2017年10月12日木曜日

松村昌紀(編) (2017) 『タスク・ベースの英語指導 TBLTの理解と実践』 大修館書店



以下は、大修館書店の『GCD英語通信』(60, October, 2017) の30-31ページに掲載していただいた『タスク・ベースの英語指導 TBLTの理解と実践』についての私の書評です。大修館書店編集部様の許可を得て、このブログにも掲載します。

良書です。編著者の前著の『タスクを中心とした英語授業のデザイン』と共に多くの英語教育関係者がしっかりと読んでいただければと思います。



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広汎な情報を凝縮した知恵があなたの授業観を変える


「タスクベースの英語指導」(TBLT: Task-based Language Teaching) と言われても、特に興味を抱かない方も少なくないかもしれない。なにせ、小中高のほとんどの授業は、言語的目標の提示と定着という構造をとっているからだ。いわゆるPPP (Presentation - Practice - Production) である。大学のシラバスを見てもTBLTは、ほとんど見当たらない。「TBLTは海外のもの。日本ではPPP」というのが日本の英語教育界の「常識」なのかもしれない。

 しかしもし日本が世界の中でおそらく「英語教育にもっとも熱心な国」であると同時に「学習者がもっとも英語下手な国」であるとしたらその「常識」を疑うことも必要だろう。ぜひ本書を手にとってほしい。

 理論編の第一部と実践編の第二部から構成された本書は、TBLTについて系統だった理解が得られるように編まれている。だが、もしあなたがTBLTについて否定的な見解をもっていたり、ほぼ無知だったりしたら、第二部(実践編)の最初の第5章から読み始めるといいかもしれない。特に表5.1の「タスクのタイプと例」に注目したい。授業に創意工夫を凝らしている教師なら「これはやっている」、「これならできる」と思える活動が次々に頭に浮かぶだろう。そして続く第6-8章で小中高大の実践についてより具体的に学ぶ。それから第一部(理論編)の第4章を読みTBLTについての懸念や疑問を解消すれば、TBLTは自分とは縁遠いものとはとても思えなくなるだろう。

 しかし本書の真価はここからだ。TBLT実践についてのイメージをもった上で、本書冒頭章の第1章と最終章の第9章をぜひじっくり読んでほしい。日本の英語授業は「教室の中のゴール」を目指すことだけに終始していないか、英語教師の指導と評価は「自己完結の檻」に閉じ込められていないか、ことばの習得とは本来「楽しみながら自然にできるようになっていくこと」ではないか―これまで一顧だにしなかった考えにあなたは新しく深い意味を見出すだろう。その上で第2-3章でTBLTの応用言語学的・教育学的考察(文献情報がすばらしい)を読む。その頃には、この本はあなたの英語授業を根底的に変えてくれる記念的な書となっているかもしれない。

 常識を疑い、より真実に近づくことは容易なことではない。それには、広汎な情報を凝縮した知恵が必要だ。編著者の前著の『タスクを中心とした英語授業のデザイン』と共に、本書を授業に関する具体的で深い思考に導いてくれる良書として多くの実践者・研究者に心からお薦めしたい。

(やなせ・ようすけ・広島大学教授)










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