私は理系の方による英語教育論や英語学習論には特に耳を傾けるようにしています。科学者や技術者は、文系以上にはるかに切実に英語使用を必要としており、なおかつ、英語学習に時間をかけられないから本当に合理的に学習を進めなければならないからです。実際、例えば、理系の方が作られた「ライフサイエンス辞書」の一連のサービスは素晴らしいものです。
ライフサイエンス辞書プロジェクト
http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/index.html
ライフサイエンス辞書オンラインサービス
http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/service/weblsd/index.html
http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/index.html
ライフサイエンス辞書オンラインサービス
http://lsd.pharm.kyoto-u.ac.jp/ja/service/weblsd/index.html
そんなわけで、私は以前、「英語教師は理系に学ぼう」(http://www.eigokyoikunews.com/columns/y_yanase/2009/04/post_2.html)という連載記事を書いておりました。その後多忙になり、この連載は中止しましたが、「英語教師は理系に学ぼう」というのは私の一貫した方針です。必要に迫られて英語を学習し教育する理系の方こそが、学校英語教師の教師になることは多々あると信じているからです。
さて、この度、共に寺島隆吉先生(岐阜大学名誉教授)を敬愛するという縁で、私は、鹿児島大学水産学部教授で海洋生物工学と環境毒性学を専門としながらもゼミ生を対象に英語教育実践を重ねておられる板倉隆夫先生と知り合うことができました。
私がこんなことを言ってはかえって失礼になるかもしれませんが、最初に頂いたメールも、とても誠実で、かつ読み手のことを非常に配慮した合理的な書き方になっていましたので、メールを読んだだけで、いいお仕事をされている人だなということを拝察することができましたが、下にも掲載した71ページにもわたるPDFファイル資料(「理系英語の基礎 英語の「見える化」ではじめてわかる英語」)を拝見して、これはぜひこの実践について、多くの英語教師・英語教師志望者に聞いてもらい、共により合理的で効果的な英語指導法を作り出してゆく機会を設けるべきではないかと思いました。
そうして、広島大学での講演会を提案しますと、快諾していただきまして、この度、講演会を開催することになりました。
以下は、板倉先生による発表概要とPDF資料です。まずはこちらを御覧ください。
*****
発表概要
地方大学の理系研究室で起きた奇跡
- 「はじめて英語がわかった」 -
鹿児島大学・水産学部 板倉隆夫
【ふつうの大学における現状】
当学部で学生アンケートを実施すると,多くの学生は「英語は嫌い」と回答する。英語力調査を実施すると,1年生から4年生まで,学年を追うごとに英語力が低下している。英文をそれなりに解釈できる学生が,いないわけではない。しかし,多くの学生は,大学の共通教育の単位は取ったのに,英語がわからないと感じている。現在の日本の英語教育の問題点は,英語がしゃべれない,聞けない以前の,英語がわからない,ということである。
【なぜこのような状況が?】
日本の学校教育では,英語がわかっているかどうかを問わない。英文を英語として,人の言葉として理解しているかどうかを問わない。和訳では,品詞も考えずに辞書を引き,得られた訳語をつなぎ合わせて訳文をでっち上げることになりがちである。試験のためには,和訳を丸暗記する。他の形式の問題には,持っている知識と,英文解釈技術,問題解答技術で対応する。それで生徒は点数を取り,単位を取る。そして,教師は,英語教育が成り立っているものと錯覚する。
【そのような状況の中で偶然生まれた学習法】
美味しい料理が,素材と調味料の組み合わせでマグレできてしまったように,1つの学習法が偶然生まれた。ただ,用いた素材と調味料の良さもあったかもしれない。既に定評のある記号研方式(元岐阜大学寺島隆吉氏による)に,日本語と英語の違いを克服するための,すなわち英語学習の本質を見据えた調味料を加えた。具体的には,和訳付きの英文テキストを用い,英文中に簡単な記号をつけることによって,日本人が苦手とする,自動詞・他動詞の区別,副詞句・形容詞句の区別をした。さらに,SVOCを指摘し,意味の固まりごとのチャンク訳を行った。この手法を,英文の意味を英語としてわかる(見える)ようにするということで,英語の「見える化」と呼称する。
【実践と結果】
この学習法を,2008年に研究室ゼミ,大学院「英文輪読」で採用すると,「はじめて英語がわかった」という声が学生の中に起こった。非常勤講師の先生方4名の賛同が得られ,2010年から,学部1,2年生対象の「実用英語」(3科目),さらには共通教育「英語コア」(2科目)でも実践が始まった。2013年には,全学のAO入試合格者向け英語補習授業でも実践した。
2008年にこの手法で英語を学んだ学生の1人が,現在博士課程で英語の論文の読み書きを一応こなしている。2010年に学んだ1年生は卒論生となって英語の論文をイヤな顔もせずに読んでいる。以前は,研究室で英語の論文を紹介するゼミを開催しようとすると,担当の大学院生が出てこず,ゼミがお流れになるということが続いた。そのことを思えば,現状は奇跡であるといえる。
【なぜこの学習法が成果を生んだのか?】
英文を英語として理解するために,すべての語句の意味と品詞を押さえ,さらにすべての修飾関係を矢印で示すようなことをすれば,学習者は情報量の多さに圧倒されて英文の理解どころではなくなるであろう。「見える化」で用いる記号づけは,修飾関係を示す矢印を(原則として)用いない。前置詞句を[ ] で囲み,形容詞句ではその右肩に「a」を付けるだけで直前の名詞を修飾することを示す。副詞句による修飾は,チャンク訳の語尾で理解できることが実践でわかってきた。動詞は丸で囲むが,他動詞では右端に角を付けるだけで他動性が示され,学習者はその後の目的語を自然に期待できるようになる。「見える化」は,英語学習の本質を考えながら,ふつうの大学生でも実行可能なほど負担が少ない,すなわちコストパフォーマンスの高い学習法であったことが,成果が生まれた最大の理由であると考えられる。
「見える化」は,学習者が英文を英語として理解することを補助するだけでなく,英文テキストに既に和訳が付いている場合でも,学習者自身が,記号づけ,SVOCの指摘,チャンク訳をすることは,英文構造と品詞の理解を学習者に要求するため,教師が学習者の理解度を把握する手段ともなる。
なお,英語の「見える化」では,発音の学習のために,発音するときに大切な口の形(「ハミング8メソッド」よる)を表記する。現在は,記号づけに,SVOCの指摘,チャンク訳,ならびに口の形の表記を含めて英語の「見える化」と呼称している。
「見える化」について詳しくは「理系英語の基礎」(PDFファイル)
当日投映予定パワーポイントスライド
上記のPDF資料については、私が「本当に公開してもよろしいのですか」とお尋ねしたところ、「結構です。著作権のことなど考えておりませんから」とのお答えをいただきました。PDF資料の最終ページにも書かれているように、板倉先生は、高い志でこの資料を公開されております。時々英語教育界には、小さな点に拘り、足を引っ張るような言挙げばかりする方もいらっしゃいますが ―自分の優位性を常に主張しておかないと不安なぐらいに自我が脆弱で不安定なのでしょうか―、ここはお互いが助けあってよりよい英語教育実践を作るために、この資料を使っていただけたらと思います。
というわけで、以下の要領で、板倉隆夫先生の講演会を開催します(鹿児島大学非常勤講師のハミング発音スクールの大庭まゆみ先生も参加されます)。学校英語教師の方、塾・予備校の方、それからもちろん英語教師を希望する学部生・大学院生の方、どうぞふるってご参加ください。
講演会
地方大学の理系研究室で起きた奇跡
- 「はじめて英語がわかった」 -
開催日: 2013年12月7日(土曜)
場所:広島大学教育学部K108教室 (地図はこちら)
参加費:無料(ただし茶話会に参加希望者には、その時に茶菓代を徴収させていただきます)
スケジュール:
開場: 13:30
講演会:14:00 - 15:00
質疑応答:15:00 - 15: 30
茶話会(希望者のみ): 15:30 - 16:00
(茶菓代代として100円を徴収させてください。こちらで簡単な茶菓を用意させていただきます)
※スケジュールはあくまでも目安です。場合によってはスケジュールを後にずらして講演・質疑・茶話を楽しむ場合があります。最大延長は17:00です。
茶話会は同じ会場で行います。いろいろなお話をする格好の機会ですから、ぜひお残りください。
PDF資料:「理系英語の基礎 英語の「見える化」ではじめてわかる英語」は大部ですので、こちらでは印刷しません。当日、資料を見ながら話を聞きたい方はご自分で印刷してもってきて下さい。参加費無料ですので、ご協力をお願いします。
申込: 必要です。下のフォームから申し込んで下さい。申込締切は11月30日(日曜)です。
以上です。皆さん、どうぞお誘い合わせの上、お越しください。
よいコミュニケーションができる会にしたいと思っております。どうぞよろしくお願いします。
0 件のコメント:
コメントを投稿