2015年10月17日土曜日

「からだ」「こころ」「あたま」「想い」に関する図説と、いわゆる「意味合い」の違いに関する図説の掲載




今度の11月8日に大阪で、特定非営利活動法人 Creative Debate for GRASS ROOTSの主催で、第2回「こども英語教育研究大会」が開催されます(詳細は下記URLをクリック)。これは12の実践者・実践団体が日頃の英語教育のあり方を公開し、お互いに学び合おうという会で、申し込みをすれば誰でも参加できます。ご興味のある方、ぜひご参加ください。





大会の詳細と申し込みは下のURLから



私はこのGRASS ROOTSは、英語教育(ひいては教育全般)の改善のために私心や私欲なく努力を重ねられている団体だと考えていますので、積極的に協力しています。今回は、最後の全体会で30分程度のコメントを言うことになりました。

おそらくコメントでは、私なりに見ることができた実践に関する具体的な記述と分析を述べることでほとんどが終わってしまうことになるかと思いますが、事務局から、予稿集原稿を求められたので、当日にコメントでは直接言及できなくても、その背景になる枠組みを明らかにしておこうと、下に掲載した二つの図とそれらの説明を作成しました。




最初の図は、岩波ブックレットの『小学校からの英語教育をどうするか』で簡単に述べた「からだ」「こころ」「あたま」と、その後、ダマシオを再読して付け加えた「想い」("image"の翻訳語)の関係性を図示し解説したものです。

二番目の図は、統合情報理論が説明している意味の考え方を換骨奪胎し簡略化した上で、ある人々が、ある語の基本的意味(たとえば訳語を知っていることで示される)を共有していても、その意味合い(ニュアンス、含意、意味の広がりと深まり)の理解においては非常に異なりうることを説明しようとして作成したものです。


二つの図を通じて、現代日本の多くの英語教育が意味をきわめて狭く浅くしか捉えていないこと、そして、子どもをワクワクさせる英語教育はほぼ例外なく意味を広く深く捉えていること、をうまく説明できればと思っています。


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1 「からだ」「こころ」「あたま」「想い」

「からだ」 環境の変化などをきっかけにして、身体内で生理学的・生化学的反応を起こす働き。起こされた反応は情動とも呼ばれる。通常、その反応(情動)のほとんどは本人には意識されず(非意識)、本人にとっては潜在的である(ただし「からだ」の変化が、本人の自覚がないうちに外に出て、本人より先に他人に気づかれる場合もある)。
「こころ」:「からだ」の反応(情動)のうち、特に顕在的なものが本人に意識的に自覚される働き。この働きが私達の意識の中核(中核意識)を生み出す。中核意識は「こころ」のレベルで「感」じられている「情」動という意味で感情とも呼ばれる。ちなみに情動と感情を合わせて情感と総称することもある。
「あたま」:拡張意識を生み出す働き。拡張意識とは、「こころ」(中核意識)で感じられる<今・ここ>を超えて、過去や未来や想像上の場所などでの事態について顕在的に自覚される意識のこと。
「想い」:ダマシオのいう “image” の翻訳語。「からだ」「こころ」「あたま」で生じた(脳を含む)身体の変化のうち、明確な形(表象)を取るようになったもの。典型的には「こころ」と「あたま」の意識レベルに「想い」が宿るが(心理的表象、あるいは心模様 mental pattern)、中には本人にもうまく意識できていないままの「からだ」のレベルでの「想い」もある。「想い」を自他に明確にするために翻訳する一つの媒体が言語(言語的表象)である。だが、言語は本人の「こころ」と「あたま」で顕在的な心理的表象のすべてを表現できるものではなく、「ことばにできない想い」もある。ましてや言語は、脳を中心とした神経系の状態(神経的表象)のすべてを表現することはできない。また、当然ながら「想い」という形に定まらない意識・非意識もある。









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2 意味を理解するニューロン構造の単純化モデル

黒丸が発火しているニューロン、白丸が発火していないニューロンを表す。ニューロンが発火する条件は、それぞれのニューロンによって異なるとする。ニューロンの構造(樹状突起と軸索を通じてのシナプス結合)と発火の状態が語の意味を定めると仮定する。ニューロンの発火・不発火は、結合されている他のニューロンに矢印の方向で影響を与える。ニューロンの結合は実線か点線で表される。実線は、ある単語の基本的な意味を理解するためのニューロン構造の結合を表す。 (a) から (d) のモデルを通じて、同じ語の基本的意味理解が共有されていても、ニューロンの構造と発火の状態が変われば、細かな意味合いが変わることが示されている。

(a) ある新しい語の基本的な意味を理解するのに必要(かつ十分)なニューロンの構造と発火の状態。この独特の構造と発火の状態を脳内に有することで、人はとりあえず新しい語の基本的な意味を学習すると仮定する。

(b) 語の基本的な意味理解のためのニューロンの構造と発火の状態が、その人がそれまで使用することを学んでいた意味のためのニューロン構造(点線での結合)と結びつけられている。頂上部の構造と発火の状態が同じなので、語の基本的な意味理解は同じであると考えられる。だが、(b) (a) よりも多くのニューロンを含む構造をもつため、単語の意味は、 (a) よりも豊かである。頂上部の基本的な構造と発火の状態が変わらない限り語の基本的な意味は保たれるが、他の点線結合部分でどのニューロンが発火するかによってニューロン構造の働きが変わり、より細かで多様な意味区別が意味においてなされる。

(c) 異なる人のニューロン構造。この人は、 (b) の学習者と同じ数だけの意味に関するニューロンをもち、かつ、現時点で発火しているニューロンは同じだと仮定する。 しかし (c) のニューロンの構造は (b) の構造とは異なるので、単語の意味合いは (b) とは異なる。また、ニューロンの構造がより複合的なので、発火するニューロンの変化に伴い、より多くの変化が生じる(意味のさらに細かい区別がなされる)。

(d) (c) の人が、(c) の構造を、自分がそれまでもっていた他の意味に関するニューロン構造と結合させた状態。語の意味が、より深く理解できた事態に相当する。この結合によりこの人は、それまでより豊かに意味を使いこなす(多様に使い分ける)ことができる。






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追記 (2015/10/18)
私のフェイスブックで、ある方から親切なコメントをいただきましたので、そのコメントに基づき、図2とその説明を一部修正しました。




以上の図と説明をまとめたPDFは下記URLからダウンロードできます。
https://app.box.com/s/2j2bsjycsvcmw789jdexcw25sylv6pqq






関連記事

"Image"を敢えて「想い」と翻訳することにより何かが生まれるだろうか・・・
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2015/08/image.html

統合情報理論: Tononi (2008) の論文要約とTononi and Koch (2015) の用語集 (表1) の翻訳
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2015/10/tononi-2008-tononi-and-koch-2015-1.html

Tononi (2008) "Consciousness as Integrated Information: a Provisional Manifesto" の「数学的分析」の部分の翻訳
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2015/10/tononi-2008-consciousness-as-integrated.html

統合情報理論を直観的に理解するための思考実験
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2015/10/blog-post_7.html

クリストフ・コッホ著、土屋尚嗣・小畑史哉訳 (2014) 『意識をめぐる冒険』 岩波書店
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2015/10/2014.html





 
 




2015年10月16日金曜日

統合情報理論: Tononi (2008) の論文要約とTononi and Koch (2015) の用語集 (表1) の翻訳



ここ最近、意識の統合情報理論 (Integrated Information Theory: IIT) の面白さにはまって、「お勉強ノート」を少しずつ作っています。この記事もその一つです。私の誤解・誤読・誤訳を怖れ、間違いがわかればすぐに修正することを今一度確認した上で、本日はTononi  (2004) の要約とTononi and Koch  (2015) の用語集の翻訳を提示します。


Tononi (2008) の要約は統合情報理論の全容をもっとも適確にまとめた文章の一つだと思います。統合情報 (Φ) については以前の翻訳(http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2015/10/tononi-2008-consciousness-as-integrated.html)である程度理解可能かとも思いますが、クオリア空間 (Q)については以下の翻訳だけではよくわからないかと思います。Qについては今後翻訳をするかもしれませんが、その詳細はさておき、ここでは統合情報理論の趣旨を理解したいと思います。


Tononi and Koch  (2015) の用語集 (表1) は、統合情報理論で独自の使われ方をする用語の定義集で、何かと便利です。この用語集にはTononi (2008) では使われていなかった用語も含まれていますが、基本的な考え方は変わっていません。この論文では図3も統合情報理論の公理と公準を手短にまとめたものですが、これは後日、翻訳を提示してみたいと思っています。



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Tononi (2008) の論文要約 (p.216) の翻訳

Giulio Tononi (2008)
Consciousness as Integrated Information:
a Provisional Manifesto
(Biol. Bull. December 2008 vol. 215 no. 3 216-242)





要約
統合情報理論 (IIT) は現象学から始まり、思考実験を経て、意識は統合情報であるという主張をする。具体的には、次の二点を主張する。 (i) 意識の量は、要素から構成される複合体によって生成される統合情報の量に対応し、(ii) 意識の質は、その複合体内で生成される情報の関係性の集合によって特定される。統合情報 (Φ) は、要素から構成される複合体が、その部分が生成する情報以上に生み出す情報の量によって定義される。クオリア空間 (Q) では、それぞれの軸が複合体の取りうる可能な状態を表し、それぞれの点がその状態の確率分布であり、点と点をむすぶ矢印が因果的メカニズムによって生成される要素間の情報の関係性 (結合)を表している。これらが合わさって、複合体内の情報の関係性の集合が、Qの中の形を構成し、その形がある一つの経験を完全にかつ一義的に特定する。意識の神経的基盤に関して観察されたことのいくつかは、統合情報理論の枠組みに支障なく当てはまる。例として次のようなものがあげられる。意識はある種の神経システムには関連しているが、他の神経システムには関連していないこと。意識の基底にある神経的過程は、無意識の神経的過程に影響を与えるし、影響を与えられることもあるということ。夢を見ない睡眠や全般発作においては意識が減少すること。そして、経験の質への影響という点で、異なる皮質構造はそれぞれに違った役割をもっていること、である。意識を統合情報と等しいとすることにより、私たちの自然観に対するいくつかの示唆が与えられる。






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Tononi and Koch  (2015) の用語集 (表1) (p.6) の翻訳

Giulio Tononi, Christof Koch (2015)
Consciousness: here, there and everywhere?
(Phil. Tran. R. Soc. B.  May 2015, Volume: 370 Issue: 1668)
DOI: 10.1098/rstb.2014.0167

ちなみに、この表(原文)は以下のURLからも参照することができます。
http://rstb.royalsocietypublishing.org/content/370/1668/20140167.figures-only







1  統合情報理論 (IIT) で用いられるいくつかの用語

公理 (Axioms)
自明とみなされる意識の特性。デカルトに即していうなら、疑うことができず、証明も必要としない唯一の真理。公理は、内的存在、構成、情報、統合、排除の五つからなる(図3の左側)。

公準 (Postulates)
公理から派生する、意識の物理的基盤に関する想定 (メカニズムには因果の力がなくてはならず、それ以上に還元することができない、等など)。公準は、統合情報理論の数学的基盤から定式化されるし、同時に、数学的基盤を形成している。公理から公準へのつながりが、現在提唱されているものしかありえないのかどうかについては、まだ証明されていない。五つの公理に対応して、五つの公準がある(図3の右側)。

要素 (Element)  
システムを構成する最小の部分。たとえば脳のニューロンや、コンピューターの論理ゲート。要素は、少なくとも二つの状態、それらの状態に影響を与える入力、そして状態と入力とに影響を受ける出力をもつ。厳密にいうなら、ニューロンなどはマクロ要素であり、分子といったミクロ要素から構成されているが、そのミクロ要素も原子といった要素で構成されている、といった関係になっている。統合情報理論の予測によるならば、もし意識に関連している要素がニューロンであるなら、システム内の内在的な因果の力は、ニューロンを構成するミクロ要素のレベルではなく、マクロ要素のレベルで最も高いはずである [文献79]

メカニズム (Mechanism)  
 要素で構成されており、システムの中で因果の力をもつシステム内の部分集合。そういった部分集合は、第一次のものであれ(システム自体を含む)高次のものであれ、いかなるものもメカニズムである。

因果レパートリー (Cause-effect repertoire)  
メカニズムの現在の状態から情報を得た上で、システムが取りうる可能な過去と未来の状態の確率分布。

統合情報 integrated information小文字のφ  
メカニズムにより特定される情報であるがこれは、メカニズムの(最小)部分により特定される情報以上のものでなくてはならない。φは、メカニズムによって特定される因果レパートリーの統合性あるいは非還元性の計測値である。

MIP (最小情報分割 minimum information partition  
最小の差しか生み出さない分割。言い換えるなら、最小「差」分割。

複合体 (complex)  
システム内で統合概念情報 Φmax の局所的最大値を特定する要素集合。複合体だけが、内的視点をもつ存在物として存在する。

概念 (concept)  
メカニズム自体と、メカニズムに関連している統合情報値φmaxによりメカニズムが特定する最大の非還元的な因果レパートリー。

概念構造 (conceptual structure)  
それぞれのφmax値によってシステムにより特定されている概念の集合。因果空間の中での概念の配置状況で描くことができる。

概念空間 (もしくは、クオリア空間) (cause-effect space or qualia space) 
 高次元の空間で、その一つ一つの軸によってシステムが取りうる可能な状態が表現される。概念構造はこの空間の中で表現される。

統合概念情報 integrated conceptual information大文字のΦ 
システムが特定する概念情報で、これはシステムの(最小)部分が特定する概念情報以上のものでなくてはならない。Φは、概念の配置状態(システムのレベルでの統合)によって構成される内的な統合性あるいは非還元性の計測値であり、負の値はとらない。

クオリア (Quale)  
内的性質と最大の非還元的性質をもつ複合体によって特定される概念構造 (クオリア空間における配置状況と同義語)




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統合情報理論からの意味論構築の試み ―ことばと言語教育に関する基礎的考察― (学会発表スライド)
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統合情報理論: Tononi (2008) の論文要約とTononi and Koch (2015) の用語集 (表1) の翻訳
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Tononi (2008) "Consciousness as Integrated Information: a Provisional Manifesto" の「数学的分析」の部分の翻訳
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統合情報理論を直観的に理解するための思考実験
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クリストフ・コッホ著、土屋尚嗣・小畑史哉訳 (2014) 『意識をめぐる冒険』 岩波書店
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2015/10/2014.html