ここ最近、意識の統合情報理論 (Integrated Information Theory: IIT) の面白さにはまって、「お勉強ノート」を少しずつ作っています。この記事もその一つです。私の誤解・誤読・誤訳を怖れ、間違いがわかればすぐに修正することを今一度確認した上で、本日はTononi (2004) の要約とTononi and Koch (2015) の用語集の翻訳を提示します。
Tononi (2008) の要約は統合情報理論の全容をもっとも適確にまとめた文章の一つだと思います。統合情報 (Φ) については以前の翻訳(http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2015/10/tononi-2008-consciousness-as-integrated.html)である程度理解可能かとも思いますが、クオリア空間 (Q)については以下の翻訳だけではよくわからないかと思います。Qについては今後翻訳をするかもしれませんが、その詳細はさておき、ここでは統合情報理論の趣旨を理解したいと思います。
Tononi and Koch (2015) の用語集 (表1) は、統合情報理論で独自の使われ方をする用語の定義集で、何かと便利です。この用語集にはTononi (2008) では使われていなかった用語も含まれていますが、基本的な考え方は変わっていません。この論文では図3も統合情報理論の公理と公準を手短にまとめたものですが、これは後日、翻訳を提示してみたいと思っています。
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Tononi (2008) の論文要約 (p.216) の翻訳
Giulio Tononi (2008)
Consciousness as Integrated Information:
a Provisional Manifesto
(Biol. Bull. December 2008 vol. 215 no. 3 216-242)
要約
統合情報理論 (IIT) は現象学から始まり、思考実験を経て、意識は統合情報であるという主張をする。具体的には、次の二点を主張する。 (i) 意識の量は、要素から構成される複合体によって生成される統合情報の量に対応し、(ii) 意識の質は、その複合体内で生成される情報の関係性の集合によって特定される。統合情報
(Φ) は、要素から構成される複合体が、その部分が生成する情報以上に生み出す情報の量によって定義される。クオリア空間 (Q) では、それぞれの軸が複合体の取りうる可能な状態を表し、それぞれの点がその状態の確率分布であり、点と点をむすぶ矢印が因果的メカニズムによって生成される要素間の情報の関係性
(結合)を表している。これらが合わさって、複合体内の情報の関係性の集合が、Qの中の形を構成し、その形がある一つの経験を完全にかつ一義的に特定する。意識の神経的基盤に関して観察されたことのいくつかは、統合情報理論の枠組みに支障なく当てはまる。例として次のようなものがあげられる。意識はある種の神経システムには関連しているが、他の神経システムには関連していないこと。意識の基底にある神経的過程は、無意識の神経的過程に影響を与えるし、影響を与えられることもあるということ。夢を見ない睡眠や全般発作においては意識が減少すること。そして、経験の質への影響という点で、異なる皮質構造はそれぞれに違った役割をもっていること、である。意識を統合情報と等しいとすることにより、私たちの自然観に対するいくつかの示唆が与えられる。
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Tononi and Koch (2015) の用語集 (表1) (p.6) の翻訳
Giulio Tononi, Christof Koch (2015)
Consciousness: here, there and everywhere?
(Phil. Tran. R. Soc. B. May 2015, Volume: 370 Issue: 1668)
DOI: 10.1098/rstb.2014.0167
ちなみに、この表(原文)は以下のURLからも参照することができます。
http://rstb.royalsocietypublishing.org/content/370/1668/20140167.figures-only
http://rstb.royalsocietypublishing.org/content/370/1668/20140167.figures-only
表1 統合情報理論 (IIT) で用いられるいくつかの用語
公理
(Axioms)
自明とみなされる意識の特性。デカルトに即していうなら、疑うことができず、証明も必要としない唯一の真理。公理は、内的存在、構成、情報、統合、排除の五つからなる(図3の左側)。
公準
(Postulates)
公理から派生する、意識の物理的基盤に関する想定 (メカニズムには因果の力がなくてはならず、それ以上に還元することができない、等など)。公準は、統合情報理論の数学的基盤から定式化されるし、同時に、数学的基盤を形成している。公理から公準へのつながりが、現在提唱されているものしかありえないのかどうかについては、まだ証明されていない。五つの公理に対応して、五つの公準がある(図3の右側)。
要素
(Element)
システムを構成する最小の部分。たとえば脳のニューロンや、コンピューターの論理ゲート。要素は、少なくとも二つの状態、それらの状態に影響を与える入力、そして状態と入力とに影響を受ける出力をもつ。厳密にいうなら、ニューロンなどはマクロ要素であり、分子といったミクロ要素から構成されているが、そのミクロ要素も原子といった要素で構成されている、といった関係になっている。統合情報理論の予測によるならば、もし意識に関連している要素がニューロンであるなら、システム内の内在的な因果の力は、ニューロンを構成するミクロ要素のレベルではなく、マクロ要素のレベルで最も高いはずである [文献79]。
メカニズム
(Mechanism)
要素で構成されており、システムの中で因果の力をもつシステム内の部分集合。そういった部分集合は、第一次のものであれ(システム自体を含む)高次のものであれ、いかなるものもメカニズムである。
因果レパートリー
(Cause-effect repertoire)
メカニズムの現在の状態から情報を得た上で、システムが取りうる可能な過去と未来の状態の確率分布。
統合情報 (integrated
information小文字のφ)
メカニズムにより特定される情報であるがこれは、メカニズムの(最小)部分により特定される情報以上のものでなくてはならない。φは、メカニズムによって特定される因果レパートリーの統合性あるいは非還元性の計測値である。
MIP (最小情報分割
minimum information partition)
最小の差しか生み出さない分割。言い換えるなら、最小「差」分割。
複合体
(complex)
システム内で統合概念情報 Φmax の局所的最大値を特定する要素集合。複合体だけが、内的視点をもつ存在物として存在する。
概念
(concept)
メカニズム自体と、メカニズムに関連している統合情報値φmaxによりメカニズムが特定する最大の非還元的な因果レパートリー。
概念構造
(conceptual structure)
それぞれのφmax値によってシステムにより特定されている概念の集合。因果空間の中での概念の配置状況で描くことができる。
概念空間 (もしくは、クオリア空間)
(cause-effect space or qualia space)
高次元の空間で、その一つ一つの軸によってシステムが取りうる可能な状態が表現される。概念構造はこの空間の中で表現される。
統合概念情報 (integrated
conceptual information大文字のΦ)
システムが特定する概念情報で、これはシステムの(最小)部分が特定する概念情報以上のものでなくてはならない。Φは、概念の配置状態(システムのレベルでの統合)によって構成される内的な統合性あるいは非還元性の計測値であり、負の値はとらない。
クオリア (Quale)
内的性質と最大の非還元的性質をもつ複合体によって特定される概念構造 (クオリア空間における配置状況と同義語)
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