大修館書店『英語教育増刊号』に今年も「英語教育図書--今年の収穫・厳選12冊」という長めの書評記事を書かせていただきました。選んだのは以下の書です。どのような興味を持つ読者が、どのように読めば面白いかを私なりに考えて記事は書いたつもりです。
この書評だけでなく増刊号は、毎年「総括と展望」として「英語教育日誌」、「2007年度入試の特徴とその対策」、「英語教育関係刊行図書一覧」、「英語教育関係学会・研究会案内」などを掲載しており、資料価値が高いものになっています。
また今年の特集「声に出して読みたい英語」は、英語の名文とその解説で、ぜひ手元に置いておきたいものです。どうぞ皆様、お買い上げのうえお楽しみください。
*****
田邉祐司・松畑熙一・服部孝彦・坂本万里・Charles Browne編著『がんばろう!イングリッシュ・ティーチャーズ!』三省堂
杉本義美『中学校英語授業指導と評価の実際』大修館書店
樋口忠彦・緑川日出子・高橋一幸編著『すぐれた英語授業実践』大修館書店
門田修平・池村大一郎編著『英語語彙指導ハンドブック』大修館書店
阿原成光『お祭り英語楽習入門—いじめは授業でなくす』三友社
瀧口優『「特区」に見る小学校英語』三友社
松川禮子・大下邦幸編著『小学校英語と中学校英語を結ぶ』高陵社書店
田中慎也『国家戦略としての「大学英語」教育』三修社
江利川春雄『近代日本の英語科教育史』東信堂
金谷憲・英語診断テスト開発グループ著『英語診断テスト開発への道』英語運用能力評価協会
廣森友人『外国語学習者の動機づけを高める理論と実践』多賀出版
ゾルタン・ドルニェイ著、八島智子/竹内理監訳『外国語教育学のための質問紙調査入門』松柏社
2007年9月21日金曜日
2007年9月17日月曜日
英語教育研究のメジャーリーグ化?
「ポストモダン」という言葉は、日本語の文脈ではどこか空疎に聞こえます。80年代の流行語に過ぎないようです。「グローバル」という言葉も、日本の英語教育界では掛け声だけのようにも聞こえます。これまた80年代の「国際化」と同じような語られ方をしているに過ぎないことが多いからです。
しかし私が今回参加したSymposium on Second Language Writing(名古屋学院大学)のような国際会議に出ると、"postmodern", "global"という言葉はまさに現実を表現する言葉であることを実感します。"Modern"の枠組みで作られてきた世界が、全地球化しようとし、その結果、西洋発祥の"modern"を超えた世界のあり方が、逆流するように(元)西洋に、乱流するように(元)東洋に浸透している現実が"global"に現れつつあるということです。
もちろん「グローバル化」とは「アメリカ化」に過ぎないという意見もあります。しかしそのアメリカ自体が異種混交化をさらに加速しているとすればどうでしょうか。今回の学会の基調講演者のLourdes Ortegaさん(University of Hawai'i)、Jun Liuさん(University of Arizona)、Miyuki Sasakiさん(名古屋学院大学)、あるいは実行委員長のPaul K. Matsudaさん(Arizona State University)にしても、少なくとも大学教育まではそれぞれ祖国で祖国の言葉で過ごした人たちです(Matsudaさんは高校まで)。その後、彼女/彼らは、アメリカに知的活動の拠点を置き、 TESOL(Teachers of English to Speakers of Other Languages)を代表する人物として活躍しています。関係者の話によると、このシンポジウムは、アメリカで行われていたTESOL関係の学会が、アメリカ以外に進出したものとして評価されているそうです。そしてこのシンポジウムで聞かれた発表は、日本以上にESLではなくEFL、つまり英語が「外国語」としてしか使われていないアジア諸国の社会文化状況を捉えようとしたものでした。もはやこのような学会は、20年前に私が感じていたようにアメリカのESLだけに関する学会でなく、グローバルにESLとEFLを語る学会になっているといえるのかもしれません。ほとんど日本にしかいない私が、アメリカ発の学会での環太平洋圏各国の研究者からの発表に、日本の英語教育学会の日本人による発表以上のリアリティを感じたのは不思議な感覚でした。英語での言説は、グローバル化し、世界のさまざまな社会文化を取り込みうる懐の深いものになりつつあるのかもしれません。
なんだかメジャーリーグを思い起こすような話です。以前は白人だけだったメジャーリーグも、最初はアメリカ国内の黒人を取り込み、そして現在、急速に世界各国からのプレーヤーを取り込んでいます。取り込むだけではなく、メジャーリーグも積極的にアメリカ国外に出ようとしています。好むと好まざるにかかわらず、日本の野球ももはやメジャーリーグを無視しては語れません。「助っ人」としてメジャーリーガーに頼るだけではなく、優秀な日本人選手はメジャーリーグでプレーすることを選び、その何人かはもはや「日本人選手」としてというよりは「メジャーリーガー」として認知され尊敬を受けています。日本のテレビも時に日本のプロ野球以上にメジャーリーグを特集したりします。メジャーリーグはグローバル化しようとし、アメリカ発のメジャーリーグが、世界各地のプレーヤーとファンを取り込み、そして同時に彼らに取り込まれています。昔の枠組みなら「異種」に過ぎなかったものが混交し、それが新しい現実を作り上げているようです。その新しい現実は、これまでの枠組みでの「現実」よりも、より私たちの日常感覚に近づき始めているとは言えませんでしょうか。
私はこれまで日本の英語教育の現実を捉えるためには、日本語で書かれた英語教育の文献を読んでいたほうがいいと思っていました。「輸入学問」で、日本の現実を無理やり外国の枠組みで捉えることに強い警戒感をもっていました。しかし、もはや日本の英語教育を考えるためにも、英語での文献をこれまで以上に読むべきなのかもしれません。これまで以上に、自分も英語での言説に参加し、「異種混交」のプロセスに身をおく必要があるのかもしれません。「メジャーリーグと日本野球」、「英米の英語教育研究と日本の英語教育研究」などというこれまでの二項対立を、相互排他ではなく、相互浸透の関係で捉えることが必要なのでしょう。
しかし私が今回参加したSymposium on Second Language Writing(名古屋学院大学)のような国際会議に出ると、"postmodern", "global"という言葉はまさに現実を表現する言葉であることを実感します。"Modern"の枠組みで作られてきた世界が、全地球化しようとし、その結果、西洋発祥の"modern"を超えた世界のあり方が、逆流するように(元)西洋に、乱流するように(元)東洋に浸透している現実が"global"に現れつつあるということです。
もちろん「グローバル化」とは「アメリカ化」に過ぎないという意見もあります。しかしそのアメリカ自体が異種混交化をさらに加速しているとすればどうでしょうか。今回の学会の基調講演者のLourdes Ortegaさん(University of Hawai'i)、Jun Liuさん(University of Arizona)、Miyuki Sasakiさん(名古屋学院大学)、あるいは実行委員長のPaul K. Matsudaさん(Arizona State University)にしても、少なくとも大学教育まではそれぞれ祖国で祖国の言葉で過ごした人たちです(Matsudaさんは高校まで)。その後、彼女/彼らは、アメリカに知的活動の拠点を置き、 TESOL(Teachers of English to Speakers of Other Languages)を代表する人物として活躍しています。関係者の話によると、このシンポジウムは、アメリカで行われていたTESOL関係の学会が、アメリカ以外に進出したものとして評価されているそうです。そしてこのシンポジウムで聞かれた発表は、日本以上にESLではなくEFL、つまり英語が「外国語」としてしか使われていないアジア諸国の社会文化状況を捉えようとしたものでした。もはやこのような学会は、20年前に私が感じていたようにアメリカのESLだけに関する学会でなく、グローバルにESLとEFLを語る学会になっているといえるのかもしれません。ほとんど日本にしかいない私が、アメリカ発の学会での環太平洋圏各国の研究者からの発表に、日本の英語教育学会の日本人による発表以上のリアリティを感じたのは不思議な感覚でした。英語での言説は、グローバル化し、世界のさまざまな社会文化を取り込みうる懐の深いものになりつつあるのかもしれません。
なんだかメジャーリーグを思い起こすような話です。以前は白人だけだったメジャーリーグも、最初はアメリカ国内の黒人を取り込み、そして現在、急速に世界各国からのプレーヤーを取り込んでいます。取り込むだけではなく、メジャーリーグも積極的にアメリカ国外に出ようとしています。好むと好まざるにかかわらず、日本の野球ももはやメジャーリーグを無視しては語れません。「助っ人」としてメジャーリーガーに頼るだけではなく、優秀な日本人選手はメジャーリーグでプレーすることを選び、その何人かはもはや「日本人選手」としてというよりは「メジャーリーガー」として認知され尊敬を受けています。日本のテレビも時に日本のプロ野球以上にメジャーリーグを特集したりします。メジャーリーグはグローバル化しようとし、アメリカ発のメジャーリーグが、世界各地のプレーヤーとファンを取り込み、そして同時に彼らに取り込まれています。昔の枠組みなら「異種」に過ぎなかったものが混交し、それが新しい現実を作り上げているようです。その新しい現実は、これまでの枠組みでの「現実」よりも、より私たちの日常感覚に近づき始めているとは言えませんでしょうか。
私はこれまで日本の英語教育の現実を捉えるためには、日本語で書かれた英語教育の文献を読んでいたほうがいいと思っていました。「輸入学問」で、日本の現実を無理やり外国の枠組みで捉えることに強い警戒感をもっていました。しかし、もはや日本の英語教育を考えるためにも、英語での文献をこれまで以上に読むべきなのかもしれません。これまで以上に、自分も英語での言説に参加し、「異種混交」のプロセスに身をおく必要があるのかもしれません。「メジャーリーグと日本野球」、「英米の英語教育研究と日本の英語教育研究」などというこれまでの二項対立を、相互排他ではなく、相互浸透の関係で捉えることが必要なのでしょう。
2007年9月11日火曜日
大津由紀雄『英語学習7つの誤解』NHK出版(生活人新書)
英語学習は、ダイエットと似ています。どちらもブームで、多くの人が無関心ではいられません。ともに魅惑的な宣伝文句が並びます。「○○するだけでよい!」「△△は必要ない!」「悪いのは□□だった!」。これまで成功しなかった私たちを慰め、夢を与えてくれるような文句が好まれます。
しかし英語学習もダイエットもそんな単純なものではありません。専門家の役割は、そんな一般人のコンプレックスにつけこんだような商売に便乗することではなく、英語学習やダイエットの原理をわかりやすく解説することでしょう。そこでは厳密な科学者の目と、健全な常識人の感覚の両方が必要です。そしてその両者を兼ね備えた人はなかなかいません。
ですが、英語学習においてはこの良書があります。認知科学者でありながら、なみの英語教育の専門家とは比べ物にならないほど大きく、英語教育(特に小学校英語教育)に対して啓発的な活動を行っている大津由紀雄さん(慶應義塾大学)です。
この読みやすくコンパクトな新書は「しっかりとした英語を身につけたいと思っている方々、そして、将来のためにお子さんに英語を身につけさせたいと考えている方々を念頭において」(4ページ)書かれたものです。話の流れは、英語学習について、ダイエットと同じようにはびこっている誤解を、丁寧に解き明かすというものです。
その誤解とは
の7つです。どれもどこかで聞いたことのあるような見解ではないでしょうか。それらを大津さんは、認知科学の知見を引用したり、健全な常識を働かせたりして、これらの誤解に挑みます。
といってもこれは英語学習に関する知的探究だけに終わっている本ではありません。付録2では英語辞書と英文法書の親切なガイドがあります。付録1は、英語学習の根底にあることばの深さをわかりやすく語った名エッセイです。
「英語ってどうやったら身につくの?」この単純な疑問を持つ方、あるいはこの疑問をぶつけられる方はぜひ本書をお読みください。
⇒アマゾンへ
しかし英語学習もダイエットもそんな単純なものではありません。専門家の役割は、そんな一般人のコンプレックスにつけこんだような商売に便乗することではなく、英語学習やダイエットの原理をわかりやすく解説することでしょう。そこでは厳密な科学者の目と、健全な常識人の感覚の両方が必要です。そしてその両者を兼ね備えた人はなかなかいません。
ですが、英語学習においてはこの良書があります。認知科学者でありながら、なみの英語教育の専門家とは比べ物にならないほど大きく、英語教育(特に小学校英語教育)に対して啓発的な活動を行っている大津由紀雄さん(慶應義塾大学)です。
この読みやすくコンパクトな新書は「しっかりとした英語を身につけたいと思っている方々、そして、将来のためにお子さんに英語を身につけさせたいと考えている方々を念頭において」(4ページ)書かれたものです。話の流れは、英語学習について、ダイエットと同じようにはびこっている誤解を、丁寧に解き明かすというものです。
その誤解とは
(1) 英語学習に英文法は不要である
(2) 英語学習は早く始めるほどよい
(3) 留学すれば英語は確実に身につく
(4) 英語学習は母語を身につけるのと同じ手順で進めるのが効果的である
(5) 英語はネイティブから習うのが効果的である
(6) 英語は外国語の中でもとくに習得しやすい言語である
(7) 英語学習には理想的な、万人に通用する科学的方法がある
の7つです。どれもどこかで聞いたことのあるような見解ではないでしょうか。それらを大津さんは、認知科学の知見を引用したり、健全な常識を働かせたりして、これらの誤解に挑みます。
といってもこれは英語学習に関する知的探究だけに終わっている本ではありません。付録2では英語辞書と英文法書の親切なガイドがあります。付録1は、英語学習の根底にあることばの深さをわかりやすく語った名エッセイです。
「英語ってどうやったら身につくの?」この単純な疑問を持つ方、あるいはこの疑問をぶつけられる方はぜひ本書をお読みください。
⇒アマゾンへ
登録:
投稿 (Atom)
