2011年9月14日水曜日

小林雅一(2011)『ウェブ進化最終形 「HTML5」が世界を変える』朝日新書

[この記事は学部一年生向けの授業「英語教師のためのコンピュータ入門」のために書かれたものです。]


■ どんなパソコン・タブレット・携帯でもウェブ閲覧ができるということ

若い学生の皆さんは、どんなデバイス(パソコン・タブレット・携帯など)でもどんなコンテンツ(ホームページ・ブログ・Twitter・Facebookなど)でもウェブ閲覧ができることなど当然と思われているかもしれませんが、80年代に例えばシャープのパソコンで作ったデータが富士通のパソコンでは処理できないなどの時代を経てきた私などの中高年としては、未だにこの技術はすごいと思わざるを得ません。

このように汎用的なウェブ閲覧が可能になっているのは、ウェブページのほとんどがHTML (Hyper Text Markup Language)で作成されているからです。ウェブを見るだけでしたらHTMLの知識はまったく必要ありませんし、ウェブページをつくる場合でもTwitter, Facebook, Mixiあるいは各種ブログなどでしたらほとんど知識なしでも作成できます。

しかしちょっとHTMLについて知っていれば、何かと便利にウェブページを作ることができますし、応用的な小技を使いこなすこともできます。またHTMLの歴史を知ることによってウェブ文化の大きな流れについて理解することができますので、ここでは標題の本と、その他のウェブページの情報を使って、簡単にHTMLについて解説します。



■ HTMLとは一体何を意味しているのだろう?

HTMLについては例えば「HTMLクイックレファレンス」の「HTMLとは?」などの記事がわかりやすく説明してくれています。


HTMLクイックレファレンス > HTMLの基本 > HTMLとは?
http://www.htmq.com/htmlkihon/001.shtml


このページ以外にも、このサイトには有益な情報がたくさんあるので、ぜひお勧めですが、


HTMLクイックレファレンス
http://www.htmq.com/index.htm


ここでは、


The Web KANZAKI:HTMLって何だ
http://www.kanzaki.com/docs/html/htminfo10.html


の説明が非常にわかりやすかったので、そこから引用します。

まずHTMLの働き(機能)については次のようにまとめています。


HTMLはネットワークでつながった世界中の文書を関連づけ、それを有益な情報としてコンピュータで分析できるようにする役割を持っています。サーチエンジンによる検索データベースが実現しているのも、コンピュータのプログラムが「リンク」をたどって世界の文書を収集し、その「構造」を分析・管理しているからです。

http://www.kanzaki.com/docs/html/htminfo10.html


そのHTMLの字義的な意味は以下のとおりです。


HTMLとは、HyperText Markup Languageの頭文字をとったものです。この名前を少し丁寧に解釈すれば、「ハイパーテキストのための、文書に目印を付ける方法を定めた文法上の約束」ということになります。

HyperText: ハイパーテキストとは、「テキストを超えたテキスト」というような意味です。つまり、通常のテキストにない機能を備えた「超」テキストというわけです。

Markup: マークアップとは、普通の文書に目印を付ける(マークアップする)ことで、その部分が文書中でどんな働きをしているか(見出しなのか、段落なのかなど)をはっきりさせようという考えです。

Language: これは、英語とか仏語とか、あるいはプログラミング言語などの「言語」というよりも、このマークアップをどんなルールで行うかをきちんと決めておくための約束、つまり文法という程度の意味にとらえたほうが良いでしょう。

http://www.kanzaki.com/docs/html/htminfo10.html


「目印」(Markup)として私たちが使う「言語」は、「タグ」と呼ばれます。その例は、例えば



のページなどを見ればわかると思います。これらのタグは斜め線(/)が入っていないか入っているかだけの違いのペアである、「開始タグ」と「終了タグ」から構成されています。ウェブページ上でやりたいと思うことに合わせてタグを選択し、その開始タグと終了タグの間に必要な情報を入れてゆくという形でHTMLは書かれます。

ここで今ご覧のブラウザーで右クリックなどをして"page source"を見ることを試みて下さい。HTMLがたくさん出てきたと思います。このHTMLこそが、ウェブページを形成しているのであり、私たち人間が通常目にしているものは、それぞれのデバイスがそのHTMLを適宜人間に見やすいように表現したものに過ぎません。



■ HTML5とは?

そのHTMLが、早ければ2012年頃までにはHTML5という第五回目の大改訂版となって標準化されます。ただし現時点でもこのHTML5化は進行しており、多くのブラウザが既にHTML5に対応しています(この点で一番対応が遅かったのがMicrosoft社のInternet Explorerでしたが、MS社もIE9からHTML対応を進めました。なおこのMS社の対応によりHTML5の普及は決定的になったと考えられます)。

しかしこのHTML5のメリットとは何でしょうか。『ウェブ進化最終形 「HTML5」が世界を変える』(朝日新書)を書いた小林雅一さんは次のようにまとめます。


5回目の大幅改定となるHTML5では、本格的なアプリケーション・プログラム(アプリ)まで作れるようになるのです。アプリとは、皆さんが普段使っているワープロや表計算、電子メール、あるいはゲームのようなソフトを指します。つまりウェブというものが、従来の単なるホームページから、様々な情報処理をするためのプラットフォームへと決定的な変化を遂げるのです。(14ページ)


素人として私なりに言い換えると、(4)の時代が来るということでしょうか。

(1)どのメーカーの機械(ハード)を選ぶかが大切だった時代 [1980年代]
(2)どのOSのアプリ(ソフト)を選ぶかが大切だった時代 [1990年代]
(3)どのハードやどのソフトを選んでもそれなりに仕事ができるようになった時代 [2000年代]
(4)どのハード(現代的に言うならデバイス)を選んでも、ソフトが常に最新の状態で使えて、かつウェブに接続していなくても仕事ができる時代 [これから]


この記事を書いている時点で、私はGmail, Dropbox, Evernoteを愛用し、かつ自分が得た情報はブログやtwitter, facebookなどでできるだけ公開するようにしています。ですから職場のパソコンでも自宅のパソコンでも、持ち歩くノートパソコンでもiPadやiPhoneでもたいていの仕事はできます。

しかし多くの人が使っているために私も使わなくてはならないMS社のWordなどを使いますと、時にそれぞれのデバイスにインストールされているソフトのバージョンの違いによって細かな齟齬が出たりします。また持ち歩いて使うデバイスでは電波の受信状態が悪かったりすれば非常に困ります。こういった(3)の状況を(4)にするのがHTML5だと私はこの本を読んで理解しました。



■ HTMLの歴史

しかしこのHTML5までの発展は一筋縄ではいかないものだったことは本書に開設されています。読めば、技術とは社会的に受容されてはじめて普及するものであり、技術者も人間通でなくてはならないことがよくわかります。

この歴史は



といったページでも追うことができますが、私がど素人的に強引にまとめるなら次のようなものになるかと思います。


・MS社が自社のIEを普及させようとして、その当時それなりに普及していたネットスケープとの差別化を図ろうとしたので、HTMLの標準化が難航した。

・技術者が一種の理想的なマークアップ言語として構想したXHTML (Extensible HyperText Markup Language)は、文法があまりにも厳密だったので、ホームページのデザイナーはこれをあまり受け入れなかった。

・IEの圧倒的普及によりブラウザー開発は一時停滞した。

・しかしかつてのネットスケープの流れをくむ非営利団体のモジラ(Firefox)や、オペラ・ソフトウェア(Opera)は、アップル社と連帯してWHATWG (Web Hypertext Application Technology Working Group)という団体を作り、HTML5への流れを作った。

・現時点ではまだ先進的すぎるとも、洗練さにかけるとも言われるChromebookも、これからHTML5が普及し、電波受信のインフラも整備されるにつれ、大きな流れになるかもしれない。

・やがては"Internet of Things"も普及し、"Web of Things"に発展するかもしれない。



以上の荒っぽいまとめから、さらに安っぽい歴史的教訓や未来予測を出すことは控えますが、歴史的な振り返りというのは、ICTというこの日進月歩の業界でも大切であると私は考えています。要は人間の営みなのですから、人文・社会的考察は重要だというわけです。


というわけで、興味を持たれた方は本書をお読み下さい。


⇒『ウェブ進化 最終形 「HTML5」が世界を変える』




追記

私はこのようなブログ記事は、HTMLタグを簡単に出してくれるNo Editor(無料)のテキストエディタで作成しています。このことにより、(1)オンラインでブログに直接書き込む不安定さから逃れることができる、(2)MS Wordというおよそ使いにくく重く余計なことばかり勝手にするワープロソフトを使わなくてすむ、ことが可能になり、快適に知的生産ができています。

No Editor以外にも優れたテキストエディタはたくさんあります。文章をたくさん書く方でテキストエディタをまだ使っていない人はどうぞ乗り換えて下さい。本当に快適です。


追追記

念のために言っておきますと、進化に「最終形」などありません。近年、日本の書籍のタイトルはどんどん大げさになっています。どこかでこの傾向が反転しなければならないのではないかと私は強く思っています。

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