2018年2月8日木曜日

可能性を探り育む文化



現在の学校教育は、可能性を否定する、あるいは潰す方向に進んでいませんでしょうか。「こんなことをやっても無駄かもしれない」、「君の偏差値ならここに進学しなさい」などといったことばに最近の中高生は晒されすぎてはいないでしょうか。


いや、これは昔からそうなのかもしれません。先日、五十歳を過ぎた大学同窓生が話をするのを横で聞く機会を得ましたが、大学入試から30年以上たった今でも「私は共通一次(現在のセンター試験に相当)で失敗したから、あの学部に行ったのだが、本当はこの学部に行けたはず」、「所詮自分は○○大学ぐらいだから」といった話題が続くのを聞いてみると、まるで人間の能力は、大学入試でほぼすべてが測られるのであって、入試で測られない力、また、社会に出てから学び身につけた力は永遠になど取るに足らないもののようでした(そういう私も学歴コンプレックスから完全に自由というわけでもないのですが)。

話がずれてしまいましたが、学びの場合に大切なことは、できるだけ早い段階から可能性を潰すことではなく、可能性を開拓することでしょう。もちろん開拓された可能性は、最終段階では一つの形に落とし込まないと現実になりませんから、どこかで可能性は一つに絞られなければなりません。しかしそれは可能性を潰すことではなく、可能性の中から一つの選択をすることです。そういった選択は不可避ですが、それは最後に行うべきもので、学びの過程では可能性を探ることが重要だと私は考えます。

可能性を探るとは、むやみやたらに、でたらめに何でも試してみることではありません。あることが与えられた場合、その可能性は無限であるわけではありません。その与えられたものの中に潜んでいる潜在している可能性を見出し、その中から何かよいものを見つけていくということが可能性を探るということです。

もちろん可能性はひとつだけではありません。可能性を潰す文化がひとつの「正解」にできるだけ早く到達することを求めるに対して、可能性を探り育む文化は様々な方向に道をを見出そうとします。可能領域の中から何が良いのかを試しては吟味し、その吟味の中から新たな可能性を見い出すというように、試行錯誤しながら落胆したり僥倖 (serendipity) に出会って大喜びしたりするのが可能性を探り育む文化でしょう。

先日も観察したラボ・パーティでは、そのように可能性を探り育む文化が実践されているように思えます。ラボパーティーでは一つの物語を共有しますが、メンバーそれぞれはそれぞれの家庭で、CD(伴奏音楽つきでプロの声優(日本語声優と英語声優)が演じた劇の音声を聞き、またその物語の絵本も見ています(何度も音声を聞くことが大切だという認識がラボでは共有されています)。CDと絵本をもとに、パーティー(集会場)に集まったメンバーは、その 物語 をどうしたら身体で表現できるかと考えメンバーなりの演技で物語を劇にしてゆきます。

もちろんそれぞれがCDを聞く中であるいは絵本を読む中で、得たイメージというものは様々に異なります。特にメンバーは小さな子供から中学生・高校生そして大学生までいますし、男の子もいれば女の子もいるし、元気な子もいれば静かな子もいますし、それぞれのさまざまな個性があります。その個性が生み出すさまざまなイメージの可能性をむやみに潰さずに、どうしたら自分たちにあったよい方向性・可能性を見いだせるか、メンバーの子どもたちは、劇表現を試しては話し合います。イメージを文字にしてみることも絵にしてみることもあります。グループで話し合ったり、グループで話し合った内容を全員で共有したりもします。

そうしてメンバーはイメージを一つの舞台表現にしてゆきますが、やっている途中でも新たに少しずつ可能性を探っていきます。「じゃあこのイメージでやってみよう」と始めながらも「何かここおかしい」とか「これはこうしたらいいんじゃないの」とか、年齢も性差も関係なく自由に創意工夫が重ねられます。

このように、メンバーが対等な関係で可能性を探り育みながら、一つの形に集約する経験の教育的意義は検討に値するとも思えました。文科省の言い方でしたら、アクティブ・ラーニングや、主体的で対話的な深い学習になるのかどうかは定かではありませんが、私からみる限り硬直してしまったような学校教育の発想を揺るがすためには、学校外の営みにもっと目を向けるべきだと私は考えます。



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