ここでは前の勉強(「
コンピュータと人間知性の共進化について」)に引き続いて、コンピュータ上で思考をすること--コンピュータを使って、今までにはなかったような思考スタイルを進化させること--を学びます。
■デスクトップに「レポート」というファイルを保存するA君
具体例から考えてみましょう。A君はパソコンを入学時に買ってもらったものの、実は日頃あまり使っていません。ある授業でレポート提出を電子媒体で提出することが求められたので、レポートを作成しました。ファイルに「レポート」という名前をつけてデスクトップ上に保存しました。こういったA君のやり方は、まだまだパソコンの使い方としては未熟と言わざるを得ません。しかしどういった点で未熟なのでしょう。以下、何点かにわたって考えてみます。
■ファイルとフォルダの管理の重要性
A君のデスクトップに「レポート」というファイルを保存するという行動からいくつかのことがわかります。例えば(1)A君は他にレポートを作成したことがないし、これから作成することも考えていない。(2)A君は、たくさんの数のファイルを管理するという発想がない、といったことです。
このようにファイルにどのような名前を付けるのか、ファイルをどう保管するのか、などについて私たちはきちんと考えておくことができます。そうしないとせっかくパソコンを持っていても、ファイル管理などでもたつき、コンピュータは面倒くさいし使いにくいとなりがちです。逆にファイル管理がきちんとできていると大量のファイルを楽々と管理できますから、パソコンによってこれまででは経験できなかったほどの知的生産ができるようになります。
さあ、それではどうファイルを管理しましょうか。ファイル管理にはフォルダで行ないます。ファイルとは、ワードやエクセルなどの個々の文書を指します。フォルダとはそれら個々の文書を収納する入れ物です(ウィンドウズでは茶色のポートフォリオの形をしたアイコンで示されています)。以下、ファイルとフォルダの管理について考えましょう。
■ものごとの並べ方四種類
『
ウェブの仕事力が上がる標準ガイドブック2 Webデザイン』という本は、Wurman氏によるLATCH法という分類方法を紹介しています。それは
(1) Location (地理的、物理的な位置で整理する)
(2) Alphabet (アルファベットや五十音で整理する)
(3) Time (時間軸で整理する)
(4) Category (分野で整理する)
(5) Hierarchy (重要度、頻度、大きさなどで整理する)
です。
(注)ただ、上の(5)は記憶法としてH(ierarchy)とされていますが、実際はMagnitudeなどと呼ばれるべきでしょう。(5)には必ずしも階層関係の分岐性が含意されていないからです。
以下のサイトではLATCH法が手際よく説明されています。
http://slideology.com/2008/08/organizing-information-is-finite/
http://www.infovis-wiki.net/index.php?title=Five_Hat_Racks
■ファイルのネーミング
ファイルのネーミングに関して、私は(3)Timeを使った整理をしています。ファイルの名前は基本的に「年月日+具体的名前」にしています。例えば2008/11/03に作ったこの記事の原稿は「081103コンピュータ上で「思考」をするために」と命名しています (ファイルの名前は英数字だけにして空白箇所を設けないようにしておきますと数々の問題から解放されますが、最近のコンピュータはファイル管理が楽にできるようになりましたので、私はこのような命名をしています)。
この時系列的な方法は、
野口悠紀雄先生の「超整理法」の考えに基づいています。この方法のメリットは、いちいちカテゴリー化で悩まずに、だいたいいつ頃ファイルを作ったかで整理できるということです。人間は、だいたい何月頃、あるいは何年頃にファイルを作ったかというのは案外に覚えているものです。また、この方法ですと、ファイルを少しずつ改訂していったバージョンを日付で管理できます。仕事をやっていると最新版のファイルだけでなく、過去のバージョンのファイルが必要になることもよくあることです。この方法はそのニーズにも対応できます。ファイルはフォルダ内で随時「表示→アイコンの整理→名前」で並び替えます。
逆にいいますと、非常に重要なファイルに関しては、年月日を入れない名前にしておきますと、そのファイルは目立ちます。最新版だけが必要な大切なファイルにはこの方法は有効です。
■フォルダのネーミング
しかしもちろんファイルのネーミングだけでは管理は不十分です。ファイルは適切な数のフォルダに入れて整理しなければなりません。フォルダはウィンドウズの場合、通常「マイドキュメント」の中に作ります。私はその中に「Yanase's documents」という親フォルダ(第一階層フォルダ)を作っています。親フォルダを作っていると、バックアップを一括して行えますので便利です(バックアップは非常に重要です!!)
親フォルダの下には4-5個ぐらいの子フォルダ(第二階層ファイル)を作っておくといいでしょう。それ以上多いと分類が面倒になり、どの子フォルダにファイルを入れればいいのかが判断しにくくなります。フォルダのネーミングには私は(4)Categoryを基本にしています。ここでは私の場合は「研究」「教育」「行政」「生活」というのを基本的な子フォルダにしています。皆さんは自分の子フォルダをどのように設計しますか?これから5-10年ぐらいの皆さんの活動を考えて、設計してください(5-10年と言いますのは、フォルダはこれから数々のパソコンを乗り換えながらも継承されるものだからです)。
子フォルダの下にはいくつかの孫フォルダ(第三階層フォルダ)を作ります。この階層ではフォルダの数は少し多くなってもいいかもしれません。分類しやすいフォルダのネーミングをしてください。
しかしフォルダの数が多くなると、すぐに思い通りのファイルにたどり着けなくなることがあります。その際は(4)Categroyに(5)Hierarchyを併用します。例えば私は「研究」の第二階層の下の第三階層には、10以上のフォルダを入れていますが、それには「01論文」「02講演」「03商業原稿」「04科研」・・・などとネーミングされています。これをやっておきますと、「表示→アイコンの整理→名前」で並び替えると重要度順にフォルダが並ぶので便利です。
■色による整理
色で整理することについてもここで述べておきます。私は2008年の現在Windows XPを使っていますが、これにシェアソフトをインストールして、Macのようにフォルダに色を付けられるようにしています。こうしますとさらに直観的に作業が進められます。だいたい私は赤色、オレンジ色、黄色を重要な事柄に、青色を他人の都合で決められる事柄に、緑色を個人的な事柄に使い分けるようにしています。フォルダやスケジュール管理 (Googleカレンダー、ファイルファックス手帳) 、タスク管理 (エクセル) もこの原則で一貫しています。色はすばやく知覚できますので、非常に便利です。
また手書きのペンも色分けをすると便利です。私は四色ボールペンと黄色のマーカーを原則にしています。黒は基本の色、赤は重要事項、青は批判したい事項(自分ではコントロールできない事項)、緑は個人的に気になったり大切に思ったりしている事項で書き分けます。それぞれ、特に重要な事柄には黄色のマーカーを重ね塗りします。この使い分けによって、ノートテーキングが自覚的になりますし、ノートの記述を活かして知的生産がしやすくなりますので、皆さんにもお勧めします。
■フォルダの階層構造をデスクトップ検索でリゾーム化する
しかしどんなにうまくフォルダの階層構造を作っても、特定のファイルをどのカテゴリーに入れるべきか・入れたかで迷ってしまうことはしばしば起ります。こういった時に素早く目的のファイルを探り当てるためには、デスクトップでの検索を行ないます。Windows Vistaでしたら「デスクトップの検索」の機能があるはずです。Windows XPやそれ以前のOSでしたら
「Googleデスクトップ」をインストールしておけば、デスクトップ検索ができます。
日付(Time)+階層構造(Tree/Category)+デスクトップ検索(
rhizome)でファイルとフォルダを管理しているというのが私のやり方です。参考にして合理的なシステムを作って下さい。
■ファイルの種類
ファイルには、プログラム(ソフトウェア)ごとに「拡張子」が付けられます。これは普段の作業では意識していないかもしれませんが、他人とファイルを交換する時にはとても重要になってきます。
ワードとエクセルの場合:例えばワードでファイルを作った場合、あなたの環境がWindows VistaあるいはOffice 2007の場合、docxという拡張子がつきます。ですがこの拡張子がついたファイルはWindows XPやOffice 2003という環境では読めません。同じようにエクセルでも現時点(2008年)の最新環境ではxlsxという拡張子がつきますが、そのファイルは古い環境では読めません。ですから現時点では他人と共有するファイルは、それぞれdoc、xlsで保存することがマナーとされています(保存するときに「保存の種類」で決定する。ワード全体の「Wordのオプション→保存」で一括して設定しておくと便利)。
追記 (2014/11/11)
さすがに最近はdocxなどのファイルを読めるコンピュータも増えてきましたので、上記の配慮はそれほどに必要なくなってきました。 ですが、私はアプリに関しては、できるだけ最新版を使うのは控え、少々古いコンピュータを使っている人にも利用できるように古いバージョンでファイルを保存することを原則としています。
ちなみに新しいdocx、xlsxは
XML (EXtensible Markup Language)という国際標準の規格に基づいたものです。ですから将来はこちらの方が主流になるかと思われます。コンピュータの場合、とにかく国際的に標準化された規格が好まれる傾向にあります。これはインターネットにつながれたコンピュータという環境が、人間の思考や行動を変え、協調行動を促進しているので、できるだけ標準化され、公開された規格が必要とされているという背景があると思います。私がいうコンピュータと人間の共進化というのはこういった事態を指しています。
PDF:PDF (Portable Document Format)とはアドビシステムという会社が開発した規格ですが、2008年には国際標準化機構で標準化されました。ファイルをこのPDF形式(拡張子はPDF)で保存しておくと、どんなコンピュータ環境でも、ファイルの作成者が意図したとおりの形で読むことができます。
例えばワードですが、同じようなコンピュータ環境を持つ人にファイルを送っても、図や表が崩れてしまうことがしばしば生じます。これはワードの余白などの設定が異なることにより生じることですが、かなり不便なものです。こんな時にワードファイルをPDF化して送ると、相手も自分が意図したとおりの形のファイルを読むことができます。
PDFを読むことは、アドビシステムからAdobe Readerを無料でダウンロードすれば誰でもできますが、ファイルをPDFにするためにはPDFなどのソフトを有料で買う必要があります(Office 2007ではPDF化が容易にできます)。PDFは各種ファイルを変換するのにも便利です。私がよく行なうのはワードで作った図をPDF化して、それを各種の画像ファイルに変換することです。
(X)HTML:皆さんはこの記事をウェブで見ているはずです。皆さんのコンピュータやブラウザはそれぞれに異なるはずですが、この記事もきちんと読めるはずです。これはウェブでは
HTML (Hyper Text Markup Language)という規格で文書が書かれているからです。これも国際的な標準規格ですが、技術的にはいろいろな不備がありますので、現在は上で説明したXML規格に基づいた
XHTML (EXtensible Hyper Text Markup Language)が推奨されています。現在のブログはたいていXHTMLで作られていますので、この普及が進んでいます。これらの事情については岡嶋裕史『
構造化するウェブ』(講談社ブルーバックス)を読んでください。良書です。「
セマンティック・ウェブ」(
Semantic Web)の考えなどがわかりやすく解説されています。
テキストファイル:実はワードファイルやエクセルファイルを(X)HTML化すること、あるいはその逆は案外面倒だったりします。ワードでもそうなのかと思うかもしれませんが、ワードにはフォント(後述)などの各種書式の情報が入っているからです。コピーをしたら、文字の種類や大きさがずいぶん異なっていて戸惑った経験はみなさんにはありませんでしょうか。
その点、テキストファイル(text file)は、文字入力しかできませんが、それだけに互換性が非常に高いので、原稿はまずテキストファイルで作っておいて、それをワードやエクセル、あるいはホームページやブログに移植する方法が役立ちます(この記事もそうやって作っています)。また例えば、ワードとエクセルなどの異なるソフト間で、文字情報をコピー・アンド・ペーストする際に、各種書式情報がわずらわしかったら、
いったん、テキストファイル(を扱うエディタ 後述)に文字情報をコピーしておくと便利です。
コンピュータを使うメリットは、大量の文書を様々な形で作成することですから、テキストファイルの利用は、パソコンをどんどん使うようになったらお勧めの方法です。テキストファイルの拡張子はtxtです。
■エディタ
テキストファイルは「メモ帳」(Windowsのプログラム→アクセサリ→メモ帳)でも、ワードでも(保存の種類を「書式なし」にする)でもできますが、これらの方法は非常に不便です。テキストファイルを高速に作るにはエディタ(text editor)と呼ばれるソフトを使います。ソフトの中には無料でダウンロードできるものもありますので、いろいろ探して見てください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%A8%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%BF
ちなみに私は有料ですが、WZ EDITORを使っています。これは個人的にはかなりお勧めです。文書をたくさんつくるようになったらぜひいいエディタを使ってください。仕事がかなり楽になります。
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/03/wz-editor.html
追記:その後、私はNo Editorもよく使うようになりました。私は短い文章やブログ記事などのHTMLを使う文章はNo Editorで、しっかりとしたアウトラインを必要とする長い文章はWZ EDITORで書くというように使い分けをしています。
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/04/no-editor.html
なお、WZ EDITORやNo Editorといった優れたエディタでは、画面背景の色やフォントの種類や大きさ、各種表示の色分けが自由に設定できます。これらを自分好みに調整することで、目に優しくかつ作業しやすい画面を作り出すことができますので、非常に便利です。(逆に言いますとMS Wordは長い年月にわたり世界中のユーザーから高い金を取っていながら、使い勝手がよくないので私は不満です。私はMicrosoft社に別に恨みをもっているわけではありませんが、Wordは世界標準になるべき優れた製品とはとても思えません)
参考:Microsoft’s Creative Destruction
http://yosukeyanase.blogspot.com/2010/02/too-much-success-in-past.html
エディタは、いったんフォントを決定したら、フォントの種類を途中で変えることはできません。エディタはひたすらに文章を書くためのソフトです。Wordなどのワープロは、フォントを途中で色々変えられるので便利なように一見思えますが、実際は文章を書いている途中で勝手にフォントが変更されたりしてイライラします。文書をひたすら書くときには、フォントなどについては考えずにとりあえずエディタで文書を書き上げる方が効率的です。
エディタで書き上げた文書はWordなどに流し込みます。フォントはテキストを流し込んだ後に設定します。ちなみにフォントは、印刷文書では本文は明朝/Times New Roman、見出しはゴシック/Arialを使うこと、ウェブ文書ではゴシック/Arialを使うことが多いです。フォントに関してはデザイン上、あるいは読みやすさのことをよく考えて設定してください。印刷文書では本文は明朝/Times New Romanを使うことが無難です。(英語文書にTimes New RomanでなくCenturyを使うのは日本だけの習慣のようです)。
エディタは、絵文字や機種依存文字を使うこともできません。機種依存文字とは、特定のハードやソフトでしか読めない文字です。
http://apex.wind.co.jp/tetsuro/izonmoji/
仕事でコンピュータを使う時は、これらの機種依存文字を使わないことがマナーです。特に丸付き文字をよく使う人がいますが、やめた方がいいと思います(ちなみに私は英語文書に丸付き文字を使われると違和感を覚えます)。
また英数字は半角で作成することが標準的です。日本の官庁などではまだ英数字を全角で作成するところもありますが、個人的には英数字は半角で作るということを徹底しておいた方がいいかと思います。
ただコンピュータは基本的にはアメリカで開発されたシステムなので、英語アルファベット以外の文字の扱いには不親切だったりします。いわゆる「
文字化け」が生じるのも、日本で使われているパソコン環境の多くが、SHIFT_JISといった日本固有の
文字コードを使っていることに起因しています。こういった問題を解消し、多言語の文字を一元的に扱うために作られた文字コードが
UNICODEです。現在は
UTF-8が使われることが多くなったので、このブログでもUTF-8を使っています。ウェブで文字化けが起った場合は、ブラウザの「表示→エンコード」を調節してください。
ちなみにWordでは、ソフトが妙に賢くフォントや半角/全角を自動的に決定したりしますので、これが大きなストレスになったりします。私の愛用するエディタはこういったことをきちんと設定したら、このあたりでストレスを感じることはありません。
またWordはしばしばフリーズし、非常にイライラさせられますが、エディタはまずフリーズしません(私は今までエディタでフリーズを経験したことが一回もありません)。多くの文章を書かなければならない人は、Wordを止めてエディタを使うことをお勧めする次第です。
またWordは日本語入力システムにIMEを使っていますが、私はこのIMEは駄目なシステムだと思います。文章を高速で作成していると、このシステムの変換の馬鹿さ加減にかなりストレスを感じています。ですから私は日本語入力システムだけは、ジャストシステムのATOKを使っています。ATOKは日本語変換がIMEに比べて賢いですし、「きょう」と入力して変換すると「2008/11/03」、「いま」と入力して変換すると「17:36」などと現在の日付・時刻などが自動入力できるので、大変便利です。
ちなみに使うと便利なのが、自分専用の日本語変換です。例えば私の場合、「y」、「h」、「b」、「じゅうしょ」、「めあど」などと入力し、スペースバーを押して変換しますと、それぞれ、「柳瀬陽介」、「広島大学大学院教育学研究科英語文化教育学講座」、 「http://yanaseyosuke.blogspot.com/」・「http://yosukeyanase.blogspot.com/」、 「739-8524東広島市鏡山1-1-1広島大学教育学研究科」、「yosuke@hiroshima-u.ac.jp」と変換されます。こういった変 換はぜひ自分が使いやすいように設定してください。
追記:その後、グーグルが無料の日本語入力システムを提供しはじめました。
http://www.google.com/intl/ja/ime/
追追記:Microsoft社も、正規ユーザーへのサポートを始めました。
http://www.microsoft.com/japan/office/2010/ime/default.mspx
別に自慢でも何でもありませんが、私はしばしば「よくあれだけの大量のアウトプットができますね」と人に驚かれますが、文書の質はさておき、量に関しては、こういったエディタなどの知的環境を整えているといった要因があるからこそ大量に文書を作り出すことができています。
■アウトラインプロセッサ
前回の勉強で、ツリー、マトリックス、リゾーム、タグ、マインド・マップなどの情報の組織化・構造化の方法について学びましたが、これらは時間的制約がほとんどない、無時間的あるいは超時間的な組織化・構造化です。
しかし言語表現は、話し言葉であれ、書き言葉であれ、線状(linear)でなければならないという強い制約を持っています。これは簡単に言うと「一時期に一つの単語しか聞けないし、読めない」ということです。皆さんが、まとめた各種の情報も、一直線上に順序づけなければなりません。
この順序づけは実は非常に知的な作業です。わかりやすい説明をするためには、どの順番で何を並べればいいか。無駄な説明を避け、その順番に読む・聞くだけですらすらわかる配列を作ることは、実はそれほど簡単なことではありません。しかし多種多様な無時間的・超時間的情報を、一直線の線状に並べるというのが、言語コミュニケーションで非常に大切なことなのです。論文であれ、授業であれ、プレゼンテーションであれ、言語を主な媒体とするコミュニケーションでは、この線状という制約にどう対処するかが発表者の腕の見せ所です。
パラグラフライティングというのは、この線状的制約に、階層構造が加わった文章の構成法です。「一つのパラグラフには一つの考えだけを書く」というのはしばしば言われて (そして実行されていない) ことですが、パラグラフライティングはそれだけでなく、パラグラフの順序が、読者がそのままで読んでサクサクわかる順番になっていなければなりません。また、複数のパラグラフが節、複数の節が章、複数の章が文書全体を構成しており、この文書全体→章→節という関係は、複数に分岐する階層構造となっています。
パラグラフライティングの利点の一つは、この階層別の説明ができることです。時間がないときは、文書全体の説明をタイトルや要約で行ないます。もう少し時間があれば、章レベルだけの説明を行ないます。さらに時間があれば節レベルまで説明をします。きちんとしたパラグラフライティングは伸縮自在の説明を可能にします。
この線状的制約と階層構造制約を、わかりやすく表記しようとすれば、ウィトゲンシュタインが『論理的哲学的論考』で示したように、数字で表記できます。章は1桁の数字、節は2桁の数字、項は3桁の数字で表現します(一般に3桁以上の階層はわかりにくくなりますので作りません)。
1
1.1
1.1.1
1.1.2
1.2
1.2.1
1.2.2
1.2.3
1.3
2
2.1
(以下略)
といったように表現します。
ただ、アイデア形成や下書きの段階で、上のような表記をするのは、階層構造だけでなく線状的性質も表現するので困難です。通常、一つ一つの考えの階層構造(重要度)の区分けを考えるのは容易ですが、それらの構造をどのような順番で並べたらよいかについては何度も考え直さなければならないからです。例えば最初は1.2としていたものを、1.3にもってゆこうとしたら、いちいち数字表記を訂正せねばならず、とても面倒です。
これを解決するために、私は単純な記号に特定の重要度を与える原則を一貫しています。
私の場合、最重要レベルは■、二次的重要度は▲、三次的重要度は●にしています。(角の多いものから少ないものへという順番です)。
この表記ですと、上の数字表記は
■
▲
●
●
▲
●
●
●
▲
■
▲
となります。
考えを書く度に、その重要度を三段階で判断して、■、▲、●の記号をつけるだけですから、この方法は容易であり、簡単なメモを作成するとき、私はこの方法をしばしば使っています。
こういった線状的性格と階層構造という制約をもった(また持たなければならない)パラグラフライティングを、本格的に行なわなければならない時に便利なのが、
アウトラインプロセッサと呼ばれるソフトウェアです。
アウトラインプロセッサは、ワードの「表示→アウトライン」でもできますが、ここでもフォントの自動設定などが私にとっては非常にわずらわしいので、私はこういった観点からもWZ EDITORを愛用しています。
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2008/03/wz-editor.html
ただし短いアウトラインだけでしたらワードでも十分ですから、アイデアを整理するには私も昔はワードのアウトライン機能を使っていました。ある資料を何度も読みながら、マインド・マップなどを作って、かつフローチャート的に時系列分析で一桁レベルまでのアウトラインを作った(
この例。パスワードが必要です)後にワードのアウトライン機能を使ったのが
この例です(パスワードが必要です。ダウンロードしたら「表示→アウトライン」を選んでください。)。