2007年5月23日水曜日

Lourdes Ortega (2005) “For What and for Whom Is Our Research?”

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Lourdes Ortega (2005) “For What and for Whom Is Our Research? The Ethical as Transformative Lens in Instructed SLA” The Modern Language Journal, 89, iii, pp. 427-443

この論文は、2000年代前半にSLA研究で生じたメタ研究論(metareflection about research practices)を背景として書かれたものです。著者は、どちらかと言えば量的研究と見なされがちなcognitive-interactionist theories派の研究者としての基本的立場に立ちながらも、 “to be truly ethical, educational researchers must be prepared to defend what their research is for” “we have a responsibility to design our research programs in light of difficult questions regarding who the beneficiaries of our research are” (p. 427)という考えに賛同し、論文の最後では“I am hopeful that collectively and individually we can work towards a socially responsible, politically self-reflective, and epistemologically diverse field of instructed SLA that generates research inspired by societal needs.” (p. 439) と述べるに至ります。

 彼女がこの論文で掲げる規範的命題は、(1)The value of research is to be judged by its social utility; (2)Value-free research is impossible; (3) Epistemological diversity is a good thingの三つです。彼女はこれらの命題に関する哲学的論証にはあまり多くの分量を割かず、これらの命題に関連したSLAの諸問題を具体的にまとめます。

このように規範的命題を掲げ、倫理的態度を取るのは、一つにはこれまでのSLA研究が現場教師への関連性(relevance)を失っていること、もう一つにはネイティブ・スピーカーをモデルと規範にして第二言語学習を語ることの偏りが無視できないことなどがあります。これらの問題を無視し続けることは、もはや許されないというわけです。こういった立場を彼女はphilosophical pragmatism(ひいてはparticipatory liberalism)と称します。

 読んで大変に勉強になる論文でした。英語圏のSLA研究の層の厚さと健全さを感じました。とても誠実な論文だと思います。他の社会科学、教育研究と同様に、SLAそして英語教育研究も、まずは方法論的対立の時期を経験し、そして方法論的融和の時代を迎えるべきなのでしょう(ああ、なんだか弁証法的!(笑))。しかし日本では未だに量的研究しかみとめないような雰囲気が強く、方法論的対立の時代にすら入っていないような気がします。早く方法論的融和まで成熟し、 “a socially responsible, politically self-reflective, and epistemologically diverse field”を作り上げなければと思います。

追記:

先日、ハワイ大学に約一年間留学していた大学院生が帰国しました。日米の差を彼が述べるなかで、彼もやはり「ハワイでは、その研究は何のためにやっているのか、教育的意義は何なのかが厳しく問われていました」と述べていました。もっと日本の英語教育研究も教育現場の現実を見る姿勢を、せめて建前としてだけででも確立するべきかと思います。

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