2013年5月22日水曜日

尾崎俊介(2013)『S先生のこと』新宿書房





この本に描かれている「S先生」こと須山静夫先生のことは、以前恩人の方に教えられて若干の間接的な知識をもっておりましたが、それ以降記憶の隅の方にいってしまい、5/12(日)毎日新聞の書評欄(執筆は堀江敏幸先生)でこの本の発刊を知るにいたって、ようやく記憶が蘇ってきました。

5月26日にはじめて日本英文学会シンポで発表させていただく(というより英文学関係の学会に初めて参加)機縁もあり、発表前に読めたらと思い、書店に注文をかけておりました。

先週末から月曜にかけてそのシンポの準備やたまっている仕事などで特に根を詰めて働き、昨日火曜日にいつものように連続3コマ講義をしましたらさすがに疲れて、山のようにたまっている仕事をする体力も気力もなくなり、早めに帰宅しました。

夕食を済ませたら少しは気力も蘇り、そういえば書店から『S先生のこと』が届いていたと思い出し、少し読み始めましたら、もう一気に読んでしまいました。



よかった。この本を読んでおいてよかった。私は再度「文学」という営みに対する敬意(というより畏敬)を新たにすることができました。

私は上記の学会シンポでは、英文学研究者ではない部外者としてトリックスター的な役割を果たそうと考えていますが、トリックスターには、それが対抗する本流の文化に対する洞察が必要です。その洞察をこの本を通じて少しでも得られたことは大変に幸運なことでした。

いや、この本はそのような偶発的な意味を超えて、文学という営みについて深く、深く感じさせる本です。いや「文学」を超えて、「人が生きること」と言うべきでしょう。



「人が生きるということ」を志向しない文学も文学研究もありえないし、同じことは英語教育にも英語教育研究についてもいえると思います。

「はっ、これまた人文系趣味ですな」と揶揄される方もいらっしゃるかもしれませんが、私は自然科学に敬意を払うからこそ、表面だけ自然科学的手法を真似ただけの研究に対して批判的であり、人間を扱う教育学というのは人文系の素養を忘れてはいけないと思っています。

一人の人間が運命に翻弄されながらも生きるということ、そして生き続けるということ、さらに人間を扱う学問を行うということについて考え感じたいなら、この本は深い印象を残すと思います。

ここで「S先生」のエピソードのいくつかでも紹介すればいいのかもしれませんが、紹介し始めると終わりそうもありません。ここではご興味を抱いた方にご一読を勧めるにとどめておきたいと思います。

この本を上梓して下さった著者の尾崎俊介先生、およびこの本にふさわしい表紙カバーや写真を掲載して下さった関係者の皆様に深く感謝します。





















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