2012年5月7日月曜日

ある私立学校で働き始めた卒業生からのメール


[以下はある卒業生が送ってくれたメールです。その卒業生の許可を得て(一部修正した上で)その文章をここに掲載します。]


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■生徒や授業について

私は○○県のとある私立高校に勤務しています。生徒の学力は、有名大学進学者から就職する生徒まで多種多様です。しかし、国公立大学に一般入試で合格できる学力を持つ生徒はごく一部です。中には”her”の読み方がわからない、”library”が綴れないという生徒も散見されます。

また自分で何かを考えることができない、しない生徒が多いと感じています。私が「なぜだと思う?」、「どうしたらできるようになると思う?」という質問をするとフリーズしてしまう生徒も多くいます。その原因は彼らに自分で考える習慣がないからではないかと思います。私の勤務校では「ウチの子はできないから」ということで、様々なサポートを教員が行います。担任が各生徒の進路候補を調べあげたり、学年団の先生が駐輪場の整理まで行います。柳瀬先生のよくおっしゃっているスプーンフィード [spoonfeed, spoon-fed]の典型ではないでしょうか。親切で生徒思いな良い先生が多い分余計に、生徒の自ら考える機会を奪っているように私は思います。かく言う私も生徒たちがとても可愛く、彼らの力になりたいという思いが先立ち、彼らの成長する機会を取り上げているのではないかと不安になります。

私は週40時間中、週20時間主に3年生の授業を担当しています。もともと集中力を45分間維持する事が難しい生徒が多いので、生徒のモチベーションの維持に四苦八苦する毎日です。良い授業ができたなぁと思うこともあれば、完璧に失敗してしまったと思うこともあります。最初は良い授業だと思っても後で考え直してみると、生徒たちは何かを学んだのだろうかと疑問に思い、不安になる事も多いです。


■教員について

この一ヶ月間働いてみて感じたことですが、教職員の世界というのは私が思っていた以上に保守的でした。生徒指導に関しては、生徒に対して権威的、強圧的に振舞う方が非常に多いです。職員室では非常に温厚な先生も生徒の前では「威厳」を保つのにお忙しそうです。「生徒になめられんようにせんといけん」というセリフもよく聞こえてきます。なぜ生徒と敵対する必要があるのかよくわかりません。確かに生徒を叱るというのは、手っ取り早く問題行動に対処できる手段です。しかしそれでは生徒たちも感情的になってしまい、改善策などを自ら考える機会が台無しになってしまうと私は思います。こういった点に関しても、勉強していきたいと思う毎日です。



■教英の後輩へ

ここからは学生の皆さんに向けて書こうと思います。
教英の多くの皆さんは公立志向だと思います。なので私立学校勤務者として、私立学校って面白いなと思う部分を紹介します。


・様々な経歴を持つ先生

私の勤務校には一般企業や塾講師経験者など多種多様な経歴をもつ先生方がたくさんいます。放送、アパレル、商社、大手予備校など私が知っているだけでも、意外な経験を持つ先生方がいます。そういった先生方と共に仕事をするのはとても刺激的で面白いです。また、私立学校というのは中小企業ですから顧客である生徒や保護者(特に保護者)をとても大切に扱います。保護者対応の時、一般企業特に接客業の経験のある先生というのはひと味も二味も違います。接客などしたことなく、他人からの第一印象も悪い私は、その点について非常に不安でした。

先日幸運にも、元接客業の先輩教員とペアを組んで仕事をする機会がありました。彼の仕事ぶりを観察しダメもとで挑戦する中で、形だけでも真似をすることができるようになってきたと思います。こういった経験は公立学校ではなかなかできないのではないでしょうか。

・メリハリのあるお金の使い方

私の勤務校はマンモス校です。しかし残念なことに、普通教室に視聴覚機器は存在せず、ALTも存在しません。公立学校のように教職員へのPCや文房具などの支給もありません。一方で、PCの無償貸与や個人学習スペース(特定コース限定ですが)、野球場やサッカー場のある広大な専用グランド(運動部の部室には冷蔵庫があります)があります。お金を使うところ、使わないところの差が非常に激しいのも私立学校の特徴といえるのではないでしょうか。

・教英はすごい

教英の学生の皆さん、教英はすごいところです。教英を誇りに思ってください。私の勤務校では、私を含め9人の新卒教員がいます。その中で、教育学部出身は私だけです。その他の他学部出身の先生方は授業作りにとても苦労されています(私が苦労していない訳ではありませんが)。彼らの話を聞くと、生徒が何が分からないのか分からないし、授業で何をすればいいのか分からないそうです。私の勤務校の生徒の学力はお世辞にも高いとは言えません。そして同期の先生方は、なかなかの高学歴揃いです。また、教育に関する教育を受けていないため自分が高校時代に受けた授業しか思い浮かばないようです。

ですが、私たち教英は色々なレベルの生徒が存在すること、私達には信じられないような段階でつまづく生徒がいること、様々な授業のやり方がある事を4年間で学ぶはずです。当たり前のことですが、この差が非常に大きいと私は痛感しています。教授法系の講義にあまり熱心でなかった私ですら多大な恩恵を受けているのですから、皆さんの受ける恩恵は計り知れないでしょう。今、猛烈に樫葉先生の講義を受けたいです。


・ウェブで学ぶ

また柳瀬先生にも感謝しているところです。柳瀬先生にはウェブで学習することの素晴らしさ、有益さを教えてもらいました。しかしこの素晴らしさを知っている人は意外に少ないというのが、最近の私が感じるところです。ベテランはもちろん、若い先生方の多くもインターネットは「オモチャ」という認識が一般的なようです。分からない事はまず検索するという習慣のない人も多いです。私がウェブ上の教材を使って授業の準備をしているとよく驚かれます。

教員というのは、授業以外の仕事がなぜかとても多いです。そのため授業準備に割く時間がないという本末転倒な事態もよく見受けられます。学生の皆さんは是非学生のうちにウェブで学習する、授業を作るという習慣をもつことをおすすめします。少なくとも、分からないことはググる習慣をつけ、ウェブ上にはたくさんの優れた教材や教案が転がっていること(ただし英語)を知っておいてほしいです。


・最後に

まだ教員歴一ヶ月の私が言うのも恐縮ですが、教員というのは本当に楽しく、素晴らしい職業だと思います。初出勤から始業式までの一週間、私は仕事に行くのが本当に苦痛で真剣に辞めようかとも思いました。大学院に進学しておけばよかったなぁ、と本気で後悔していました。しかし始業式も終わり生徒が登校してくるようになると、そんな思いはどこかに吹き飛んでいきました。彼らと話をしたり、彼らと授業をするのは本当に楽しいし、面白いです。もちろん考え込んでしまったり、戸惑ってしまうことはたくさんあります。ですがそんな事は苦にならないほど、彼らと共に過ごす時間は刺激的でエネルギーに溢れるものです。




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