私が間違っていたのは、下記の「悪用法」は、レビュアーが普通にレビューを「編集」するだけではできないということです(私は先ほど普通の「編集」でアマゾンのレビューを書き換えたところ固定リンクも「はい」「いいえ」も変わりませんでした)
私は自分のレビューではまだ実験していませんが、下記の「悪用法」は、レビュアーが、まず自分のレビューの固定リンクページに行き、「レビューを編集」ではなく、わざと「レビューを削除」クリックしてから、新たにレビューを投稿することにより可能になるようです。
この発見に基づき、私は正確な情報が伝えられるように、以下の記述(およびタイトル)を修正しましたことをここでお知らせしておきます。
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現代日本の読書文化に対してアマゾンは巨大な影響力をもっています。そのアマゾンに掲載されるレビューおよびレビュアーのランキングは、書籍購買にも大きな影響を与えます。また、これからの批評文化やウェブ文化を形成する核の一つになるとも考えられます。
最近、私はアマゾンのレビューについてある経験をしまして、このレビューシステムは、悪用することが可能であり、そのような悪用がはびこれば、日本の読書文化・批評文化・ウェブ文化を劣化させうるとも思うようになりました。
私は時折米国アマゾンを利用します。たいていの洋書は日本アマゾンでも入手できますが、書籍がどのように"review"されているかを知りたくて米国アマゾンを閲覧するわけです。管見の限りですが(私が閲覧するのは学術書や芸術書が中心です)、米国の"review"は長く丁寧に書かれ、できるだけ公正な批評をしようとしているものが多く、大変助かります。時には書籍の著者や当該分野の専門家も書き込んでいるので勉強にもなります。
他方、これも私が見る限りですが、日本の「レビュー」は残念ながら、主観的な印象論を短く断定的に述べるだけのものがまだ少なくありません。もちろんいかなる人も自分の主観から逃れることはできませんが、少なくとも自分の主観(物の見方や考えの枠組み)がどんなものかを自覚しそれに言及しながら書き進めることにより、公正さは追求することができます。日本の「レビュー」は、せいぜい短い「感想」であり十分な「批評」でないとすら言えるのかもしれません。
こういった状況で、もしこれからアマゾンレビューが悪用されれば、「悪貨は良貨を駆逐する」ではありませんが、アマゾンレビューの質が、後戻りがきかないぐらいに劣化するかもしれません。そしてそんな悪用を続けるレビュアーこそが「トップレビュアー」の称号を得て、多くのユーザーに影響を与えるかもしれません。
そのレビュー文化の劣化は、ウェブ文化や読書文化全般にまで悪影響を与えるようになるかもしれません(文化は、ある程度まで劣化してしまったら、それを改善するのはほぼ不可能になってしまいます --私は悲観的すぎるのでしょうか--)。
そういった最悪の事態を避けるため、ここでは私が今回の経験から発見した、アマゾンレビューシステム悪用法を述べ、アマゾンレビューに対しての皆様の関心を高めてもらおうと思っています。
ひょっとしたら、悪用法はこんな単純なものだけでなく、もっと込み入ったものがあるのかもしれません。それらはわかり次第ここでもお伝えしますが、現時点では、私が複数の人間の複数の経験から推定できる限りのことを下で報告します。この推定に間違いがあることが判明したら、その際は速やかに内容を訂正します。
■ アマゾンレビューシステムの仕組み(推定)
自他合わせた複数者の経験から現時点で推定できるのは、アマゾンのレビューシステムでは、レビュアーがいったん掲載した自分のレビューをわざと削除してから再投稿することによって、次のことが自動的に生じるようになっているらしいということです。
ちなみに、「レビューを削除」の機能を使うには、通常の書籍トップページからではなく、いったんわざわざ自分のレビューの固定リンクページに行く必要があります。
レビュアーが通常のように「編集」モードでレビューを書き換えるのではなく、まずレビューの固定リンクのページに行き、そのページでわざとレビューを一度「削除」した上で、新たにレビューを再投稿すると、
(1) 新レビューに新しい固定リンクURLが付与され、旧レビューの固定リンクは無効化される。
(2) 旧レビューにつけられていたコメントが抹消される。
(3) 旧レビューの評価(「このレビューは参考になりましたか?」への「はい」か「いいえ」の数もゼロに戻され抹消される。
ようになることが推定される。
以上の(1)-(3)は、レビュアーが自分のレビューを普通に「編集」するだけでは可能になりません(これは私が試して確かめました)。
(1)-(3)は、あくまでもレビュアーがわざといったん「レビューを削除」して、新たにレビューを投稿してはじめて可能になるようです。私はまだそういった実験を行っていませんが、常識的に考えてこの推定はおそらく間違っていないと思います。
もしこの推定が正しいとすると、アマゾンのレビューシステムは以下のやり方で悪用することができます。
■ アマゾンレビューシステムの悪用法
あくまでも一般論であり理論的に可能な仮定として読んでください。仮に、レビュー活動を、読書文化・批評文化・ウェブ文化を豊かにするためではなく、レビュアーとしての自分のランキングを上げるために使うことばかりに執心している人がいたとしましょう(その執心が、功名心からくるのか実利からくるのかそれとも複雑な心理的葛藤からくるのかは、私にはわかりません)。
そんな人が気にしているのはもちろんレビューアランキングですが、その決定アルゴリズムは一般には知られていません。しかし、どう考えても、そのアルゴリズムは、レビューに寄せられた「このレビューは参考になりましたか?」への「はい」と「いいえ」の絶対数とそれらの比などを重視しているはずです。
もし以上の想定が正しいなら、以下の(a1)-(a5)のような方法でアマゾンレビューシステムを悪用(abuse)することができます。
(a1) 流麗な修辞法などを駆使した目立つレビューを、次々に量産し、多くの「はい」を得て、ランキングを上げる。
(a2) もし自らのレビューの錯誤や偏りを指摘するコメントが来たら、まずそのレビューを削除してしまう。
(a3) その旧レビューの削除により、旧レビューへ寄せられた批判的コメントの存在自体を抹消してしまう。
もちろん削除により、旧レビューで得られた「はい」の数は失われるが、批判コメントにより今後増えるかもしれない「いいえ」の数は未然に防ぐことができる。
(a4) 削除の直後に新しいレビューを投稿するが、それはレビューの細部だけを書き換えたものにしておく。
一般読者は、古いレビューの固定リンクURLを知っていない限り、そのレビューにはいわばマネー・ロンダリングのような(a3)の操作がされていることに気づかない。新しいレビューは、通常のように書籍情報のページからアクセスすれば、前と同じように表示されるからそうやって一般読者の目をごまかす。
もしそのレビューに付けられた「はい」と「いいえ」の数の記録を注意深く取っている読者がいれば、その数が変わったことに疑問をもつかもしれないが、レビューの細部が変更されているので、一般読者は、レビューは細部が編集されたため数が変わったと思い込む(一般読者はそれほどアマゾンレビューシステムについて知識をもっているわけではない)。
(a5) このように自らの錯誤や偏りを隠したまま、知らぬ顔のまま(a1)の活動を続け、さらに自分のランキングを上げる。
こうすればレビュアーは自分の目的を首尾よく達成することができるでしょう。
しかし、もしこのような悪用法がはびこれば、そのレビュアーに(誤解に基づいた)酷評をされた著作の著者および出版社は少なからぬ精神的苦痛を覚えます。また、本来は得られたかもしれない読者を得られないという文化的・経済的損害も生じます。
また、もしそのレビュアーに(誤解に基づいた)絶賛された本を買ったアマゾンユーザーは無駄な出費をしたと後悔するかもしれませんが、上記の悪用法によってそのレビューへのコメントや「いいえ」の批判は抹殺されます。
おそらく唯一の抗議方法はユーザーが自らレビューを書くことかもしれません(さすがにそのレビュアーも他人が書いたレビューを消去することはできません)。
ですが、多くの人はそこまでしません。レビューの目的を取り違えた自称「レビュアー」は、しばしば他のレビュアーを攻撃します。そして、字数の限られたウェブ空間での匿名者とのコミュニケーションは不毛な水掛け論となり、憔悴してしまうだけのことが多いからです。
私たちはこのような悪用法がありうることに対する警戒を高めなければならないのではないでしょうか。
■ 今後のアマゾンレビュー文化のために
今回私は、たまたま、(i) 問題が疑われていたレビューの固定リンクURLを自分のブログページに記載しており、なおかつ、(ii)自分でレビューを出し、さらにそれを通常のように編集したから、この悪用法のメカニズムを推定することができました。
(i)をやっていなかったら、私もレビューは編集されただけだと思い込んでいたでしょう。(ii)をやっていなかったら、レビューが編集されるだけで固定リンクが変わり、コメントや「はい」「いいえ」の情報が抹消されるのだと思い込んでいたでしょう(実際、私は編集したレビューをチエックしてはじめて、編集しただけでは、固定リンクが変わったり「はい」「いいえ」の情報が変わることはないことを学びました)。
私はこのように悪用法を公開しましたが、これは上でも述べましたように、レビューに対する皆様の関心と注意力を高め、言ってみるなら私たちの「レビューリテラシー」を向上するようお互い努力すべきだと考えたからです。一人の人間ができることには限りがありますが、多くの人々が良識に基づいた行動をすればその力は計り知れないからです(それこそが文化の力です)。
以下、三つの対抗策 (A)-(C)を提示します。システムを悪用する人に対抗するためには、こちらもしたたかである必要があります。
(A) 固定リンクURLを電子記録
もしあやしいレビュアーがいれば、その人のレビューの固定リンクURLを記録しておいてください。変わっていたら、システムを悪用している可能性があります。
(B) 「はい」と「いいえ」の数を電子記録
あやしいレビュアーが書くレビューの「はい」と「いいえ」の数に注目しておいてください。証拠を得ようと思ったら、Evernoteや他の手段で電子記録(画像)をとっておくことが有効でしょう。もし「はい」と「いいえ」の数が変わるレビューがあれば、それを書いたレビュアーは、レビューシステムを悪用している可能性があります。(もっとも、アマゾンサーバーのトラブルのために「はい」と「いいえ」の数が変わったという可能性は排除できません。念のため付け加えておきます)。
(C) コメントを出してその掲載を電子記録
もし自分がコメントを出したのに、そのコメントが消えてしまっているレビューがあれば、それも怪しいと思ってください。(レビュアーは自分のレビューにコメントがつけば、すぐにそれを電子メールで通知してもらうシステムを利用することができますので、否定的なコメントはすぐに抹消されることがあります)。ですからおかしなレビューにコメントを寄せた方は、ぜひそのコメントの電子記録(画像)もとっておいてください。
読む対象が活字からウェブへとどんどん移行するにつれ、いつのまにか私たちはウェブでの短文の断定口調に慣れきってしまうかもしれません。そんな時、流麗な修辞で武装された断定的レビューは非常に魅力的に思えるかもしれません。ですが私たちはむしろ、そんなレビューをレビューする、つまりはレビューを冷静に観察することが必要なのかと思った次第です。
また、ランキングは、顔を付きあわせての信頼関係から 作られるのではなく、単にアルゴリズムで作られます。アルゴリズムは悪用できます。ランキングを無批判に信用するのも考えものでしょう。もしかするとその人は、システムを悪用し続けることによりランキングを上げているのかもしれません。
ただ、上に述べましたように、この報告は私がなしうる最上の推定として書いているものです。錯誤があるかもしれません。もし修正や加筆をするべき箇所があれば、それは後日訂正します。この件について、より確実な情報をお持ちの方は、このブログ記事へのコメント欄でお知らせいただけたら幸いです。
アマゾンを利用する皆様への問題提起として書きました。長文にもかかわらず、最後までお読みいただきありがとうございました。
2 件のコメント:
最近アマゾンレビューに投稿を始めたのですが、理不尽とも思える様な「いいえ」評価を受けることが多々あり、恥ずかしながら多少怒りに駆られGoogleで「amazon レビュー いいえ」と検索をかけた結果このページに辿り着きました。
著者の発言は丁寧な論述に終始しており、大変分かりやすく内容も参考になりました。思わず「はい」に投票したくなるくらいです。
まず、文中に述べられている削除&再投稿による「いいえ」及びコメントの帳消し。これは当たり前に行われていますね。悪質な愉快犯や、感情的な消費者が評価者の大多数を占めるAmazonレビュー界隈においては、投稿すればするほどレビュー内容の良し悪しに関わらず良く理由の分からない評価を受ける機会が増えていきます。☆1で批判的な内容だったりすれば、10人中0人などざらです。
やはり恥ずかしながら、自分もそういう事態に直面した時、怒りを抑えられず、一度だけレビューを削除し投稿し直すと言う禁断の手段に出たことがあります。日が経ち、冷静になるとやっちまったという後悔に襲われ二度とやりませんでしたが、そのまんまズルズルと常習する人間がいてもおかしくないと理解しました。
文中でも述べられた悪質な手段を用いるレビュワーは、恐らく最初は心無い中傷の被害者だったのではないでしょうか。相手の好き勝手な評価基準に怒りを溜め、頑張ってる俺に鞭を振るう様な奴らに遠慮する必要がどこにあると悪い方向に吹っ切り、相手は加害者だと傷心を基に認識することにより、何の罪悪感も持たず削除&再投稿の手段を用いるようになった人もいるんじゃないかと思います。
個人的には、参考になりましたか?の後の「いいえ」ボタンを無くせば問題が少しは改善するんじゃないかと思います。あの機能は、レビューを見る側にとっては面白いかもしれませんが、書く側にとってはフラストレーションが溜まるだけの(いいえを機にレビューを見直すこともあるが・・・)余分な機能でしかありません。削除することによる問題点も、特に思いつきません。狭様な私見ですが・・・
あと、ご存じのことかと思いますが、AMAZONレビューには多数の業者が紛れ込んでいます。
この業者もまた悪質で、所謂「さくら」の☆5レビューは身内で押し上げ、☆1や不都合なレビューは徹底的に「いいえ」評価を付加し、削除要請まで持っていきます。実際に削除されるかどうかはAmazon担当者の懐次第なので確実性はありませんが、少なくとも、レビューを書いた人が物凄く不快な思いをすることだけは間違いありません。うんざりして、レビューの投稿を止めることだってあるでしょう。まさに、悪貨は良貨を駆逐する、です。
また筆者の言うようにAmazonレビューの低品質かも進んできている気がしますね。受け狙いのネタ投稿や、読者を煽りその反応を楽しむ様な愉快犯、レビューにもなっていないレベルの投稿などが、どこでも見受けられます。これはAmazonがというより日本のネット全体の傾向でもありますね。
Amazonの検閲基準も首をかしげることが多いです。
長くなってきたのでこれで終わります。
また次の投稿も、楽しみにしています。
そう言えばAmazonにはVineメンバーという制度があって、Amazonベストレビュワーの何人かはこのメンバーらしいです。Vineメンバーになると、ノートパソコンやデジタルカメラなどの高額商品(しかも最新型)がタダで貰える代わりに、良品質のレビューをAmazonに寄稿するという、プロレビュワーとでも称すべき制度らしいです。自分はVineメンバーになったことがないので、語尾に『らしい』と付けざるを得ませんが。
既にご存じのことでしたら恐縮して謝りますが、面白い情報だったので付け加えておきます。
キング・ハルマゲドン様
コメントをありがとうございました。
レビュアーとしてのご体験を良心的に語っていただき、感謝しています。
実は、この記事にコメントが来たという一報を受けた時、「変な人が罵詈雑言を言っているのだったら嫌だなぁ」とも思ってしまったのですが、キング・ハルマゲドン様のコメントは大変に誠実な投稿で、ブログ運営者としてありがたく読ませていただきました(今回の記事はトピックの性質上、妙な人が絡んでくることを恐れていましたし、今もまだ、警戒心はまったくは解除していません)。
さて、キング・ハルマゲドン様からのコメントで私は以下のことを非常に興味深く思いました。
○ アマゾンレビュー界では理不尽な評価が少なくない。
○ 受け狙いのネタ投稿や、読者を煽りその反応を楽しむ様な愉快犯、レビューにもなっていないレベルの投稿などが多く見られるが、これはアマゾンだけというより、日本のネット全体の傾向であるように思える。
○ レビューを削除すると、(上記のブログ記事で推定したように)コメントを抹消することができる。
○ アマゾンレビュー界には多数の業者が紛れ込んでおり、組織的に最高評価や最低評価を与えたりすることがある(なかには削除要請までしていることもある)。
○ アマゾン自身がVineメンバーという制度をもっているらしく、その制度では高額商品の無料提供の代わりにレビュアーがレビューを寄稿しているらしい。
○ アマゾンの検閲基準にも首をかしげることが多い。
どれも、なるほどと思わされました。
米国アマゾンでは、時折「私はこの本をレビューを書くことと引き換えに無料提供された者であるが・・・」とレビュー冒頭に述べてから、批評を始めるレビューがあります。
世の中にはいろいろな仕事があっていいと私は思っていますから、プロレビュアーも「あり」だと思います。しかし、プロにはプロの職業倫理が当然あるわけですから、そこをはっきりしてもらいたいと思っています。
ともあれコメントに感謝します。
ありがとうございました。
2015/06/08
柳瀬陽介
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