2018年7月17日火曜日

7/22の公開研究集会「外国語教師の身体作法」での柳瀬発表の後の質疑応答



7/22の公開研究集会(「外国語教師の身体作法」)は、私の目算で41名(関係者含む)の参加者を得ましたし、それ以上に、場全体に一体感のあるいい研究会になったのではないかと思います。当日お越しいただいた方々に改めて御礼申し上げます。

下は、私の発表の後の質疑応答の要旨を私なりに書き直し少し書き足したたものです。この研究集会で学んだことは多々ありますから、それらはこれから少しずつ文章化してゆこうと思います。


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Q1 言語と身振りの間の関係について。両者は補完する関係にあるのか、それとも実は優劣の関係があるのではないか?

A1 近代以前の古代から現代まで続いている話しことばにおいて、言語―今回の発表の用語法で言えば「言語形式」―と身振りの関係は対等であり、そこに優劣はないと考えられる。しかし、グーテンベルクの印刷革命以来、近代人は身振りを伴わない書きことばを大量に産出して処理するようになったので、その影響から言語(形式)の方が身振りよりも重要であり、言語(形式)の方が主であり、身振りは従であるといった考えが広がったかもしれない。


Q2 ある小学校での英語教育の責任者だが、自分たちの学校では英語教育の評価を三段階でつけることにして、「英語で話す際に身振りをする」という評価基準を入れた。別段、身振りをしないと減点するといったことではないのだが、その評価基準を掲げたら子どもの英語に不自然でとってつけたような身振りが多くなってしまった。さきほどの発表を聞き、身振りは本来は内発的・内因的なものという説を学び、この評価基準を作成してしまったことを後悔し始めてている。とはいえ、子どもが本当に英語発話にのめりこんだら身振りが出てくるというのも事実で、それを評価したいという気持ちもある。

A2 一般に、人間の営みにある評価基準(尺度)を適用したら、その営みに従事している者はその尺度に合わせて行動し始めるため、その尺度は評価基準としての価値を失ってしまうと言われている。ご指摘の事例は、その根本的なジレンマの一例として考えられる。
 もし身振りをした回数で評価をするといったことをすれば、その結果は悲惨なことになるだろう。一方、評価基準を「声や顔の表情あるいは身振りなどが発話の意味に即した自然なものだった」などとすれば、そこまで悲惨な結果を招かないかもしれない。いずれにせよ、評価基準は power (権力)をもつようになるのだから、慎重に策定しなければならない。そもそも評価が必要なのか、必要としたらそれはなぜなのか、といった根底的な問いを徹底的に突き詰めることが必要であろう。評価という権力の濫用という論点はもっと強調されるべきだと考える。

関連記事
Robert Crease氏によるエッセイ「文化を測定する (Measuring culture)」の抄訳
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2018/07/robert-crease-measuring-culture.html
Wikipedia: Goodhart's law
https://en.wikipedia.org/wiki/Goodhart%27s_law
Wikipedia: Campbell's law
https://en.wikipedia.org/wiki/Campbell%27s_law
What is Campbell's Law. Diane Ravich's Blog. May 25, 2012.
https://dianeravitch.net/2012/05/25/what-is-campbells-law/
Wikipedia: Reflexivity (social theory)
https://en.wikipedia.org/wiki/Reflexivity_(social_theory)


Q3 ベイトソンの著作を読んでいると、からだの方が言語(形式)よりも基盤的であるようにも思える。「身振りを自覚してしまうとろくな事ははない」とさっき言われたが、小学校の実践でもアイコンタクトやジェスチャーを教師が金科玉条のように強調すると、子どもの行動が気持ち悪くて仕方ないようになってしまう(会場、爆笑)。意識して身振りをするということは、言語形式を操る以上に高度なことのように思える。だから身振りを評価項目に入れるのは本当に難しいと思う。また佐伯胖先生は、身体性の重要さを説けば説くほど、どんどんこころとからだが分離してゆくような論文も少なくないと批判していた。このように身振りの研究自体も難しいものであるが、同時にこのような研究に期待したい。

A3 おっしゃる通りだと思う。私が見たある研究授業では "Eye contact, Big voice, Gestures" を授業の目標にしていたが、言語形式の再生に必死な小学生の身体は固まっていた。ALTの女性は、"Everyone, please use gestures." と懇願したが事態は一向に変わらない。そこで中学校から来ていた英語の先生が半ばキレて、厳しい表情で "Everyone. Smile!"と命令した(会場、爆笑)。これは「教室あるある」(=教室でよく見られる現象)と思われるが、こういった状況からの脱却が必要である。
 また、自覚的に身振りを行いながら、身振りの自然さを失わない人々に役者・コメディアン・落語家などがいる。こういった人々がいかに身振りの訓練を行っているかについて学ぶことも今後参考になるだろう。

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ウィキペディア:スタニスラフスキーシステム
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%8B%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%83%95%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0
An Actor's Work: A Student's Diary
https://www.amazon.co.jp/Actors-Work-Students-Diary/dp/041555120X/

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