2013年度後期から私の授業ではポートフォリオ評価を導入することにします。学生の皆さんに、何よりも自分自身が学んだ実感をもってもらうことが目的です。
以下に、そのポートフォリオ評価の原理と原則について簡単に記しておきます。とはいえ、私自身はポートフォリオ評価の専門家でもありませんので、授業が進行するにつれいろいろと変更点も生じるかもしれませんが、それらはその都度訂正するとして、ここでは基本方針を書いておきます。
■ ポートフォリオとは何か
ポートフォリオ (portfolio)とは、もともと「書類入れ」を意味しますが、それが比喩的に使われ、教育の世界では学習者が学んだことを一望できるようにしたファイルなどのことを意味するようになりました。
ただし私は、ポートフォリオは、あくまでも学習者自身が編纂したものだとして規定します。教師が学習者のために、学習者の成果をまとめてあげてつくるものを私は意味しません。この意味合いでのポートフォリオの定義は、ポートフォリオは、「学生が、あるカリキュラムにおける自分自身の努力・進歩・達成を示すための学習成果を有意義にまとめたもの」("a purposeful collection of student work that exhibits the student's efforts, progress, and achievements in one or more areas of the curriculum" http://www.pgcps.org/~elc/portfolio.html) です。
このように規定するのは、下記をポートフォリオ評価の目的とするからです。
ポートフォリオ評価の目的
・自己指導型の学びを奨励する。
・自分が学んだことについての視野を広くする。
・学ぶことについての学びを促進する。
・教示されたことと評価することの接点を創り出す。
・学習者が、学び手としての自分自身の価値を見出す方法を提供する。
・学習者が、お互いに支えあって成長してゆく機会を提供する。
[Portfolio Assessment (http://www.pgcps.org/~elc/portfolio.html) のWhy Use a Portflio?を翻訳]
ですから、学生である皆さんが作る自分自身のポートフォリオには、学びの記録に加えて、以下の要素を必ず入れてください。
ポートフォリオ必須追加項目
・ポートフォリオ作成の際の内容選択の基準(Criteria for selection)
・このポートフォリオの長所を判断するための基準。(Criteria for judging merits)
・このポートフォリオにより自己省察が深まったことの具体的な記録。(Evidence of a student's self-reflection)
[Portfolio Assessment (http://www.pgcps.org/~elc/portfolio.html) のWhat is a Portflio?の一部を翻訳(意訳)]
■ ポートフォリオの具体的な作成法
私の(ほとんどの授業)では、授業の予習(理解した箇所と理解できなかった箇所の明示)と復習(振り返り)をWebCT (ただし2014年度よりBlackboard Learn R9.1 (Bb9)に移行とのこと)に書いてもらっていますから、それをポートフォリオ作成のための材料の一つにしてください。 加えて、随時学んだことをポートフォリオに追加してください。学びによって、授業以外の生活が変わったら、ぜひその具体的な記録をつけ加えてください。
なおWebCTシステムに投稿をする際は、いきなりWebCTシステム上に書き込むのではなく、いったんエディターやワープロで文章を完成させてからそれをコピーしてWebCTシステムに貼り付けてください。前者の方法ですと、誤って未完成原稿を投稿しあとで削除できなくなったりすることがありますし、後者の方法ですと、自分で文章をじっくり読んで推敲できます。後者の方法でお願いします。
・使用するアプリ
ポートフォリオは、標準的なアプリでしたらどのアプリ上に作成しても構いません。それを学期末の指定期日までにWebCT(またはBb9)に掲載してください。外部サーバーにポートフォリオを作った場合は、そこへのリンクを掲載してください。
・ポートフォリオ内容の精選
ポートフォリオの内容は、上記の「ポートフォリオ評価の目的」に即した上で、自分が特に定めた(同じく上記の)「内容選択の基準」に即して選んでください。
後に書きますように、皆さんが作ったポートフォリオは相互に読み合って評価することにします。ですから、きちんと内容選択をせずに、いたずらに長いだけのポートフォリオはマイナスの評価になります。「内容選択の基準」をよく考え、なおかつ、その基準を他人にもわかるように明記してください。
・自分のポートフォリオに関する自己評価
皆さんには、自分のポートフォリオに対して自己評価をしてもらいます。
A: 授業の目的を高度に達成しており、学びの深さ・広さの点で、クラス内だけでなく、外部にもこのポートフォリオを公開するだけの価値がある。(優秀作品は、実際に柳瀬のブログなどで公開します)。
B: 授業課題をきちんと遂行したという点で授業の目的を達成はしているが、学びの深さ・広さは、授業前に自分が予想した程度のものであった。
C: 授業課題を毎回きちんと遂行したとは言い難いが、単位取得のための最低限の勉強はしたと思われる。
D: 授業課題を適切に遂行したとは言えず、授業の目的を達成したとは言えない。
ただし、A~Cには、 +か-をつけることができることとします。つまり成績を上から下まで並べますと、
A+ > A > A- > B+ > B > B- > C+ > C > C- > D
となります。
この自己評価を適切に行うためにも、上記の「ポートフォリオの長所を判断するための基準」を明確に記入してください。
このポートフォリオ作成は、ある意味で、就職などで必要になる自己アピールの訓練でもあります。自己アピールとは、ハッタリをかますことでもなく、マニュアル本にある「こう書いたら合格する」表現を切り貼りすることでもありません。冷静に自分を見つめ、その自分を社会的に公正な観点から評価し、良い所は良い(悪い所は悪い)として 、自分の資質や能力について他者に対して納得してもらうことです。(私見ですが、「品の良さ」には、「自分自身に対する適切な態度が取れること」が大きく絡んでいると思います)。就職活動の時になって慌てて自己アピールのやり方を学ぶのではなく、日頃のポートフォリオ作成から、自分自身に対する冷静で公正な判断ができるように学んでおいてください。
・ポートフォリオは他人との比較ではなく、過去の自分との比較のためのもの。
私はポートフォリオを、過去の自分と現在の自分の比較のためのものと規定します。ですから、最終成果が他人と比較して芳しいものでなくとも、自分自身での成長を感じたら高い自己評価を出しても結構です。しかし、その際には、上記の「自己省察が深まったことの具体的な記録」を特に詳しく書いてください。その際は単に量的な向上だけでなく、自分の内面(認識や思考)がどのように変容したかを丁寧に自己観察した上で記述してください。
・授業の総合評価は、自己評価
自己評価は卑下することもなく、一人よがりになることもなく行ってください(いたずらな謙遜や根拠なしの自己主張を避けてください)。
他者評価(ベスト5の選定)は、他の人が行っている他者評価に影響されることなく、自分なりの判断基準で評価し、かつコメント欄にその判断基準を明確に示してください。
柳瀬はそれらの自己評価と他人評価を最大限尊重しながらも、教員としての視点で評価を下し、最終的な評価を決定します。なお、その評価は合格(A~C)、不合格(D)の4段階です。
・S(秀)を取るためには、別に自主課題を提出してください。
ポートフォリオでは最高でAまでしか出しません。Sを取りたかったら(あるいはBをAに、CをBにしたかったら)、別に自主課題を提出してください。自主課題は、http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2010/10/blog-post_08.htmlに説明されているもの、あるいはそれに類したものでしたら結構です(課題設定に迷ったらご相談ください)。学期末までに提出してください。
・何よりも自分で読み返したくなるポートフォリオを作成してください。
最終的にあなたのポートフォリオには、柳瀬から何らかの評価が下されますが、それよりもはるかに大切なのが、自分で成長が実感できることです。自分の成長を、自分の身体でしみじみと感じられることが何より大切です。成長を実感できたら、そのポートフォリオは、自然と自分で読み返したくなるものであり、いつまでも残しておきたくなるものになると思います。そのようなポートフォリオを作ってください。
大学時代の教員や友人とは、やがて会うこともなくなるかもしれません。しかし、自分自身とは一生付き合い続けます。何よりも自分自身を納得させることを再優先してください。
皆さんの実り豊かな学びを祈念し、そのために私のできる限りの支援をしてゆきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
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