本日、私の所属講座での入学オリエンテーションがありました。教師として気持ちが新たになる日です。以下は、大学院と学部のそれぞれの新入生に対して私がした挨拶です。
大学院新入生への挨拶
新入生の皆さん、教育学研究科英語文化教育学講座、略して「教英」の大学院へようこそ。
私は最近写真を趣味にしており、今朝も出勤途中に何枚か写真を撮りました。主な被写体は植物ですが、撮影するたびに自然の美しさそして偉大さを感じます。
私も近代人として各種のテクノロジーを利用し、大規模組織の恩恵を受けている者ですが、自然はどんな人工物にも優るというのが私の正直な思いです。
ただ、こういった見解を述べる時に、私たちは「自然と人間」を対立したもののように考えがちです。しかし、人間も自然の一部です。"Human nature" ― 「人間の自然」あるいは「人間性」は自然の一部です。
ですが、人間という動物は言語を高度に操り、さらには文字言語までも発達させたので、古くはピラミッドや王国から、
現在では原子力発電所や官僚組織あるいは高度な資本主義システムまで、巨大な人工物を作りあげるまでになりました。そしてそれらの人工物は、環境というい
わば「外なる自然」だけでなく、心という「内なる自然」も損なうことがあるというのは周知の通りです。
言語というのは、人工物を作り管理するために必須の媒体ですが、同時に人間の内なる自然 ― human
nature ― をも表現できる媒体でもあります。言語によって、私たちは自然と人間 ―言い換えるなら外なる自然と内なる自然―
の間をつなぎ、そこに調和を見出すことができます。また、それを決定的に損なうこともできます。
英語は、近年ますます強力な言語、地球最大の権力的な言語であるという認識が広まり、また、実際、多くの場所で使われるようになってきています。私たちは、その英語という言語を教えるということについて研究をします。
その研究は、外なる自然と内なる自然を損なうことにつながるのでしょうか。それともそれらをつなぎそこに調和を見出
すことにつながるのでしょうか。権力者をますます富ませ、弱者をさらに弱体化させるために使われるのでしょうか。それとも人間がもつ権力という力を、人権
思想と民主主義の理念に基づき、すべての人に与え、内なる自然と外なる自然を豊かにするために使われるのでしょうか。もう少し具体的な言い方をします。英
語教育はエリートとそうでない者の選別に使われ、その過程で両者の心を荒廃させ、結果、社会と自然環境を損なうことにつながるのでしょうか。それともすべ
ての人々の心を豊かにし、人間と自然の調和をもたらすことにつながるのでしょうか。
大学院の具体的な指導では、細かなことを言うことが多いと思います。しかし、研究とは何のために行うのか ― この理念について考えることを忘れないでください。
一緒に学びましょう。ご入学おめでとうございます。
学部新入生への挨拶
新入生の皆さん、教育学部英語文化系コース、略して「教英」へようこそ。
皆さんは大学で、教育学部で、そして教英で何を学ぶのだろうと、期待と不安を胸に思案しているかもしれません。「何を」という学びの対象に興味が行くのは当然ですが、教育学部で皆さんをお迎えするにあたっては、興味の焦点を「何を」ではなく「学ぶ」の方へと移すことをお勧めします。
これまで皆さんの「学び」、あるいは「勉強」は、先生が言われたことを怠けずに忠実にやることだったかもしれません。しかし残念ながらそれは十分な意味での「学び」とはいえません。
それでは深い意味での「学び」とは何か?それはなぜ行うものなのか?私はここで皆さんに安直な答えを申し上げるつもりはありません。考え始めてください。しかし、より深い学びを体得する時、皆さんは自分自身と周りの人々を確実に幸せにできる人間になること、これだけは今、確言しておきます。
と、最初から抽象的なお話をしてしまいました。皆さんの中にはこのスキンヘッドは、ひょっとしたらお坊さんかと疑い始めた人もいるかもしれません(違いますけど)。ですから、わかりやすいことを付け加えます。
私は一教員として、また今年度の講座主任として、皆さんの個性を見出すこと、そしてそれを伸ばすことを心がけます。皆さんのよいところをできるだけ引き出すつもりです。
ですが、時には皆さんに注意や叱責をしなければならない時もあるかもしれません。注意や叱責は最小限に抑えたいので、今ここで私は私なりの原則を明示しておきます。
「自分を含めた人を大切にする」― これが原則です。
ですから、もし皆さんが、他人を大切にしなかったり、自分自身を大切にしない言動をしたりした場合は、注意や叱責をします。そうでない限り、できるだけ皆さんのよいところを伸ばすよう心がけます。
「学ぶことそのものを学んでほしい」ということ、そして、「自分を含めた人を大切にする」ということ、この二つが皆さんの入学にあたり、私が述べたいことです。皆さんの「学び」を変えてください。そして自分も他人も大切にしてください。改めて入学おめでとうございます。