ここではBachman and Palmer (2010) Language Assessment in Practice: Developing Language Assessments and Justifying Their Use in the Real World (Oxford Applied Linguistics)の第三章である'Describing language use and language ability'について気がついたこと、特にFundamental Considerations in Language Testing(1990)やLanguage Testing in Practice(1996)と異なるところを書き残しておきます。
■基本的な考えは1990年から変わらず、Language Ability = Language Knowledge x Strategic Competence
この本での「言語力」(language ability)の基本的な考えは、Language Testing in Practice(1996)と同じと言ってもいいかと思います。
その1996年の考えも、基本的にはFundamental Considerations in Language Testing(1990)と一緒で、それはLanguage Ability = Language Knowledge x Strategic Competence つまり「言語力とは言語知識をうまく活用することにより生じる」とまとめられるかと思います。
この考えはWiddowson (1983) Learning Purpose and Language Useで展開した"capacity"(私は「活用力」と訳しています。詳しくは拙論「コミュニケーション能力論における「能力」関連諸概念」をお読みください)の考えに基づきます。Bachmanがいう"strategic competence"はCanaleやSwainなどが使う"communication strategies"の意味と違い、Widdowsonの"capacity"概念を発展したものだと考えられます。
ともあれこの本での「言語力」(language ability)―私は1990年のように「コミュニケーション的言語力」(communicative language ability)と呼んだ方がすっきりすると思うのですがそれはさておき―は次のように説明されています。
In this chapter we describe language ability as a capacity that enables language users to create and interpret discourse. We define language ability as consisting of two components: language knowledge and strategic competence. Other attributes of language users or test takers that we also need to consider are personal attributes, topical knowledge, affective schemata, and cognitive strategies. (p.33)
つまり「言語力」(language ability)の本質的要因は「言語知識(language knowledge)と「方略的能力」(strategic competence)だが、その他の要因として「個人的特性」(personal attributes)、「トピックに関する知識」(topical knowledge)、「感情の組成」(affective schemata)、「認知ストラテジー」(cognitive strategies)があるというわけです。
■2種類のinteraction
このように言語力には本質的要因として二つ、その他の個人的要因として四つがあります。これら六つは相互作用をおこしながら言語力となります。さらにその言語力は、言語使用の課題と状況(language use task and situation)―この中にはコミュニケーションの相手も含まれます―という外部要因とも相互作用をおこします。BachmanとPalmerは前者の個人内での相互作用と、後者の個人外での相互作用を区別します。
Language use, as we have defined it, involves two kinds of interactions: (1) those among the attributes of the individual language users, and (2) those between the language user and the characteristics of the language use situation, including other language users. (p. 34)
個人内でおきる相互作用は「内的に相互作用的」(internally interactive)、個人外でおきる相互作用は「外的に相互作用的」(externally interactive)と呼ばれます。後者のうち、複数の言語使用者が関わっている状態は「互変的言語使用」(reciprocal language use)、一人の言語使用者しか関わっていない場合は「非-互変的言語使用」(non-reciprocal language use)と呼ばれます。(p.34) この本の38ページには「互変的言語使用」が、36ページには「非-互変的言語使用」がそれぞれ図で表現されています。
■Cognitive strategiesの新設
言語力の個人内要因の非本質的要因に「認知ストラテジー」(cognitive strategies)があげられていますが、これは1990年の本にも1996年の本にも出ていなかった概念です。説明は以下の通りです。
Cognitive strategies are what language users employ when they execute plans, so as to realize these in language use, either in comprehending information in the discourse, or in co-constructing discourse with another interlocutor. (p,. 43)
これに続く本文でも、57ページの注3でも、この概念に関する本格的な議論はこの本の手に余るので、以下の本を参照されたしとあるだけで、きちんとした説明はこの本ではなされていません。
Bialystok, E. 1990. Communicative strategies. Cambridige, MA: Basil Blackwell.
Cohen, A.D. 1998. Strategies in Learning and Using a Second Language. New York: Addison-Wesley.
Oxford, R. 1996. Language Learning Strategies Around the World: Cross-Cultural Perspectives
■Strategic competenceは1990年以来の考え
もう一つの言語力の個人内要因の非本質的要因である「方略的能力」(strategic competence)は従来と同じ規定です。
Strategic competence can be thought of as higher-order metacognitive strategies that provide a management function in language use, as well as in other congitive activities. We view strategic competence as a set of metacognitive strategies. (p. 48)
具体的には次の三つの機能を果たすとされています。
Goal setting (deciding what one is going to do)
Appraising (taking stock of what is needed, what one has to work with, and how well one has done)
Planning (deciding how to use what one has) (p. 49)
つまり、「方略的能力」は、目的設定・見積り・計画の観点から、自らの言語知識(文法的知識(grammatical knowledge)とテクスト的知識(textual knowledge)からなる構成的知識(organizational knowledge)と、機能的知識(functional knowledge)と社会言語学的知識(sociolinguistic knowledge)からなる語用論的知識(pragmatic knowledge)をうまく活用し、他の認知的活動(たとえば認知的ストラテジー)とも協働させる、知のマネジメントであるというわけです(彼らはここで「メタ認知的ストラテジー」という用語を使っています)。「方略的能力」が言語内的資産である「言語知識」と言語外的資産である「認知的ストラテジー」を統合的に活用するという考えかと思われます。
■「四技能」(four skills)の枠組みを使い続けるのは思考の怠惰と惰性
この本のもう一つの特徴は、読む・書く・聞く・話すの「四技能」(four skills)を言語使用を考える際の理論的枠組として考えるのは止めようと提案するものです。これは遅すぎる提案と言えるぐらいで、私も正直、英語教育といえば四技能と言うのは、思考の怠惰であり惰性であると言えるかとも思います。
BachmanとPalmerが「技能」を理論枠組として使うことに反対する理由は、第一に「一つの技能」として一括りされる言語使用には大きな差があること(例、メモを取ることも論文を執筆することも「書くこと」である)、第二に同じように見える言語使用課題(例えば一人で本を黙読する)でも、そのトピックや読書の目的などにより様々に異なるというものです。(55ページ)これら二つの理由を受けて彼らは次のように主張します。
We would thus conceptualize "language skills" as the contextualized realizations of the capacity for language use in the performance of specific language use tasks. We would therefore argue that it is not useful to think in terms of "skills," but rather to think in terms of specific activities or tasks in which language is used purposefully. Thus, rather than attempting to define "speaking" as an abstract skill, it is more useful to identifiy a specific language use task that involves the activity of speaking, and describe it in terms of its task characteristics and the areas of language ability it engages. We would thus argue that the concept that has been called "skill" can be much more usefully seen as a specific combination of language ability and task characteristics. (p. 56)
「技能」とは特定の状況下で成立しているものであり、「技能」を抽象的に考えるのは有効ではないというわけです。
以上を第三章の簡単な報告とします。
関連記事:「四技能」について、下手にでなく、ウィトゲンシュタイン的に丁寧に考えてみると・・・
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/11/blog-post.html
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