2017年9月29日金曜日

河合雅司 (2017) 『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(講談社現代新書)



以下は学部一年生用の授業(「英語教師のためのコンピュータ入門」)の導入の話題として作成したものです。■はこの本の論点の一部を私のことばでまとめたもので、→は私からの問題提起です。



はじめに

■ 人口減が始まる日本

2015年発表の国勢調査で、1920年の初回調査から約100年にして初めて人口減少が確認された(約96万人減)。2016年の年間出生数が初めて100万人台の大台を割り込んだ。(Kindle の位置No.62)

→「成長」ということばは常に肯定的なイメージと共に語られ、特に資本主義的生産体制は「経済成長」を大前提としている。だが、その前提を疑ってみることも学ぶべきではないのか?これからの社会の「成長」とはどのようなものになるのだろう?


■  世界史上類を見ない人口減

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(2017年)は、日本の人口が40年後に9000万人、100年も経たぬうちに5000万人に減る。これほどの人口減は世界史上類例がない。 (Kindle の位置No.71)
※ 国立社会保障・人口問題研究所
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp

→皆さんが、これから職業生活を送る4-50年(2057-67年)、皆さんが教師になったとしたら皆さんの教え子が生きる2100年までの暮らしがどうなるのか考えてみてほしい。未来予測は極度に困難でまず外れるものだけれど、現時点で得られる情報から分析的に思考して仮説を立てる能力(そして現実の進行に合わせてその仮説を修正する習慣)は生涯にわたって役立つ。「教育は100年の計」ということばを軽々しく考えないでほしい。



第一部 人口減少カレンダー

■  皆さんが40歳になる頃、3人に1人は高齢者

2015年国勢調査では65歳以上人口は総人口の26.6%(約4人に1人が高齢者という超高齢社会)。2036年には3人に1人、2065年には2.5人に1人になる見込み。(Kindle の位置No.249-250)

→皆さんは学校という若い人だけが集まる集団でこれまで暮らしているから実感できないかもしれないが、これが現実(からの推計)。皆さんはこんな人口構成の社会に生きる教え子(そしてわが子)にどのような教育を授けたいだろう?


■ 女性の絶対数が少なくなる

25-39歳の女性は、2015年には1087万人いたが、2040年にはその75%、2065年にはほぼ半分となる。 (Kindle の位置No.505)

→出生率が上がっても人口減が止まらないのはこの理由。


■ どんどん結婚しなくなる男女 

生涯未婚率(50歳まで一度も結婚したことのない人の割合)は、2015年で男性23.37%(約4人に1人)、女性で14.06%(約7人に1人)。 (Kindle の位置No.691) 2035年では男性で約3人に1人、女性で約5人に1人となる見込み。ちなみに1970年の生涯未婚率は男性で1.7%、女性で3.3%だった。 (Kindle の位置No.1233)

→なぜこうなったのだろう?これは人間の適応によるものなのか、それとも社会から豊かさや余裕がなくなっているからなのか?


■ 子どもと老親を同時にケア

2015年の第一子出生時の母の平均年齢は30.7歳。今後は、育児と介護を同時に行わねばならない「ダブルケア」が増えるかもしれない。(Kindle の位置No.895)

→皆さんと皆さんの子どものために、どんな人生設計をしたらいいのだろう(人生は設計通りにはゆかないものなのだけれど・・・)



■ まもなく、1人が生まれ2人が死ぬ社会へ

2024年には国民の3人に1人が65歳以上、6人に1人が75歳以上となり、毎年の死亡者数は出生数の2倍になる見込み。 (Kindle の位置No.831)

→1人が生まれる時に、2人が死んでゆく社会がどのようなものか想像してほしい。これが今から皆さんが生きる社会となる見込みである。



■ これからの学校は、より厳しい生徒減に直面する

日本私立学校振興・共済事業団の「入学志願動向」によれば、2016年度に44.5%の私立大学が入学定員割れをしている。(Kindle の位置No.333)
→この数字は、私立小中高にもそのまま影響を与えている。


■ 労働力人口の減少は移民やAIで補えるか?

現在の状況が続けば、労働力人口は2015年の6075万人から、2030年に5683万に減り、2060年には3795万人と半減に近い状況になる。 (Kindle の位置No.741) 社会に活気がなくなり、消費が冷え込むことが考えられる。

→移民やAIにより、労働人口減は対処できるという論もあるが、もしそうだとしても、現在の日本は移民やAIによる変化に対して心理的・認知的準備ができているだろうか?


■ 社会保障費がどんどん削られる?

今後の社会保障費を、行政改革や経済成長で賄うというのは楽観すぎるのではないか。(Kindle の位置No.784)

→老齢化はそのまま社会保障費の上昇につながる。かといっていたずらに削減してゆけば、人口の多くが悲惨な晩年を迎える社会となる。そのような社会では、若者も消費しないようになるだろう(これは資本主義の蔓延に対する人間の究極の進化的適応なのだろうか?)


■  社会的インフラが朽ちてゆく?

行政の財政力が弱まれば、水道や道路や市民ホールなどの社会的インフラの維持・復旧も困難になる。電力会社や電話会社にしても人口の少ない地域へのサービスが低下するかもしれない。(Kindle の位置No.438)

→今、建てられてる建物も、当たり前のように使われている施設も、やがては必ず老朽化することを忘れてはならない。


■ 輸血用血液不足が深刻に

2027年には輸血用血液の不足がもっとも深刻になる見込み。 (Kindle の位置No.1051) 「病院に行けば助かる」という常識が通用しなくなるかもしれない。 (Kindle の位置No.1088)

→人口減に伴う変化はこれに限らず、さまざまなものがありうるだろう(その中には好ましいものもあるかもしれないが)。皆さんも想像力を働かせてほしい。



第二部

■ 大学で身につけるべき力とは

これから必要なのは、過去の常識にしばられず発想を大胆に転換すること (Kindle の位置No.1838)

→創造的思考力こそが大学で身につけてほしいこと。目の前にない物事を想像し、想像力を具体的にするための既存の知識を身につけ、これまでになかった物事を創造できる人間になってほしい。
 この授業では特に、英語とコンピュータを使いこなして学ぶ基礎的知識・技能を身につけてほしい。SNSも含む華やかな消費社会の誘惑にごまかされず、皆さんの子ども・教え子、そして皆さん自身のために、大学時代には学んでほしい。




 



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