2008年3月26日水曜日

高橋一幸・田尻悟郎『チャンツで楽習!決定版』NHK CDブック

外国語を徹底的に音楽としてとらえてみるというアプローチは採択する価値のあるものだと思います。もちろん人にはいろいろなタイプがあり、文法的アプローチで静かにゆっくり外国語を考えるのが好きな人もいるでしょう。あるいは「音痴だから」と音楽的なアプローチには尻込みしてしまう人もいるかもしれません。

しかし別段、音楽的アプローチが唯一無二のものだとも、万全で万能なものだとも言っているのではありません。ですが、あるタイプの学習者には、あるいは学習のある段階では、外国語の「音の楽しさ」を徹底的に身体に染みこませることが快感であり、また後々の学習の揺るぎない基盤になることはあるはずです。クラスで使う場合にも、日頃は食いつかない学習者が俄然ノリノリになって外国語学習に関する自己認識ががらりと変わったり、またそのように変容する友人を見て、他のタイプの学習者も彼/彼女らなりに動機づけられるということもありうることでしょう。

きわめて一般的に言うなら、教師が取り得るアプローチは多様である方がよく、教師の仕事はそれらを適切に選択し、組み合わせ、様々な生徒を、彼/彼女らなりに伸ばしてゆくことと言えるでしょう。

音楽から、身体から外国語習得にアプローチするという方法は、多様な外国語教育アプローチの一つとして尊重されるべきです。チャンツ(注)のリズム(作曲は安藤禎央(よしひろ)氏)に英語をのせるCD付きのこの本は、そのアプローチの最良のものの一つと言えるかもしれません。(国際的に有名なのは、もちろんCarolyn GrahamさんのJazz Chantsです)。


まあ、そのような堅い理屈を言わずとも、まあこのCDを聞いてみて下さい。少なくとも私はこの英語チャンツを聞くことをずいぶん楽しみました。中学生などと一緒に、「カミカミ」(=舌足らず)になった自分を笑い飛ばしながら、私もこれらの英語チャンツにチャレンジしてみれば面白いのではないかと思いました。あるいは優等生ではないけれど、こういったチャンツがめちゃくちゃ上手い生徒がいたら楽しいだろうとも想像しました。あるいは田尻悟郎先生がワークショップやこのCDの中でやるように、このような英語チャンツを楽しく滑らかに披露できたら、生徒が教師を見る目もずいぶん変わるでしょう。

英文本体も、田尻悟郎先生がよくワークショップで紹介される、中学生のために練りに練られた英文もたくさん使われており、それらのねらいは76ページからの「チャンツ ワンポイント楽習!」にわかりやすくまとめられています。文法のポイントが、凡庸さとは無縁のセンスのある表現で英語に実現されています。

チャンツの楽しい音楽と精選された英語教育内容が高度に融合したのがこの教材と言えるでしょう。

この本は実はロングセラーの第二弾で、中学2-3年生の文法・表現の習得のために作られたものです。中学1年生の基礎的な--しかしそれだけ徹底的に重要な--英語の力を楽しく身体に叩き込むなら、第一弾『チャンツでノリノリ英語楽習!』をお買い求め下さい。

第一弾、第二弾ともにお薦めします。

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(注)
chant (n) に関してはCODの次の定義が的確かとも思います。
1 a a spoken sing-song phrase, esp. one performed in unison by a crowd etc. b a repetitious sing-song way of speaking.
2 Mus. a a short musical passage in two or more phrases used for singing unmetrical words

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