2016年10月6日木曜日

発達障害の認知特性を視野に入れた英語教育の指導法考察(院生の修論構想)



本日の授業(「特研」と呼ばれる合同ゼミ)で、私のゼミ生がこれから1年半で書く予定の修論構想を発表してくれました。

まったくの親バカですが、とても面白いし社会的意義も高いと考えましたので、ここに公開します。

私にとって、この論文の社会的意義は以下のようなものかと考えます。

(1) 現実には多く存在している発達障害を抱えた英語学習者への具体的対応(特に「何をするべきでないか」)について整理する。

(2) 「グローバル社会」「競争力」「学習目標の客観的な提示・測定」などといった英語教育界で無批判的に称揚されている考え方(イデオロギー)を、発達障害者も含めた公教育という観点から問い直し、英語教育のあるべき姿を理念的に考察する。

極めて個人的には、私はルーマンやアレントの著作を通じて「社会」の概念について考えていますので、この修論で英語教育をめぐる議論の中での「社会」という概念の使用が洗練されればと願っています。「社会に役立つ」といった表現が常套句化してしまい固定的な意味でしか使われない現状に批判的考察が加えられたらと期待しています。「社会」とは、グローバル資本主義の営みだけを指すことばではないはずです。「社会のための英語教育」という概念理解をこの修論が豊かなものにしてくれればと個人的には願っています。

と、私見が長くなりましたが、下がゼミ生の発表スライドです。ご興味のある方は御覧ください。






幸い広島大学教育学研究科は幅広くスタッフを有していますので、ゼミ生は特別支援を専門とされる先生方の力も借りて勉強を進めようとしております。しかし、いかんせん、この観点からの英語教育の実態についての知識はまだまだ不十分です。こういった点にご経験やご見識のある先生方がいらっしゃいましたら、ぜひ彼をご支援いただけたら幸いです。





追記(2016/10/11)

上記の記事について、今現在で、下のコメントを含めると四名の先生から応援のメッセージをいただきました。
この分野の研究が、実践者にとって待ち望まれていることがよくわかります。

その中でも、共有すべき情報を下に書いておきます。


■ 高等学校での「生徒の困難状況」の推計値

ある先生によりますと、「小中学校の通常学級における「生徒の困難状況」の推計値は「6.5%」ですが、これが、高等学校の課程別推計率は、全日制課程=1.8%、定時制課程=14.1%、通信制課程=15.7%と課程によって大きな差があります」とのことでした。

念のため、この数字の出典を問い合わせましたら、平成23年12月、福岡県教育委員会作成の『特別支援教育コーディネーターガイド~高等学校等における特別支援教育充実のために~』p1、「高等学校における特別支援教育推進について」(平成21年8月特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議高等学校ワーキング・グループ報告)から(抜粋)とのことでした。改めて情報提供に感謝します。


また、もう一人の先生は、TEACCHプログラムと学びのユニバーサルデザインについての情報提供をしてくださいました。


■ TEACCHプログラム

TEACCHプログラムとは、アメリカ・ノースカロライナ州で実施されている、自閉症等コミュニケーションに障害のある子供達やその家族への包括的対策プログラムだそうですが、その簡単な紹介は以下のサイトにあります。
http://www.allin1.co.jp/service/onlyone/teacch~構造化について~/


また、早稲田大学教育学部(教育心理学)の梅永雄二先生がこういったことにお詳しいそうです。
http://blog.livedoor.jp/umechan0701/archives/1060669818.html


■ 学びのユニバーサルデザイン

学びのユニバーサルデザインについては、明星大学の小貫悟先生が日野市の教育委員会と連携して、『通常学級での特別支援のスタンダード』という報告書をまとめ上げており、これが各地で実施され始めているユニバーサルデザインによる授業のモデルケースともなっているのではないかとのことです。

参考:日野市立日野第三小学校 校長 京極 澄子氏の実践報告
http://icedd.nise.go.jp/pdf/event/UD_150218.pdf

また、英語授業研究学会の2015年2月の例会で、群馬県立板倉高等学校の武田富仁先生が、ユニバーサルデザインの視点を意識した授業についての発表をされたとのことです。武田先生は『英語教育』の2014年10月号にも寄稿されているとのことです。


皆様、もしまた情報などありましたら、ご連絡をいただけたら幸いです(連絡方法は下のコメントを御覧ください)。




追追記(2016/10/13)

さらなる情報提供がありましたのでここにその情報を共有します。

英語教育ユニバーサルデザイン研究会
http://www.manabishien-english.jp/


学習障害と英語指導を考える
http://blog.goo.ne.jp/itkayoko







4 件のコメント:

hill_ryo さんのコメント...

柳瀬先生

はじめまして。関東圏の私立大学附属校で英語教員をしているhill-ryoという者です。
いつも知的好奇心を刺激される先生のブログを楽しく読んでおります。ありがとうございます。

上記の修士の学生のテーマですが、私も7年ほど前にスローラーナーの実態把握というテーマで非常に拙い修士論文を執筆致しました。その時には、当時働いていた学習障害や発達に困難を抱えている生徒を教えているNPO法人を手伝っていたため、そこの生徒たちに協力をして頂きました。

様々な側面で難しさがある研究課題ですが、是非知見が積み上がっていって欲しい分野です。私にお手伝い出来ることがあるかどうか分かりませんが、何かご協力出来ることがあれば喜んでお手伝い致します。

コメント欄で失礼致しました。

柳瀬陽介 さんのコメント...

hill-ryo様
はじめまして。
コメントをありがとうございました。
私の出張により、コメントの掲載が遅くなり申し訳ありません。
先生のコメントを院生にも伝えます。
きっと喜びます。
私のメールアドレスは、@hiroshima-u.ac.jpの前がyosukeというものです。
またもし何かございましたら、今度はそのメールアドレスにもメッセージをお願いできたら幸いです。
この分野は、公教育としての英語教育を構築する上でとても大切だと思います。
英語教育を、決して金持ちや権力者だけのためのイケイケドンドンの営みにはしたくないと思っています。
これからもどうぞよろしくお願いします。
2016/10/11
柳瀬陽介

Bunchin さんのコメント...

柳瀬先生

お久しぶりです。お元気でしょうか?
私は今年の3月に教英を卒業したFです。現在は宮崎の高校で講師をしております。
1ヶ月ぶりぐらいに先生のブログを開くと、私が現在進行形で悩みに悩んでいる学習障害(や発達障害)に関する研究の紹介がされているではありませんか。現場に出て半年程しか経っておりませんが、率直な感想として、この問題は(公立中学校はもちろん)進学校ではない高校における英語教育の大きな課題であると認識しております。ぜひこの分野の研究が進み、現場の英語教師たちの救いとなればいいなと思います。
何かお手伝いできることがありましたら、大したお力にはなれないかもしれませんが喜んでお手伝いさせていただきます。

柳瀬陽介 さんのコメント...

コメントをありがとうございます。
一年目は何かと大変かと思いますが、体調は保てていますか?
さて、この話題に関しては反響が大きいです。
大学の教員養成教育や学界の研究動向が見逃している問題の一つだと思います。
いろいろな意見交換ができればと思います。
2016/10/27
柳瀬陽介