2017年4月11日火曜日

The scientists who make apps addictiveの解説記事



以下は、学部4年生用の授業「現代社会の英語使用」の題材の一つとして使う英文を読むための補助資料です。以下をまず読んでから英文を読むと理解が容易になるかと思います。ただ、正確な翻訳・抄訳ではありませんのでご注意ください。

題材は、現時点では誰でも自由に読めるインターネット上の記事です。


The scientists who make apps addictive
by Ian Leslie
October/November 2016
The Economist



■の次にある数字は、受講者にBb9で配布する資料の行番号です。受講者の参照の便のためにつけました。


私たちの多くにとって、もはや欠かすことのできない存在となったアプリがどのようにデザインされているかについて考察してみましょう。アプリ上での英語使用も、結局はそのデザインの枠組みの中でのことに過ぎないと言ったら、悲観的すぎますでしょうか・・・




*****


■ 5-17

心理学者スキナーの行動心理学については教職教養の一部として知っておこう。

キーワードとしてはreinforcement (強化)、operant conditioning (オペラント条件づけ)、スキナー箱 (Skinner's Box) などがある。

ちなみに「オペラント」というカタカナはわかりにくいが、英語で “operant” は、 “behavior (as bar pressing by a rat to obtain food) that operates on the environment to produce rewarding and reinforcing effects”などとも定義されている。カタカナ語の多用を嫌う私としては、どうして「オペラント条件づけ」などと言わずに「行動による条件づけ」、「行動的条件づけ」、「動作的条件づけ」などと翻訳してはいけないのだろうなどと思ってしまう。そうすれば大学生時代の私のように、この概念と「古典的条件づけ」の違いがわからないなどと悩むことも少なくなるのではないかとも考える。(乞うご教示)。


■ 19-21

心理学では1950年代以降、認知心理学 (cognitive psychology)が隆盛となった。認知心理学と行動心理学の違いも教職教養の一部として知っておこう。


■ 22-26

しかし行動心理学は死に絶えることなく、現代では「行動デザイン」 (behaviour design) として再浮上している。その創始者(の一人)が、この記事の中心的話題となるB.J. Fogg https://bjfogg.com/ である。


■ 34
Uber(ウーバー)については最近の話題の一つとして知っておこう。


■ 59-62
Foggは、教育系のソフトウェアや金融管理プログラムなどにも、行動心理学が活かせると考えた。


■ 64-67
社会心理学では、人間の行動特徴の一つとしてreciprocity互酬性)が提唱されているが、Foggの実験では、人間はコンピュータといった機会に対してもこの原則を適用させていることが示された。


■ 68-71
そうなると互酬性の原理にしたがってアプリを設計すれば、人間の行動を変えることが可能になる。しかしこの行動デザインの倫理性についてはまだ十分に検討されていない。


■ 76-80
しかし、現在のアプリには実際、行動デザインの原理が多用されているが、それらは巧みに用いられ人々に気づかれることも少ない。


■ 82-84
Foggの講演を聞いた者は、「危険だ!」と言う者たちと、「ビジネスチャンスだ!」と言う者たちのふた手に分かれた。


■ 86
実際、行動デザインは巨万の富を産んだ。
 

■ 91-92
しかしFoggは、行動デザインの倫理面についてますます懸念を深めている。


■ 94-99
誰かが何かをする時には以下の3つの条件が同時に揃わなければならない。(1) その事をやりたいと願っていること、(2) その事をすることが不可能ではないこと、(3) その事をやるように促されること。


■ 105-106
しかし、大人と子どもでは行動が違ったりする。たとえば、大人は簡単な事ならやるが、子どもはたとえ簡単なことでもゲームのようでないとやらない。


■ 108-110
人に何かをやらせる時は、その人のやる気(モチベーション)を高めようとするが、それよりもその行動そのものをその人に適したものにすればいいのかもしれない。


■ 123-127
うまくデザインされた「ホット」なトリガー (trigger 誘発装置)は、人がまさにそれをやりたいと思っている時にちょうどいい難易度で行動を誘発させる。


■ 131-135
「ホット」なトリガーで情動が高まると、その行動を自動的に選択するようになる。(飛行機のビジネスクラスでの待遇を考えてみてもいい)。


■ 140-141
「人をいい気分にさせろ」ということは、「人に強大な力を得たと思わせろ」と言い換えられるかもしれない。


■ 151-156
Foggの理論以降に台頭したFacebookやInstagramなどのSNSは行動デザインを駆使している。SNSでもっとも「ホット」な誘発装置(トリガー)は、他人である。友人やフォロワーの反応によって、人はSNSにのめり込む。


■ 161-165
たしかにフォローやコメントがついたら嬉しくなるものだが、そればかりを追求するとやがてストレスが溜まってしまう。


■ 175-177
Foggはかつて彼が教えた者たちを見てこう思う。「彼ら・彼女らが作っているのは、良い世界だろうか、それとも金儲けの機会だろうか。私はテクノロジーから人々が自由になることを願っていたのに・・・」


■ 179-184
スキナーがネズミを対象とした実験で解明したことは、報酬を一定にせず、変化させると、余計にその行動に「はまってしまう」 (hooked) ということだ(the principle of variable rewards)。


■ 186-190
Facebookにフォローやコメントがつくかどうかが気になってはまってしまうというのは、まさにこの「報酬変化の原則」である。


■ 192-198
ある学者は、誘発要因は外部に存在するのではなく、その人の内部に存在するようになると理論化している。例えば、人は、もはや気づかないうちに特定のアプリを欲するようになっているからである。


■ 211-216
インターネットの初期には、「情報によって人々を啓蒙する」という理念が掲げられたが、現在は「人々の注意をひきつけ離さないようにしてサイトやアプリで儲ける」ことが中心になってしまった。多くの会社は、私たちの心理的な弱さ (psychological vulnerabilities) を食い物にしている。


■ 218-220
例えば、Facebookは人がプロファイルの写真を変えたら、それをニュースフィードで大きく取り上げるが、それはそういった時に人がもっとも社会的承認(「いいね」やコメント)を欲していることをFacebook社が熟知しているからだ。


■ 231
ある人 (Harris) は、デザイン倫理学者およびプロダクト哲学者という肩書を考えて、デザインの倫理性について真剣に考えようとした。


■ 235-139
しかしそのHarrisもやはり独立して、独自にデジタルテクノロジーの危険性について警鐘を鳴らすことにした。行動デザインはクリックだけの些細なことに思えるが、全世界的に広がれば、巨大な権力となり人間の自由選択が侵されるとも考えるからだ。


■ 241-245
Harrisが常に唱えているのは「メニュー画面を制する者は、人々の選択を制する」である。現代人は、いくつかのアプリだけでさまざまな決定をしているので、それらのアプリのメニュー画面をデザインする者は京大な権力を有することになる。


■ 255-258
アプリ会社は、人々が欲するものを得る手助けをしているだけだ、と言うかもしれないが、現代人が毎日何回もスマホにアクセスすることを考えるとアプリ会社は人々の選択に強い影響力をもっているといえる。


■ 263-266
行動デザインの先駆者はギャンブル産業である。スロットマシンは報酬変化の法則の力を利用している。客は、次にどれだけの儲けがあるのか(そもそも儲けがあるのか)わからずに、スロットマシンから離れられなくなる。


■ 274-278
カジノは客の「機器利用時間」を最大化しようとしている。ギャンブラーはカジノの機器を離れることなく食べ物や飲み物を注文することができるし、照明、装飾、音響、香りなどの環境要因は周到に計算されている。


■ 283-285
数学者は、客がどれぐらい金を払い続けるかを計算している。さまざまな計算で、リスクについて異なる考えをもつ客にも対応し、できるだけ客がお金を使うように報酬の出し方を調整している。


■ 290-300
「ゾーン」もしくは「フロー」というのは、ある活動に完全に集中してしまっている状態のことだが、それに倣った「マシン・ゾーン」ということばもある。多くのギャンブラーは、カジノで「ゾーン」に入ってしまった経験をもつ。


■ 295-300
カジノでは、客に負けが続くとどこからともなく「幸運大使」 (luck ambassador) が来て無料チケットをくれたりする。だが、この登場は、アルゴリズムが、客のそれまでのパターンをデータとして計算した上でのことである。この「幸運大使」の登場により「臨界点」 (pain point) に近づいていた客も、カジノにとどまり続ける。


■ 302-306
カジノに興味をいだく教育産業関係者もいる。学習者が「臨界点」に達しそうになったら「幸運大使」を登場させればいいのではないかと考えるわけだ。


■ 309-315
まるで世界が、それぞれの人にとってのスキナー箱になっているみたいだ。人々が消費者として接するインターフェイスはどれもがスロットマシンのようになっている。だが、このスロットマシンはポケットに入るぐらい小さい。


■ 324-330
テクノロジー界には、行動デザインは人々によい習慣をもたらす進歩であり、何ら問題ではないと考える人もいる。


■ 334-337
「誰も、その人が望まないことをさせることはできない」というのは本当だろうが、ギャンブルにおいてその関係性は非対称的である。ギャンブラーはゾーンの快楽自体が目的となっているが、ギャンブル産業にとってゾーンは利益を得るための手段にすぎない(ギャンブル産業はゾーンという報酬を変化させて、ギャンブラーをかなり操ることができる)。


■ 339-345
システム全体が、デザイナーに有利になっているといえるだろう。グーグルやアップルがやっていることも、結局は、機械利用時間を最大化するために、報酬を変化させることだ。


■ 352-355
AIを恐れる人もいるが、AIは既にインターネットという形で登場している。インターネットでは私たちをはめてしまう方法が次々に開発されている。


■ 357-359
理屈の上では、この誘因と報酬 (incentive and reward) の循環から逃れることはできる。だが逃れる人は少ない。受け入れてつながる (accept and connect) 方が簡単だからだ。私たちは監禁学 (captology) によって喜々として監禁されているのかもしれない。




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