この度、『言語文化教育研究』の以下の特集号において、拙論を掲載していただけました。私が物語(ナラティブ)についてずっと考えてきたことをようやく一つの形にすることができたことを個人的にはとても嬉しく思っております。
『言語文化教育研究』第16巻
特集「ナラティブの可能性」
2018年12月31日公刊
柳瀬陽介 (2018)
「なぜ物語は実践研究にとって重要なのか
―読者・利用者による一般化可能性」
『言語文化教育研究』第16巻 pp. 12-32
この論文の概要は以下の通りです。もしご興味があればぜひ上のURLをクリックしてお読みください。
本論文は実践研究における物語の重要性(および危険性)を,物語概念を理論的に整理することで明らかにした。理論的整理は,心理学者ブルーナーの物語様式の理論を社会学者ルーマンと哲学者アレントの意味理論で補強しながら導入し,さらに歴史学者ホワイトの物語的歴史についての理論を重ね合わせることによって行った。その結果,形式・題材・素材・筋書・言語・基調・実在性の観点において物語を科学規範様式の論証と対比的に特徴づけた。その特徴づけの中で,世界の複合性と人間の複数性を扱いうる意味概念を提示した。さらに,実践的過去を描く歴史叙述と物語の共通性を指摘し,物語の重要性(「私たちは何をするべきか」という問いかけに答えること)と危険性(出来事を単純な教訓話やイデオロギーにしてしまうこと)を指摘した。このような物語は一般化可能性をもつが,それは,実践研究を実践的に読み解こうとする読者の想像力と思考力に応じて得られる読者・利用者による一般化可能性であることも示した。
『言語文化教育研究』に拙論を掲載していただくのは、以下の論文に続いて二回目です。
柳瀬陽介 (2014)
「人間と言語の全体性を回復するための実践研究」
『言語文化教育研究』第12巻. pp. 14-28
これら二つの論文は、私にとってはとても重要な論文です。
英語教育系の学会ではなかなか取り上げてくれない理論的な論文を評価してくださったこの学会の皆様、および査読・掲載の大変な作業をしてくださった編集委員会の皆様に改めて厚く御礼を申し上げます。
また、この学会が投稿者に30ページ(約32,000文字=400文字原稿用紙で80枚)の分量を与えてくださっていることも本当にありがたいです。現在主流となっていない考えについて丁寧に論考しようとするとどうしてもある程度の分量が必要だからです。
私としては今後もこの学会を自分の中の重要な研究の場として、この研究共同体に少しでも貢献ができればと思っております。
物語(ナラティブ)に関する関連記事
野口裕二 (2018) 『ナラティブと共同性 自助グループ・当事者研究・オープンダイアローグ』
https://yanaseyosuke.blogspot.com/2019/02/2018.html
ヘイドン・ホワイト著、上村忠男監訳 (2017) 『実用的な過去』岩波書店 Hayden White (2014) The Practical Past. Evanston, Illinois: Northwestern University Press.
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ヘイドン・ホワイト著、上村忠男監訳 (2017) 『実用的な過去』岩波書店 Hayden White (2014) The Practical Past. Evanston, Illinois: Northwestern University Press.
Hayden White (1980) The Value of Narrativity in the Representation of Realityの抄訳
「なぜ物語は実践研究にとって重要なのか 仮定法的実在性による利用者用一般化可能性」(3/11言語文化教育研究学会・口頭発表)
J. Bruner (1986) Actual Minds, Possible
Worlds の第二章 Two modes
of thoughtのまとめと抄訳
Jerome Bruner (1990) Acts of Meaningのまとめ
アレント『暗い時代の人々』より -- 特に人格や意味や物語について--
Critical Realism, Policy, and Educational
Research (批判的実在論、政策、そして教育研究)
「対話としての存在」(『ダイアローグの思想―ミハイル・バフチンの可能性』第二章)の抄訳
英語教育実践支援のためのエビデンスとナラティブ:EBMとNBMからの考察
シンポジウムで使われる専門用語の整理
吉田達弘・玉井健・横溝紳一郎・今井裕之・柳瀬陽介編 (2009) 『リフレクティブな英語教育をめざして
― 教師の語りが拓く授業研究』
ひつじ書房
「ナラティブが英語教育を変える?-ナラティブの可能性」(2009/10/11-12、神戸市外国語大学)
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「書く」というナラティブ
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意識の神経科学と言語のメディア論に基づく教師ナラティブに関する原理的考察
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小川洋子(2007)『物語の役割』ちくまプリマー新書
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数学が得意な人は数学の物語的解説を必ずしも好まないということ --福島哲也先生の授業についてユングのタイプ論から考える試み--
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