この度、組田幸一郎先生が書かれた学習参考書『基礎からのシグマベスト 高校これでわかる基礎英語 (新課程版)』に推薦文を書かせていただきましたので、出版社の許可を得て、ここにも転載します(スペースの関係で実際に掲載されたのは、以下の文章の前半だけですが、ここでは全文を掲載します)。
推薦文末尾にも書きましたが、この本をきっかけの一つとして、英語がわかり、英語を身につける人が一人でも増えますように。また、この日本で英語を学ぶことの意義についての考察も少しでも深まりますように。
学習英文法の三大構成要素は、英語、教師、生徒です。学習英文法は、一方で英語を熟知し、他方で英語学習に困難を覚える生徒のことを共感的に理解している教師によってもっとも良く書かれます。
ですから学習英文法は、学術研究用の英文法と異なります。学術研究用英文法の構成要素は二つで、それは英語と研究者です。研究者はとにかく英語の全貌に迫ろうと、ありとあらゆる記述・説明を行います。そんな英文法の読者は、同じように毎日英語のことばかり考えている研究者ですから、読者への配慮などは二の次です。とにかく正確に包括的にと、記述・説明はどんどん高度になってゆきます。
そんな学術研究用英文法を生徒がそのまま読んでも、たいていの場合は困り果ててしまいます。大切なところと瑣末なところ、最初のうちに知っておくべきところと後になって学ぶべきところ、一般化していいところと個別事象として理解するべきところ ― これらが判断できずに、膨大で緻密な記述・説明に呑み込まれてしまうからです。
だからよい学習英文法は、生徒をよく知る英語教師によって書かれます。生徒が常日頃何に・どのように感性を働かせ、何を・どのように考えることを得意に(あるいは不得意に)しているかを熟知している教師(あるいは教師の心をもった研究者)によりデザインされます。学習英文法と学術研究用文法は、英語を基盤にする点では共通していますが、その用途とデザイン原理、ひいては著者と読者において大きく異なるのです。
さらに学習英文法は、生徒が英語の仕組みを理解することだけでなく、体得することまでも含めてデザインされ、書かれます。英語の仕組みを身につけるには、何を・どのように・どのくらい体験すればよいかについてのある程度の見通しをもった英語教師の見識がここでも必要になります。文法を読んだ後に読者が何をするべきかについても配慮しているのがよい学習英文法です。
こういった点で、私は本書をよき学習英文法の一冊としてお勧めします。
本書はいくつかの特徴をもっています。
第一に、本書は生徒が実感できるような解説や説明を重んじています。各章冒頭にある良雄と理恵(そして犬のポチとテラ)のエピソードは何気ないようですが、このエピソードの生活実感から、これまでとかく抽象的に扱われ、多くの生徒のつまづきの石となっていた三人称・受動態・比較表現・仮定法などがうまく導入されます。
第二に、本書は日本語をうまく使っています。2013年4月入学の高校1年生から、学習指導要領という文部科学省の方針によって「授業は英語で行なうことを基本とする」ことになります。ですが、生徒が十数年間思考の道具として使ってきた日本語をうまく使わない手はないでしょう。本書は、直訳と自然な日本語翻訳の両方を提示したり、日本語の仕組みと英語の仕組みの違いを対比させたりして、生徒がもっている最高の知的資産である日本語をうまく使って英語を理解させようとしています。
第三に、本書は生徒がつまづきやすい箇所を効果的に扱っています。通常は「形容詞、分詞の形容詞的用法、関係代名詞、to不定詞の形容詞的用法」などとして別々に扱われがちな英語の仕組みを「飾る」と働きとしてまとめているのがその好例です。「飾る」働きにおいては、英語と日本語では語順が異なることが多いので、このつまずきやすい箇所をまとめて、しかも本の最初の方で扱っているのは本書の大きな特徴の一つと言えるでしょう。
第四に、本書は生徒が英語を身につけるための手段と方法を具体的に提示しています。この本を読む生徒の皆さんは、ぜひ章末の英文を「リスニング・音読・筆写」してください。ダウンロード音声も親切で、ゆっくりな速度と自然な速度の二つのバージョンで英文朗読が吹きこまれています。どうぞダウンロード音声を使って、素直に「リスニング・音読・筆写」を行なってください。水泳の理論をいくら机の上で勉強してもそれだけで泳げるようにはなれませんよね。英語も同じです。英語の仕組みを学んだら、次にはその仕組みが多用されている(しかも結構おもしろい)英文を何度も聞いて、音読して、書き写してください。
このように、本書は中学英語の復習から高校基礎レベルの英語を学ぼうとする高校生にお勧めの本です。教室や少人数学習、個人学習の場でうまく活用できるでしょう。それだけでなく、英語をさっぱり苦手としていて英語をやりなおそうとする社会人にもお勧めできます。さらには英語教師の方々、「英語教育学」という研究をなさっている方々にも一読をお勧めします。この本をきっかけの一つとして、英語がわかり、英語を身につける人が一人でも増えますように。また、この日本で英語を学ぶことの意義についての考察も少しでも深まりますように。
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