2014年2月12日水曜日

That you are, and that I am (卒業生・修了生送別会挨拶)



[以下は昨日、私の所属する講座(教英)で開催された卒業生・修了生送別会で私が述べた挨拶の原稿です。すばらしい会を開いてくれた下級生の皆さん、そして下級生にそれだけの会を開きたいと思わせてくれた卒業生・修了生の皆さんに改めて感謝します。]



まず、この送別会を開催してくれた幹事の皆さんに教員の一人として厚く御礼申し上げます。私は常日頃から申し上げておりますが、教英というのは表のカリキュラムと裏のカリキュラムからできております。表のカリキュラムは大学の講義で皆さんに知識を授けますが、皆さんの人間性を豊かにしてくれるのは裏のカリキュラム、この学生さん同士の人間関係です。送別会はこの裏のカリキュラムの花の一つです。教英を裏から、いや、基盤から支えてくれているのは、学生皆さんの、言ってみるなら、この相互愛です。この相互愛に対して、教員として心から感謝いたします。

さて、卒業生・修了生の皆さん、おめでとうございます。皆さんは、広大教英の学部卒・大学院修了という肩書を手に入れます。そして、この4月から皆さんはそれぞれに新しい肩書あるいは地位を手に入れます。肩書・地位というのは、What you areと表現できます。

ハンナ・アレントは、What you are(肩書・地位)と、Who you are(人柄・人格)を比較しました。彼女は、現代の機能社会では、What you are (社会の中での地位)ばかりが幅をきかせているが、What you areばかりに気を取られ、Who you are(あなたが本当はどんな人であるのか)をおろそかにする人は、自らの能力や業績の「奴隷であり囚人」にすぎないと指摘しました。

皆さんは4月からWhat you areあるいはWhat you ought to beとしてのふるまい方の修得にやっきになるでしょう。機能社会というのは約束事のかたまりですから、それはそれで大切なことです。ですが、どうぞ皆さんは、自分の能力や業績の奴隷や囚人とならず、自分らしさ (Who I am) を大切にしてください。そして接する相手の What you areだけでなく相手のWho you areも見てください。教育はもとより、ビジネスですらも、究極は人間と人間の間の出来事です。どうぞWho I am, Who you areを大切にしてください。

しかし、時に人間は自分というものがわからなくなってしまうこともあります。それは辛い時かもしれませんし、世間的成功の絶頂の時かもしれません。どうぞ、そんな時は、Who I amよりも根源的で大切なThat I amを体感してください。

That I am (あなたが生きているということ)は、あなたの身体の中に脈打つ鼓動があるということです。それが悲しさであれ、虚しさであれ、苦しみであれ、嘆きであれ、あなたが何かを感じているということです。

人が生まれた時、あるいは死にゆく時、周りの人々はあなたに社会的地位は求めません。人格的表現すらも要求しないでしょう。赤ん坊なら、オギャーと第一声を発してくれること、死の床にある人なら体温の温もりをもってくれていること、それだけでも周りの人々は深い喜びにつつまれます。これが人間の根源です。What you are(地位・肩書)ではなく、Who you are(人柄・人格)ですらなく、That you are(あなたが生きていること)に深い喜びを感じてくれる人、それが親友です。

苦しい時はどうぞ自分の親友になってあげてください。そして心の底で共鳴できる人を見つけたらその人の親友になってあげてください。その時、あなたは同時にその人の親友ともなります。その根源的な友愛こそは、この私たちの社会を根底において支え、人生に意味を与えてくれるものではないかとも思います。

4月からの生活では、社会的な約束事 (What I amあるいはWhat I ought to be) について、とりあえず学習してください。しかしどうぞその中で自分らしさ (Who I am) を忘れませんように。そしてもし、自分らしさにすら確信がもてなくなった場合には、自分が生きているということ (That you are) をからだで感じてください。そして、機会があれば、ここに集う親友と連絡をとって再会してください。また大学にも遊びに来てください。

今、序曲が終わり、まさに幕が上がらんとする皆さんの歌劇(オペラ)が、どうぞ豊かな歌声と伴奏で満ちあふれますように。





追記
大学に遊びに来てくれる時は、前もって日時を教えてもらえればとても嬉しいです。せっかく卒業生・修了生が来ても、私が仕事に追われていると、まともにお会いすることもできないことが多いので。せっかくでしたら、ゆっくりお話をしたいので、こうお願いする次第です。




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