることがこの論考の目的です。



⇒というわけで買ってね(笑) ←結局は商売かよ!






10 件のコメント:

よしやす さんのコメント...

では、靜哲人さんの近著は「レッドカード」なのでしょうか?(笑)

柳瀬陽介 さんのコメント...

あ、うまい。ざぶとん一枚(笑)。

よしやす さんのコメント...

見事な掛け合いに仕上げていただき、ありがとうございました(笑)。

冗談はさて措き、
両書籍とも、近畿圏の某書店で平積みになっていました。

英語教育関係の書籍は、棚に残る期間が短いようなのですが、棚落ちした後も、その内容が英語教育関係者末端にまで浸透することを切に願うものです。

柳瀬陽介 さんのコメント...

ひ・・・よしやすさん、
コメントありがとうございます。

平積みとは嬉しい限りです。ある信頼できる情報筋によりますと(笑)、この本はこれまでの慶應シリーズ以上に各方面で話題になっているそうです。

しかしおっしゃるように、言論・出版は一過性の話題としてでなく、きちんと考え続けるためのものにしなければなりませんね。

そういうわけで是 非 お 買 い 上 げ を! (爆)

よしやす さんのコメント...

私が1冊購入しましたので、最低1冊は売れたことになります。ご安心下さい。

あとは自宅で平積みにしたままにしないように気をつけないと…

そうだっ、ブログなんか見ずに、さっそく柳瀬さんの章から読んでみようっと。

柳瀬陽介 さんのコメント...

よしやすさん、
上のコメントに誤植があるようです。

「私が1冊購入」は「私が1山購入」、
「最低1冊は売れた」は「最低10冊は売れた」
の誤りかと思います。

もし誤りが文の中にでなく、行動の中にあったのであれば、本など読んでいる場合ではありません。
今すぐ本屋に戻って、上記の訂正文章が現実記述となるように行動を是正して下さい(笑)。

よしやす さんのコメント...

すみません、行動に誤りがあったようです。

明朝一番に書店に走り、大津本1山(10冊)と靜本1山(10冊)、合計20冊を柳瀬研究室宛に送付依頼をしておきます。

これで一件落着ですね。

あっ、請求書…もちろん柳瀬研究室宛です。
あとはよろしくお願いしま~す(笑)。

柳瀬陽介 さんのコメント...

よしやすさん、

重ね重ねありがとうございます。

先日よしやすさんとお会いした時、
財布から運転免許証が覗いていたので、
「こんな無防備な状態だと危ない」
と思って、無断ではありますが、私の
方でコピーを取らせていただいて
おりました。

本日、書籍代の支払いのため、消費者金融で
そのコピーを差し出し、よしやすさんの
名義でお金を借りることができました。

よしやすさんは他に借入がないということで、
かなり借入ができましたので、その分も
「山」の購入をさせていただきました。

便利な社会になってよかったですね。


これからもどうぞよろしくお願いします(爆)。

よしやす さんのコメント...

あっ…そうだったんですね(^^;)

でも、柳瀬さんのご研究や大津本の売り上げにご協力できて光栄です!(^^)!

週明けには柳瀬研究室は大津本と靜本で溢れかえっていることでしょう。

お返しにと言っては何ですが、10月に神戸でお会いするとき(ネット上に出せるのはここまでですが…)には、奢ってくださいね(^^)v

柳瀬陽介 さんのコメント...

よしやすさん、

名義までお借りしたわけですから、もちろんごちそうさせてください。

爽健美茶がいいですか、それともミネラルウォーター?

(きりがないので、この応酬はここで打ち止め 笑)