2010年4月10日土曜日

クリス・アンダーソン著、高橋則明訳(2009)『フリー』NHK出版

■ デジタルデータの処理能力・記憶容量・通信速度の飛躍的上昇

現在、コンピュータの処理能力は、1年半から2年で倍になっている(「ムーアの法則」)

しかしハードディスクのデジタル記憶容量はそれ以上のペース(1年で2倍)で増えている。通信帯域幅はさらに早く、データが光ファイバーケーブルを通って伝達される速度は、約9ヶ月で2倍になっている。

デジタルデータの処理能力・記憶容量・通信速度のこれだけの上昇は、これまでとはまったく異なった世界を私たちに提供している。(103ページ)




■ 技術ではなく、私たちの発想が障害である

これだけの量的変化は、私たちに発想の転換を迫る。以前は希少なものが潤沢になったら、私たちはそれに関するコストについて考えることをやめるべきだ。(115ページ)

1970年代にアラン・ケイは、それまでは希少だったシリコンチップを潤沢に使い始めた。技術者からすればシリコンチップの「ムダ」な使用に思えるコンピュータ画面を作った。アイコンやマウスで動くポインタ、あるいはウィンドウ分割、アニメーションである。その結果、コンピュータユーザは飛躍的に増えた。(117ページ)

iPod以前に、私たちは自分の音楽コレクションのすべてを常時携帯するなどといったことを想像すらもしていなかった。だがアップルは記憶容量を潤沢に使うことで、まったく新しい文化を創り出した。(121ページ)

YouTubeはこれまでの映像産業からすれば侮辱ともいえるくだらない映像を「ムダ」に作り出している(中には明らかな著作権違反映像もある)。しかしこの「大規模な集団実験」(258ページ)から、ホワイトハウスや有力大学はYouTube配信を真剣な仕事として捉え始めた。

わたしたちの限界は、技術というより想像力である。

しかし、こういった大変化を嫌う人は多いだろう。発想の転換ができない人、既得権益を享受している人はことさらだ。そういう人は放っておこう。そういう人を説得するのはあなたの時間・人生の無駄だ。





■ 20年で、ある知識産業が激変

以下は同書の174-175ページの記述のまとめである。これから知識産業・知識社会がどのように変るか誰も予測できない。

1991年に百科事典の市場規模は約12億ドルで、ブリタニカは戸別訪問のセールス部隊を主力に1000ドル以上の百科事典セットを売り、6億5000万ドルを売り上げていた。

1993年にマイクロソフトは百科事典を99ドルのCD-ROMで売り始めた(「エンカルタ」)。

1996年にブリタニカの売上は3億2500万ドルに落ちた。セールス部隊の大量解雇を行わざるを得なかった。

1997年に百科事典の市場は全体で6億ドル以下に縮小した。

2001年にWikipediaが始まった。

2009年にマイクロソフトはエンカルタの提供を打ち切ることを発表した。




■ 新たな希少資源:人間の関心と時間

ハーバート・サイモンがかつて予言したように、情報の増大と共に、希少資源は情報ではなく、情報を受取る人間の関心になる(238ページ)。

私たちは情報でなく、人々の関心を得るために全力を尽くさなければならない。それと共に人々の時間を希少資源として考えなければならない。人々の関心と時間をムダに消費するメディアは衰退する。



■ 英語での知識のフリー化

この本の簡単な説明と、著者の講演のビデオは英語で無料配信されている。このような高品質の無料配信は英語ではもはや当たり前である。英語はもはや希少資源ではない。


Free: The Future of a Radical Price (05:26)






FREE: The Future of a Radical Price (37:16)





■ Knowledge managementとmotivation management

これからの英語教育は、英語を希少資源としてではなく、潤沢に―これまでの発想からすれば「ムダに」―使うという発想に変わらざるをえないのではないか。

英語の潤沢化は、英語に関する知識がわかりやすく美しくデザインされることを要求する。何しろ学習者の関心と時間はもはや希少なのだ。

大切なのは英語という知識ではない。学習者の関心、時間、そして意欲だ。

英語教師の仕事はこれまで以上に英語に関するknowledge managementと学習者のmotivation managementになると私は考える。






【広告】 というわけで「フリー」のこの記事を読んだ皆さん、この記事の著者が書いた
『リフレクティブな英語教育をめざして』『危機に立つ日本の英語教育』を買ってね(笑)。







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