2007年12月3日月曜日

田尻科研シンポに寄せられた感想(その3)

S大学のN先生のご感想

柳瀬先生、

シンポジウムお疲れさまでした。さきほど広島より東京に戻りました。田尻先生のパフォーマンスだけでなく、企画自体もすばらしく非常に有意義な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。

○○をはじめいくつかの高校と共同研究をしていますが、現場の知見を可視化し、共有化するためのノウハウの蓄積が必要とのメッセージには非常に共感しました。言語教育文化人類学的な研究がもっと増え、田尻実践に留まらず多くのすばらしい実践が単にすばらしいだけに終わらないとよいと常に感じており、今回のシンポジウムは非常に啓発的でした。

田尻実践における教師論としてのコミュニケーションの特異性とルーマン的解釈は謎解きを見ているようでとても爽快でした。創造的刺激を与え、常に学習者自らの気づきを起こさせることを志向するだけに留まらない、具体的な仕掛け作りのうまさはまさに内省的アプローチによって常に洗練し続けられてきたのだということが実感できました。

私が関わっているCAN-DO研究も作った結果だけに意味があるのではなく、作る過程で教師が自分の内的シラバスを外に出し、スキル観を見直し、毎回の自己の授業に内省的に取り組めるようになることが重要だと考えています。そしてそれにより授業の縦糸と横糸がつながっていくことでしょうか。

田尻実践のすごさはずば抜けたコミュニケーション感覚や共感力の高さにプラスして、クラスのmixed abilityをうまく利用して、他者に教えることによる関係性欲求の充足を実現しているところにもあるように感じています。

私自身が動機づけ研究でずっとテーマとして興味を持っているのが、自律性を支える関係性であり、この科研で何かそこに光が当たる結果が得られたようでしたら、ぜひいつかの機会にお伺いできるとよいなと思っています。

あともう一つ関心があるのは、田尻実践における言語発達観であり、対談で紹介されたエピソードにあったような数ヶ月先を見通して、その時のまさに目の前の
生徒に合わせて活動を自在に組み替えることを可能とする透徹した視点です。ドリルを捨てることによって創造的な授業を作り上げているのではなく、スキル的
積み重ねを1年の最初の段階から行っており、それを可能とする言語観の一部なりともが、この科研を通して解明されるとよいなと思っています。

田尻先生の『お助けブック』も内容的に付加えられたものが、別の形で出されると聞きましたが、以前に生徒の作品を見せていただいたときに、文と文とのつなぎのうまさに驚嘆した覚えがあります。まさにこれこそが文科のめざす「ことばの力」であり、こういった言語に対する高い感受性をどのように生徒に育ませているのかの一端なりがわかるとよいなと思っています。

個人的には最近論理的思考力とともに物語る力に興味を持っており、このあたりは先生がコミュニケーション力の柱として考えられているmindreading abilityと関連してくるのかなと漠然と考えているところです。

ついついシンポジウムに刺激を受けて長文を書き散らしてしまい、失礼をいたしました。これも先生に宛てたメールを介した自己との対話ですね。

何らかの形で今回の科研の成果が出版され、目を通させていただく機会があることを楽しみにしています。

感謝と御礼まで。

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