2008年5月10日土曜日

「現代社会における英語教育の人間形成について」のためのノート 4/5

2 目的概念の再検討

2.1 目標概念と目的概念の区別
2.1.1 アレントの論からの抜き書き
■政治について
・政治は人間の複数性という事実に基づいている。(Politik beruht auf der Tatsache der Pluralität der Menschen. -Politics is based on the fact of human plurarility) (Arendt, 1993, p. 9) (Arendt, 2005, p. 93)
・哲学と神学が関心を持つのはつねに人間一般(Mensch, man)であり、それらの主張が正しいのは人間が一人か二人しかいない場合(Einen Mensche oder nur Zwei Menschen)や、人間がどれもそっくり同じ場合(identische Menschen, only identical men, only one or two men)に限られる。したがってそれらは「政治とは何か?」という問いに適切な哲学的回答を与えることはなかった。あらゆる科学的思考にとって、存在するのは人間一般だけなのである。(Arendt, 1993, p. 9)
・政治は差異を有する人間たちの共存と結合に取り組む。

Politik handelt von dem Zusammen - und Miteinander-Sein der Verschiedenen. (Arendt, 1993, p. 9)
Politics deals with the coexistence and association of different men. (Arendt, 2005, p. 93)

・単数形で理解された人間(man)は非政治的(apolitical)である。政治は複数形で理解された人間の間(between men)に生じるものである。政治は複数形で理解された人間の間にあるもののうちに発生し、関係性(relationship)として確立する。

der Mensch ist a-politisch. Politik entsteht in dem Zwischen-den-Menschen, also durchaus außerhalb des Menschen. Es gibt daher keine eigentlich politische Substanz. Politik entsteht im Zwishcen und etabliert sich der Bezug. (Arendt, 1993, p. 11)
man is apolitical. Politics arises between men and so quite outside of man. There is therefore no real political substance. Politics arises in what lies between men and is established as relationships. (Arendt, 2005, p. 95)

・世界史という理念において、人間の多数性は融解して単一の人間的個体性になり、さらにそれは人類=人間性と称されるようになる。これこそ歴史が怪物的で非人間的な側面を持つに到る起点であり、それは政治において、最初の全面的で野蛮な結末を迎えるに到る。

Durch die Vorstellung einer Weltgeschichte wird die Vielheit der Menschen in ein Menscheninddividuum zusammengeschmolzen, das man dann auch noch Menschheit nennt. Daher das Monströse und Unmenschliche der Geschichte, das sich erst an ihrem Ende voll und brutal in der Politik selbst durchsetzt. (Arendt, 1993, p. 12)
In the idea of world history, the multiplicity of men is melted into one human individual, which is then also called humanity. This is the source of the monstrous and inhuman aspect of history, which first accomplishes its full and brutal end in politics (Arendt, 2005, p. 95)


アレント著、高橋勇夫訳(2008)『政治の約束』筑摩書房
アレント著、佐藤和夫訳(2004)『政治とは何か』岩波書店
Arendt (2005) The promise of politics Schocken Books, New York,
Arentd (1993) Was ist Politik? Piper, München,


■アレントによる「目標」「目的」「意味」

●目標、指針目標(Ziel, goal)
・目標は政治的活動(politisches Handeln, political action)が追求するもの
・政治の目標は指針(Richtlinien, guidelines)や指示(Direktiven, directives)を超えるものではない。
・目標は私たちを方向づける(orientieren, orient)が、決して石のように硬直することはない。
・目標としての指針や指示が実現される形は不断に変化し続ける。なぜなら私たちは私たちと同様に目標を有する他の人々(anderen, other people)を相手にしている(verhandeln, deal with)からである。
・目標は、本来強引な強制力(Gewalt, brute force)を欠く「政治的」なものだが、目標は達成されずとも、それによって「的外れ」(Zwecklos, pointless)にも「無意味」(sinnlos, meaningless)になるわけではない。政治的活動(politisches Handelen, political action)は、目的の達成(verfolgen, pursue)を目指すものではなく、目標を目指す(richten, direct)ものであるからである。無意味でないのは、語り合い(Hin- und Widerreden, exchanged speech)--個人やら、民族、国家やら国民の間での--のための空間(Raum, space)が創られ維持されるからである。
・政治用語としての「関係の破綻」(Abbruch der Beziehungen, breakdown in relations)とは、人々の間の空間(Zwishenraum, inbetween space)が捨て去られる(abandon, preisgeben)のことである。
・目標は私たちの方向づけ(orientieren, orient)を行い、私たちが行うことが判断(beurteilen, judge)される標準(Maßstäb, standards)を設定する(erstellen, set)。
・目標は、活動も活動の意味の終わりも乗り越えて持続する。
・目標の本性(Wesen der Ziele, the nature of goals)とは目的(Zweck, ends)と手段(Mittel, means)に制限を加え、活動が極端に走る危険を封じ込めることである。

●目的、最終目的(Zweck, end)
・強引な強制力(Gewalt, brute force)が、言論がやりとりされていただけの人間と人間の間の空間に持ち込まれたときに目標は目的になる。
・目的は堅固に規定され、手段を選択し、手段を正当化したり、神聖化すらもする。
・目的は、それを作り出した営みが完結して、初めて現実のものになる(Wirklichkeit, reality)になる。


●意味(Sinn, meaning)
・意味は、目的と異なり、つねにその事柄(Sach, thing)自体に含まれている。
・営み(Tätigkeit, activity)の意味も、その営みが続く限り存在する。
・活動(Handeln, action)の意味も、それが続く限り存在する。活動が目的を追求しているかどうかは関係ない。

アレント著、高橋勇夫訳(2008)『政治の約束』筑摩書房(224-231ページ)
アレント著、佐藤和夫訳(2004)『政治とは何か』岩波書店(106-113ページ)
Arendt (2005) The promise of politics Schocken Books, New York, 193-200
Arentd (1993) Was ist Politik? Piper, München, 125-133


2.1.2 諸外国の目標設定
(省略)

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