体系性と具体性とわかりやすさに優れた本です。「新しい英文法のパラダイムとなるような学習文法書をいつか執筆したい」という田中先生の長年の思いは、NHKテレビ『新感覚☆わかる使える英文法』の講師を経験することにより、1200ページもの放送テキストになり、そしてその結晶がこの本となりました。
田中先生は認知言語学の立場から、「主体が世界をいかに表現するかという観点」で「使える文法」の記述を、「文法においても意味的な動機づけ(semantic motivation)がある」という観点で「わかる文法」の説明を目指しました。
この基本的な考え方から田中先生が提示するのは、英文法を、(1)コトの世界を扱う動詞の文法、(2)モノの世界を扱う名詞の文法、(3)出来事を取り巻く状況を状況を扱う副詞の文法、(4)チャンクの作り方とつなげ方(チャンキング)という枠組み、で体系的に説明します。この体系が終始一貫しているので、読者は英文法を統一的に理解することができます。従来の文法書がとかく様々な記述の連なりだけになりがちだったのとは対照的です。
さらにこの本の例文は非常に具体的で、なおかつその例文が使われる時の状況、使う人間の認識などが丁寧に描かれているので、読者は英語を使うということはどういうことなのかということをよく理解することができます。
加えてそのわかりやすさは、読者に親切なデザインとレイアウトでさらにパワーアップしています。本全体としてはPart/Overview/Chapters/Summing-upという構成で、読者は今自分が何を学んでいるかの流れがわかるようになっています。ページ毎のレイアウトも直感的にわかりやすいもので、文字のフォントや色合いも読者の理解を助けるための工夫に満ちています。出版物というのは著者とデザイナーの共同作品だということを強く感じます。
この本を読み通すことで、英語教師の卵は英文法についてこれまで得られなかった深い認識に到達することができるでしょう。ベテラン英語教師も「なるほど!」「その通り!」といった知的満足を随所で味わうことができるでしょう。私もこの本を通読することによって、人間がいかに英語という形式を使いこなし、また英語という形式でいかに人間の認識が作られていくかという言語と思考の双方向の関係を具体的に実感することができました。
これだけの本が1100円というのは驚きです。出版社としては売れることを目指しているのでしょうし、私自身もこのような良書は多くの人の手に届いて欲しいと思います。
この本がねらうように、この本の記述と説明が、読者の英語使用の実践的感覚と結びつけば、この本の記述と説明は、読者が英文法がわかりそして英語がより的確に使えるようになるためのすばらしい「格率」(maxim)(=「各人の採用する主観的な行為の規則」『大辞林 第二版』)となることでしょう。
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参考記事:「格率」や、技能と技能を記述・説明する言語の関係についてもしご興味があれば、次の記事もお読み下されば幸いです。
http://ha2.seikyou.ne.jp/home/yanase/zenkoku2006.html#070517
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