2017年6月22日木曜日

カント、ダマシオ、ボームの用語の定義 (感性・知性・理性、情動・感情(中核意識)・拡張意識、感受性)





以下は、今週末の中国地区英語教育学会で私が発表する際の資料の一部です。カントの感性・知性・理性や、ダマシオの情動・感情(中核意識)・拡張意識や、ボームの感受性などの用語の関係性についてまとめた図を提示し、その関係性に基づきながら、私なりに簡単にまとめた定義 (1) と、彼らの原典での記述に忠実な定義 (2) の両方を掲載します。これらの用語を使って議論・論考をする際に、整合性を保つことが目的です。これらの定義を作り出す際に参照した資料はこの記事の下に掲載します。おかしいと思われる箇所などありましたらどうぞご指摘ください。







■ カントの用語


感性 (Sinnlichkeit, sensibility) 

(1)  何かに「あっ」と気づける能力。この感性が私たちのさまざまな気持ちを生み出す。

(2) まだ概念として分析されていない対象 (Gegenständ, object) から直感 (Anschauung, intuition) という表象 (Vorstellung, representation) を受容 (Rezeptivität, receptivity) できる能力 (Fähigkeit, capacity)


知性 (Verstand, understanding)

(1)  気づいた対象を概念化したり言語化したりする能力。これにより初歩的もしくは具体的な思考が可能になる。

(2)  対象の直感を思考 (denken, think) して、概念 (Begriff, concept) として自生 (Spontaneität, spontaneity) させる能力 (Vermögen, faculty)


理性 (Vernunft, reason)

(1)  さまざまな概念や言語を統一的にまとめ上げる能力。これにより抽象的で包括的な高次の思考が可能になる。

(2)  知性では不可能な全体性 (Totalität, totality) あるいは思考の最高次の統一 (die höchste Einheit des Denkens, highest unity of thought) を理念 (Idee, idea) としてまとめる能力



■ ダマシオの用語


情動 (emotion)

(1)  生きている限りいつでも生じている身体内の動き・活動(例えば脈動、ホルモン分泌、神経伝達、筋肉の自律的調整、外的刺激へのさまざまな反応など)。これらが私たちのやる気、気分、喜怒哀楽、などのさまざまな気持ちの核となっている。柳瀬はこれを「からだ」と称することもある。ちなみにemotionは語源的には、e(x) + motionと分解でき、「最終的には外に表現されるに至る身体内の動き」とも読み替えることができるだろう。

(2) 生命体の維持や健康に関わる身体内の動き。恒常性 (homeostasis) 、痛みや快への反応 (pain and pleasure response)、衝動 (drive) や動機 (motivation) といった低次のものから、漠然とした気分などの背景的情動 (background emotion) 、恐れ・怒り・嫌気・驚き・悲しみ・幸福感などの基本的情動 (primary emotion) 、共感・困惑・恥・罪悪感・誇り・嫉妬・羨望などの社会的情動 (social emotion) といった典型的な情動 (emotions-proper) までのさまざまな種類がある。


感情 (feeling)

(1) 自分で自覚している情動もしくは気持ち。この感情が自分の思考の核になる。柳瀬はこれを「こころ」と称することもある。また、情動と感情を総称して、情感 (affect) や気持ちと呼ぶこともある。気持ちについてもう少し詳しくいうなら、情動は、気持ちの核もしくは基盤であり、まだ自分の中ではよく把握されていない。感情は、自分でも自覚している気持ちであり、それゆえにそれを自分の考えとして言語化することもある。

(2) さまざまな情動によって形成されたある種の身体状態 (a certain state of the body) の知覚 (perception) であり、この知覚と共に、ある種の思考過程と思考結果の知覚 (the perception of a certain mode of thinking and of thoughts with certain themes) も生じる。


中核意識 (core consciousness)

(1) たとえば朝起きた瞬間の自覚、あるいはただ「ぼーっ」としている時の漠然とした自覚のように、ただ、今・ここに自分が存在していること、および、自分の外に何があるかや自分の内の状態がどうであるかを認識している意識。これが後述する拡張意識の中核となる。感情(「こころ」)を意識の一種として表現した用語と考えてもよい。

(2) 自分が「今・ここ」にいることの感覚 (the sense of the here and now)。これにより自分の人間としての存在 (personhood) が確認される。この中核意識は言語がなくとも成立する。


拡張意識 (extended consciousness) 

(1) 中核意識・感情・「こころ」を基盤にしながら、自分の意識を「今・ここ」以外の時空に拡張させて展開する意識。例えば、昔のことを思い出したり、将来のことを予想したり、遠い場所や空想上の世界を想像したり、他人の気持ちや考えを推測したりする意識。この拡張意識での働きにより、思考の中でも、中核意識・感情・「こころ」での初歩的な思考を超えて、体系的思考が可能になる。ちなみにこの思考の体系性を維持・発展するためには、言語体系や数学体系といった何らかの記号体系がおそらく不可欠であると考えられる。

(2) 今・ここ以外の時空にまで拡張された意識。これにより人間としての存在だけでなく、自己同一性 (identity) が確認される。自伝的意識 (autobiographical consciousness) とも呼ばれる。


想い (image)

(1) いわゆる「イメージ」で、認知の広い領域で一定のパターンとして認識されるもの。想いは、「からだ」で感じられるぼんやりとした未分化の気持ちであることもあれば、「こころ」で感じられる形の定まった気持ちであることもあれば、「あたま」で漠然と描かれようとしているさまざまな考えのまとまりであることもある。想いの源泉はさまざまな感覚器官から得られた感覚だろうが、想いは中核意識や拡張意識においてことばとして結晶化する。

(2)  視覚・聴覚・嗅覚・味覚・身体感覚などの感覚様態で作られた構造をもつ心模様 (mental patterns) であり、心 (mind) の主要通貨 (the main currency) となる。


ことば (language)

(1) 情動、感情・中核意識、拡張意識のさまざまなレベルで知覚された想いを、育った文化での慣習(および生得的な言語能力)にしたがって、記号体系的な表現にしたもの。ことばは想いから生じ、想いは「からだ」から生じ、「こころ」や「あたま」で発展し、ことばとなる。

(2) 想いが変換 (conversion) もしくは翻訳 (translation) されて単語や文の形をとったもの。



■ ボームの用語

感受性 (sensitivity)

(1) 感性・知性・理性、もしくは情動・感情(中核意識)・拡張意識のすべての領域において示される鋭敏さ。高い感受性により、人はさまざまな直感を得、さまざまな概念の内容および発展性を理解し、幅広い理念について思考することができる。

(2) 自分の内外で起こっていること (what is happening) に対する感覚を得るだけでなく、その感覚をまとめる (hold it together) 意味 (meaning) の感覚を得る能力




参照した資料(原典情報はそれぞれのページに書かれています)

「英語教育の基盤としての感性についての理論的整理」(学会発表スライド) 発表音声を追加しました

Emotions and Feelings according to Damasio (2003) "Looking for Spinoza"

A summary of Damasio’s “Self Comes to Mind”

Introduction and Key terms (Summary of Kant's Critique of Pure Reason #1)







 7/21(金)のDwight Atkinson教授特別講演にもぜひお越しください!
http://hirodaikyoei.blogspot.jp/2017/06/721d.html

 









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