2014年5月9日金曜日

カレン・フェラン著、神埼朗子訳 (2014) 『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする』大和書房



「英語教育学者」なる人々の一部は、各種学校に赴き、コンサルタント業務のような真似をする。私が見るに、そのやり方には少なくとも二種類ある。

一つは、自分の過去の経験なり、文部科学省の政策なり、自分が好んでいる研究なりを絶対の物差しとしてしまって、それを当事者にとにかく押しつけるやり方。

もう一つは、訪れた学校の様子をよく観察し、その観察に基づく事実を指摘しながら当事者である学校の教師の間でのコミュニケーションを促進し、当事者自身の中から知恵が湧き出るようにするやり方。

いうまでもなく学校によい結果をもたらすのは後者だが、「英語教育学者」コンサルタントには存外に前者のタイプが多いように私には思える。


現場の観察もそこそこに、当事者と話し合うこともほとんどせずに、一方的に一定のやり方を押しつけるのは、この本の著者によると、経営コンサルタントにも多いという。著者は、「目標による管理」や「競争戦略」などのお題目を唱えて(3ページ)、論理的な分析を行いさまざまなモデルや理論を駆使して(1ページ)、その結果、会社を傾かせてしまった経営コンサルタントを代表して詫びるためにこの本を書いたという。

もちろん著者を含めたコンサルタントが、すべてコンサルティングに失敗したわけではない。成功例もある。だが、その実質は当事者・関係者の連携とコミュニケーションを促進したことにすぎなかった。しかし、そう言ってしまっては、ありがたみがなくなり商売にならないので、表向きは適当なお題目を唱えていただけだった(21ページ)。人間的側面を切り捨て、お題目を文字通り押し付けた場合、かえって経営が悪くなったことの方が多いというのが著者の見解だ。

著者は、ビジネスとて所詮は人間の営みであり、人間には非理性的で感情的で、独創的でクリエイティブであったりもするから、そんな人間が理屈どおりに動くはずはない、と自身の経験を振り返り総括する(23ページ)。

しかし理屈で考えれば、いくつかの数的指標(数値目標)を定めて、その評価基準をもとに経営すればうまくいくように思える。

だが現実に起こることは、部下は評価基準ばかり気にして、上司と意味ある会話をしなくなること(158ページ)、あるいは評価基準に関することしかやらなくなること(136ページ)、データ分析や報告書の作成ばかりに追われて、みんなで実際に問題に取り組む時間がなくなること(100ページ)、時には評価のための数値を操作してしまうこと(136ページ)、上層部も数値ばかり気にして、まるでダッシュボードの数値ばかり見ながら自動車を運転する人間のようになり、大失敗をしてしまうこと(136ページ)である。

逆に評価基準をなくせば、人々は自ら考え、判断力を行使し、互いに協力せざるをえなくなると著者は言う(132ページ)。

もちろん、この前提は職場の人間関係が良好で、皆が仕事に意味を見出していることである。だからこそ著者は、「モデルや理論などは捨て置いて、みんなで腹を割って話し合うことに尽きる」と著者は対話や人間関係の改善を第一に考えることを訴える(28ページ)。

評価指標は、せいぜい参考にすべきものであり、管理の方法になってはいけないと著者は訴える。ましてや評価基準とインセンティブ制度を絡めて懲罰的な効果が出てくるようになると、評価指標そのものが目的になり、本末転倒が起こってしまう(133ページ)。

そもそも評価基準を、やたらと数値化しようとするところに落とし穴がある。たしかに (1) 「半年で10キロ痩せる」という目標と (2) 「体力をつけ、心身の健康を改善する」という目標(あるいは目的)を比べると、 (1) の方が測定可能であることから、多くの人は (1) の方がよい目標と考えるかもしれない。しかし、(1) を達成したとしてもも ―とくに鞭で脅されて達成した場合―、リバウンドしたり、体調を崩したりすることは想像に難くない(133ページ)。

だがしばしば組織は単純な数値を目標に掲げることを好み、当事者・関係者が主体的に考えないようにしてしまう。かといって多岐にわたる多くの指標を設定し、それを複雑怪奇な方程式などで統合しようとしても、当事者・関係者はデータ入力に追われるばかりだ(そもそも机上で考えられた方程式が、変化してやまない現実に適応できるのかも疑わしい)。

著者は、「これ以上、職場から人間性を奪うのはやめるべきだ」と訴える(23ページ)

あるいは、訳者のあとがきのまとめの表現を借りるなら、著者の主張は「コンサルティングにおいて重要なのは方法論やツールではなく、対話」であり、「クライアント企業は経営をコンサルタント任せにせず、自分たちでもっとちゃんと考えるべきだ」(316ページ)とまとめられる。

近代組織では ―あるいは官僚的組織ではというべきだろうか―、どうも人間的な要素をできるだけ減らし、無人格的(もしくは非人格的)システムを導入することこそが進歩だと思われることが多い。その信念は、疑われるべきだろう。

コンサルティング業務のようなことをする「英語教育学者」も、自らの売り物である過去の経験や文科省の政策や特定の研究論文ばかり見つめるのは止めて、当事者・関係者をよく見て、彼・彼女らの声に耳を傾けるという、人間として当たり前のことを優先すべきではないか。

人間として当たり前のことをしなくなることが進歩や改善につながるわけがない。










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