2008年1月3日木曜日

2008年の研究目標

新年の御挨拶を申し上げます。2008年が皆様にとりましてよい一年でありますように。

年頭にあたりまして2008年の研究目標を立てたいと思います。



■2007年の総括

 昨年は忙しくも充実した年でした。

 Output面では田尻科研シンポ開催、英授研とJACETでの講演、全国英語教育学会、日本言語テスト学会での口頭発表を行い、うち全国と日本言語テスト学会での発表に関しては論文投稿(の準備)ができました。

 Input面では、Exploratory Practiceに関するKobe-Oxford Seminar、あるいはSymposium on Second Language Writing、Independent Learning Association Conferenceといった国内で開催された国際学会に参加して、一言では言い表せないような刺激を得ました。その他にも国内外の本当に素晴らしい方々と交流あるいは新たな出会いができたのは本当に幸せなことでした。2008年は、この2007年の流れを活かして、できるだけ地道な勉強を大切にし、私が長年果たし得ていない言語・国境に縛られない研究活動へと少しでも近づこうと思います。


■研究テーマ

 私の研究テーマを一言で語るなら「コミュニケーション」となります。

 通常、私は自分の研究活動を、(1)第二言語コミュニケーション力論、(2)英語授業の質的研究、(3)英語教育の哲学的探究、と説明しています。「コミュニケーション」はこれらの三つのサブテーマに通底しています。(1) については明らかかもしれませんが、昨年ニクラス・ルーマンの論に再会することができ、コミュニケーションの社会的側面についての考察を充実させる見込みが立ちました。(2) に関しては、これまたルーマンのコミュニケーション論に準拠することによって、「何がよい英語教師をつくりあげているのか」といった考察に進むことができました。(3) はまだまだ形になっていないのですが、ネグリとハートの論考に基づいての探究を目指しています(その萌芽は『日本の英語教育に必要なこと』での論考で示しました )。これについてもネグリとハート自身が言うようにルーマンのコミュニケーション論において(世界)社会を考えることができるのではないかと思っています。このように私は「コミュニケーション」をキーワードにして、(1)英語教育評価論、(2)英語教員養成・教師教育、(3)英語教育目的論に関して、原理的な考察を目指しています。



■2008年のinput目標

(1) ルーマンの著作
 ルーマン・ノートをきちんと作ろうと思います。「ノート」とは私が好きな古典的な勉強法で、著書を丁寧に読み、そこで重要と思われる箇所を徹底的に抜き書きするものです。翻訳がある場合は、翻訳文と原文を併記します。ルーマンの著作はドイツ語ですから、これに伴いドイツ語の再勉強もしようと思います。ルーマンの主著に関しては、まだまだ日本語訳も英訳も出ていないものも少なくなく、それらに関しては私の現在のドイツ語力では歯が立ちませんが、まずは日本語訳が出ている著作のノートを作り上げる中で、少しずつドイツ語の読解力を上げたいと思います。

(2) 応用言語学のalternativeな流れ
 Sociocultural approach, ecological linguistics, critical applied linguisticsなどについてはここ10年あまりで英語圏ではかなりの研究が蓄積しています。私はこれらについて本当に表面的な知識しかもっていませんので、今年(こそ)はきちんとこれらの文献を読みたいと思います。その際、ルーマンのコミュニケーション論は、社会性、エコロジー(《システム》と《環境》の関係)、批判(の自己言及性)といった観点で、文献解釈に独自の貢献を果たしてくれるかもしれません。しかしこれらの文献に関しては、牽強付会を怖れ、まずは広範囲に読みたいと思います。

(3) 実践者との対話
(自分を含めた)英語教育の実践者との対話はこれからも重視してゆきます。実践者の知恵を掘り起こすことは私の最も重要な仕事の一つです。また、対話を重ねる中で、Exploratory Practiceやルーマンのコミュニケーション論についての考察も深めてゆきたいと思います。2007年はせっかく素晴らしい出会いができながらも、それを文章化してブログ掲載することができないことが多くありました。私の場合、文章化することにより理解が深まりますから、今年はできるだけ文章化を怠らないようにスケジュールを予め組み込みたいと思います。

⇒目標達成のための方法:(1)と(2)に関しては常時、関連書籍を携帯。(3) に関しては対話ができる機会についてスケジュールを優先。


■2008年のoutput目標

(1) 英語教育実践者の成長に関する本の刊行
 これは共同プロジェクトで進めているのですが、刊行するまでに予想以上の時間がかかっています。今年はなんとしてでもこの刊行を成功させたく思います。

(2) 田尻科研についての本の刊行
 三年がかりの「田尻科研」がこの三月で終了します。その成果を本の形で公刊したく思います。

(3) 英語での発表・投稿
 「言語コミュニケーション力の三次元的理解」について勉強し直し、英語で書き直そうと思います。 その準備も兼ねて、明治学園の井ノ森先生にいただいた4/12(土)JALT北九州支部での発表機会で、このテーマについて昨年のJACET、日本言語テスト学会以上に発展させて口頭発表させていただこうと思います。また、自分の勉強のために8/24-29のAILA (Essen, Germany)に参加だけはしようと思います。

(4) 日本語での発表・投稿
 広島大学の教員としては、中国英語教育学会、全国英語教育学会の学会活動を支える責務を持っていると考えます。6/21(土)の中国地区では田尻科研で発表した「何がよい英語教師をつくるのか----ルーマン的考察」)を練り直した発表、8/9-10(土日)の全国では何らかの形の発表で貢献したいと思っています。

 もちろん私のアイデンティティは広島大学教員だけではありませんから、その他の学会にも積極的に参加します(というより私は、学閥意識は嫌いです)。ですから、2/2(土)に広島大学総合科学部で開催される日本言語テスト学会広島研究集会では「コミュニケーションのテスト、テストのコミュニケーション」(仮題)で40分の口頭発表(+10分の質疑応答)をする予定です。

⇒目標達成のための方法;これらのoutputに関しては長期的な計画が必要ですから、日々の仕事で優先順位をはっきりさせてゆきたいと思います。また、いわゆる「社会貢献」については、すでに私の力量以上の仕事を引き受けていますから、これ以上は基本的にすべてお断りし、少しでも研究に時間を注ぎたいと思います。日々の仕事では、ただでさえ締切の厳しい事務仕事・書類作成に時間を取られ、教育と研究に時間が取れません。仕事はできるだけ合理的に進め、優先順位を守りたいと思います。

 以上です。これから一年どのような年になるかわかりませんが、短期的・長期的に合理的なタイム・マネジメントを行い、できるだけ充実させた一年としたいと思います。

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